第2話 地下商店
そこには元号が二つ前くらいのレトロな地下商店街が広がっていました。
「やっぱり電車はないのか…」
少しだけ、ほんの少しだけ地下鉄に変わったのかなと期待を込めながら下ったのに見事に裏切られましたね。
それに商店は全て閉まってますし。
天井は低く、両隣に商店のある一本道のシャッター通り。
そうとしか言いようがない寂れた場所はすえたような臭い匂いでいっぱい。
電灯なんてないのに青くて明るい寂しさの色で満ちていてなんだかホラー感に溢れてる色味空間。
乾物屋に占い屋にれすとらん。よくわからないファンシーって言葉が似合いそうな雑貨屋にデカい薬局カエルに道祖神や錆びたホーロー看板などなど、変な形の字の看板を眺めているだけで楽しいですね。
いや楽しんでいる場合ではないのか。
けどここどこ?
さっきいたあの人たちは?
誰の姿形も見えないんですけど。
一本道だし、仕方なく進もうと僕はダラダラと歩き出した。
◆
「…」
どれくらい歩いたのか、十字路に差し掛かる手前で足を止めた。
「なんだかよくない気配がする」
ただの勘だけど、昔からだいたい当たるんです。
このシックスセンス的な何かで待ち伏せしてる不良とか先生とか高校二年の今の今まで、いろいろかわしてきたんですよね。
まあ、適当に名付けているけど、ただの虫の便りという奴。知らせだっけ。
「ッ…!」
何となくだけど、プレッシャーがある。
多分勝てない。
いや、勝つとか負けるとかじゃなくて死ぬと思います。
だけど、変だ。
本能というか、魂みたいな根幹が、闘争しろと訴えかけてくる。
行け行け殺殺と促してくる。
「…」
でも無視。強引に無視。
痛いのは嫌いなんですよぉ。
幸い迫ってくるタイプじゃないぽい。
少しだけ引き返すとシャッターをこじ開けなくても入れそうな商店を見つけた。
少しだけ下に隙間があるんですよ。
見逃したのか緊張していたのかはわからないけど、助かった。
ちょっと休みたい。
シャッターは錆び付いてもなく、ジャララララと開いた。大きな音がしたけど閉めれば何処かわからないんじゃないかな。
「それより…」
人生で初めてシャッターを上げた高揚感がすごい。
それは僕にとって割と大きかったようで、何度も開け閉めしたくなる。
それは無視できない。
しかも電動じゃないタイプ。
ぐぅッ!
でも我慢した僕は偉い。
とりあえず指を引っ掛け、シャッターを無理矢理引き下ろして考える。
「これ、中からでも開けれるのかな…」
当たり前だけど、僕の呟きに誰も答えちゃくれない。
大きくため息を吐き、改めて商店の中を見ると、どうやら雑貨屋みたい。よくわからないウネウネとしたタコとイカ混ぜたみたいな気持ち悪いマスコット付きのキーホルダーを手に取ると風化したみたいにして崩れ、空気に溶けて消えた。
「…不思議商店と名付けよう」
僕はとりあえず全ての棚を棚ごと倒した。
思った通り音はならなかった。
そりゃ霧散したんだし鳴ったらおかしい。
頭おかしい行動だと自分でも思うけど、これでいきり立つ闘争心も柔らかくなると虫の便りを踏んだだけ。知らせだっけ。
いや、これはイライラというよりムラムラに近いかも。
生命の危機なのかな。
いや、そういえばずっとか。
最初は確か七月の…初めくらいだったかな。
そこから無視に無視を重ね続けてはや半年。
慣れたかなーと思ってたけど、最近は特にキツく感じてきていた。
そのムラムラが不思議とこのシャッター通りに来たら増したような気がする。
ただの遅れた思春期だと思ってたんだけどな。
こんな時は明鏡止水、虚心坦懐、光風霽月、晴雲秋月…ってどれが適してるのかわからなくなってきたね。
「ん?」
棚が消え去るとその場には小さなメダルが落ちていた。10円硬貨くらいの大きさで厚みは500円硬貨くらいの綺麗なメダルだった。
「なんて読むんだこれ」
よくわからない文字が描かれていて、全てピンクゴールドみたいな色。数字はなく、裏にはどこかの低い山、あるいは丘が描かれていた。
「…建造物のようにも見えるね」
掠れていてやっぱりよくわからないけど、ズボンのポケットに入れて家探しを始めました。
ここも電灯は点いてないのに何故か明るい。
明るいなら気にしない。
暗かったらビビるけど。
どうやら二階はないらしく、家探ししたところ、合計32枚のメダルを手に入れた。
「なんか…いいな。これ」
さっきからどんどんと闘争心が削がれていく気がします。
争いなんて好まないからありがたい。
それから僕はシャッター街を引き返し、開けれるところというか全てこじ開けた。
ええ、そうなんです。
この小さなメダルの虜になったんです。
プレッシャー? ムラムラ? 電車? 出口?
そんなのすっかり忘れて夢中で集めましたね。
多分これ、夢の中でしょうし。
集め終わったら目が覚める説に全ベットします。
ルルっルー。
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