生まれ滑るドットナックス
墨色
第1話 人形女子
唐突ですが、修羅場です。
「いやっ! 離してっ!」
「なんでだよっ! 昨日はオッケーしたろ!」
昼飯にしようと校舎屋上に来てみると、明らかに嫌がる女子の甲高い叫び声が飛び込んできた。
具体的に何をオッケーしたのかは知らないけど、そりゃないぜと男子はゴリゴリ食い下がってます。
「知らないっ! 離してってば!」
「知らないってことはねーだろ!」
これ、女心と秋の空を目の当たりにしてますね。
え? 助ける?
いや?
ないない。
面倒だから。
でも動画をオンして爆速で裏垢作ってライブ配信ゴーしてますよ?
選択肢はそれしかないかなと。
誰だってそうすると思います。
「このっ! ゾンビのくせに生意気だぞっ!」
哲学ですかね。
どこの世界線でしょうか。
うーあーってるならともかく、どこをどー見てゾンビだと断定したのか全然わからないくらい女の子は嫌がっていますが。
グールみたいにがっつくお前に言われたく無いんじゃないかな。
「くそがっ! 早くしゃぶれよッ!」
「や、やめてッ!」
「…」
軟派こそが硬派と言わんばかりの、むしろどこを突っ張ってるのか心配になるレベルの、とんでもなくぶっ飛んだセリフに僕はフリーズ。
新しいスタイルの不良?
いや、流石に「喋れ」っすよね?
空はとってもいい天気ですし。
そんなセリフ、お天道様の下で聞こえるはずもないですしおすし。
「お前もセカンドの
「……」
どうやら聞き違いじゃないみたいっすね。
セカンドもオドナシも何か知りませんが。
そうして僕は、この学園で起きている不可解な不思議と、昨日の忘れたい白昼夢と関連があるのかなと、面倒だけど、回想してみることにしました。
撮るだけだと暇だしね。
◆
昨日の朝。暑く気だるい朝のこと。秋全然こねーなぁと、いつものように満員電車に揺られつつ、学校に着き、ダラダラと教室に入った。
そして存在の薄い女子を見つけた。
隣の隣の隣の席の女の子。
名前は…なんだっけ。
「…じゃなくて、誰だっけ…?」
「何言ってんだ?」
前の席の男子が僕の呟きを爆速で拾った。
「や、なんでも…」
びびった。あんまり話さない奴に突然話しかけられると緊張する。
「ルミカがどーしたんだ?」
どうやら目の前の席の男子には、その子が普通に見えるみたい。
「何でもないよ」
なんとも形容し難いその存在の希薄さが目についただけ。
人の姿が嘘っぽいというか、熱量を感じない。まるで幽霊とか人形みたいに見えるレベル。
それに名前だって今思い出した。
黒川ルミカさん。
クラスでも可愛いランキング三本に入る美少女。
確か、目の前に座る彼の彼女だ。
羨ましい。
羨まし過ぎて存在を消してたのかな。
「はぁ…。お前もか。でもあいつ使えないんだよな…。やめとけよ」
「…うん」
そんな意味深なことを言って前を向いたクラスメイト男子だけど、僕は聞き返したり突っ込んだりしない。面倒だから。
でも疑問には思う。
使えないってなんだろうか。
トロいとかお荷物って意味だよね。
会社とかの。
バイト先同じなんだろうか。
それで別れちゃった系なのかな。
付き合ったことないからわからないけど、彼女に効率求めていったいどうするのだろうか。
デート無しで昆虫みたいなセックスするのかな?
