第4話
テキパキと私の採寸を済ませるとローレンさんは
『出来上がりをお楽しみに!!』
と笑顔で帰って行った。
夕食で
「今日、仕立て屋が来ていたって聞いたけど?」
と母に尋ねられる。父は改めて驚いた様で、
「まさか!フェリックス殿に夜会に誘われたのか?」
と驚いていた。……そう、フェリックス様に誘われるなんて、こうやって父が目を見開いて驚くほど……珍しいということだ。
大袈裟に言えば『天地がひっくり返っても起こり得ない』とでも言おうか。
母は私がデービス様と夜会に行く事にしたとは、父には報告していなかったようだ。
「いえ……フェリックス様ではなくデービス様にお誘いいただいたのです」
「デービス?どこの……」
「ルーベンス子爵のデービス様です」
「あぁ。養子に迎えたという……。知り合いだったのか?」
「図書館で良くお会いするので。利用する時間帯が同じみたいで」
「ほう。そうか。まぁ……あのフェリックス殿がお前を誘うわけないか」
頷く父に、ネイサンは、
「そんなのおかしいや。婚約者のお姉様を誘わず他の女性をエスコートするフェリックス様の方が間違ってるのに」
と尤もな事を言った。
「確かになぁ。だがこちらから文句を言うわけにもいかんし……」
あちらは侯爵家。父は何度かこの状況を見かねて私に『婚約を見直すか?』と声をかけてくれたのだが、父の立場を考えると『いえ、このままで』と答えるしかなかった。
正直、もう慣れた。フェリックス様とステファニー様が一緒に居る所を見ても胸が痛む事はない。
今から他の婚約者を探すのも大変だし。
そんな空気を振り払う様に、
「ではあの仕立て屋はデービス様?」
と母が尋ねる。
「はい。まさかドレスまで贈って下さるとは思っていなかったのですが……」
と言う私の答えに、
「ふむ。そのデービス殿とやらは、きちんとした常識のある男性の様だ」
と父は微笑んだ。……比べる相手がフェリックス様だと、大体の男性が『きちんとした』男性になるのだと思う。
夜会への参加を反対される事はなく、私は少しホッとした。友人と参加するのは問題ないとはいえ、私には一応婚約者が居る。まぁ、その婚約者に問題があるので、私が咎められる筋合いはない。
学園に行くと、何となく皆がざわついていた。
「今日はステファニー様が登園しているそうよ」
口々に皆が噂しているのを聞いて、そういう事かと納得する。
彼女は『王太子妃教育が忙しいから』と言う理由で殆ど学園には来ていない。
なので偶にこうして彼女が登園すると、皆が口々に噂すると言う訳だ。彼女は王太子殿下の婚約者、いずれはこの国の王妃となる人物。
皆、彼女のご機嫌を伺い、取り巻きになろうと必死だ。
そんな皆を横目に私はいつも通り本を読む。すると、誰かが私に近付いて来た。その気配に私は本から顔を上げてその人物を見た。
「アイーダ様?どうされました?」
そこには腕を組んで私を見下ろすアイーダ様が居た。
「貴女、ステファニー様に興味はないの?自分の婚約者と懇意にしている人物よ?」
「皆の様にステファニー様のご機嫌を伺いに行かないからですか?そういう意味なら別に興味はありません。それに、お世話になっているのはフェリックス様で私ではありませんから」
本のちょうど山場部分で声を掛けられた為、私は少し不機嫌だったのかもしれない。つい少し強い口調で私はアイーダ様に言い返していた。
しかし、アイーダ様は気分を害した様子もなく