羨ましい。
悶々とするじゃないですか。
ここ半年、下半身がおかしいくらい熱いですし。
とりあえずその日はいつもの一人屋上飯はやめて学園内を歩き回った。
購買に向かうと多くの人形ぽい生徒を目撃し、気になって立ち食いスタイルで彷徨い歩いたのです。
うちの学校は中より少し上くらいの私学の普通科高校。割と自由な校風と、男子はともかく女子の可愛い制服が人気で有名だった。
その可愛い制服のスカートを、限界ギリギリまで短くして踊る動画がバズったおかげで進学先に決める女子多発。
だからかみんなスカート短いのがデフォ。
ショーパンを履いてる子ばっかだけど、硬派なのか軟派なのかわからないノーショーパン派も一定数いる。
バズらせた先輩に習ってのスタイルらしいけど、満員電車とかヤバげだと思います。サラリーマンとか勘違いしそう。ちなみに変態ノーパン派は今のところ確認出来ていません。
でもいくら短いとはいえ、夏休みに差し掛かるくらいになると流石に慣れてくる。
だけど、おそらく県内でも有数の高パンチラ率のため、不意に目撃するとまた四月の衝撃に戻されてしまいますが。
先輩あざーす。
童貞にあざーす。
そんなパンツの話ではなく、わかったことは、僕と違って多かれ少なかれ友達はいて、その友人と他愛のない馬鹿話をしているのに、感情が薄い。
そんな薄く見える子、人形女子が複数いた。
友達との会話の温度差すごくてハブられないか僕如きが心配するレベルの能面具合。
けど、誰も気にしてないし、本人もそんな感じに見える。あくまで僕の印象だけど。
女子が多いけど、男子もいる。比率的には3対1くらいの割合。適当だけど。
まあ、発見したところでアクションなんて起こさないんですけどね。
他人にそこまで興味ないですし。
午後になり、人形よりテストの方が大事だとばかりに授業に専念していたら、いつの間にか昨日までの僕みたいに気にもしなくなっていましたし。
僕の勘違いだろうなと結論付けました。
話しかけたりしなかったのか? なんて聞かないでくれ。
それが出来たら放課後遊ぶ友達がいる。
それは少し憧れる。
帰っても暇だし。
まあ、クソな親のせいで元から人形みたいに感情が薄く、共感性も発揮出来ないせいで周囲と馴染めずぼっち。しかも共同作業でも使えないと高評価の僕なんで無理ゲーなんですけどね。
だから同じ境遇のように見える人が、ふと気になったのかな。そんな納得をしながら、いつものように帰宅ルーティンをこなし、学園最寄駅の改札を通った。
すると、いつものピッ、じゃなくてトプンと聞こえました。
まるで水中に潜った時の鼓膜の振動のよう。
「なんこれ?」
改札を通った瞬間、地下への階段があった。
最寄り駅では改札を通ると階段を上にあがるのに、下とは…なぜ?
しかも後ろと右左と天井には何にもない。
壁しかない。
「え、こわ」
改札も消え、唐突にわけわからん空間に出たんだもの。そりゃそう言うと思います。
表立ってパニックにならないのは昔から何にも考えてないからだけど、内心ではこれでも驚いている。
「いたっ」
ボーっと現実逃避してると、後ろから肩をぶつけられた。次々と壁から人が出てきたのです。いや変なこと言ってる自覚はある。でもそうとしか言えないしそうとしか見えないんですよ。
みんな無言で一様に階段を降りていきます。
話かける?
いやそんなことしない。
だって壁から出てくる人なんて普通に怖いし。
おそらくだけど、30人ほどが地下に向かった。男女、年齢共にバラバラの人たち。制服私服にサラリーマンにOLさん。
知ってる人はもちろんいない。というより、ええ、そうなんです。顔を見ないように目を逸らして足下見てましたね。難癖つけられたら怖いですし。
とりあえず僕はそのままその場に残り、人がいなくなってから壁を調べた。
コンコン。
ただのコンクリートの壁だった。
だよね。
「先に進めってこと?」
誰も答えてくれない、有無を言わさないこの感じ。ネトゲで言うオープンワールドってやつですかね。よくは知らないんですけど。
でも、チュートリアルが無いとどこ行ったらいいかわからないし、目的を教えてくれないと進めないんですよね。億劫で。
「はぁ」
僕はため息を吐き、仕方なく階段を降りた。
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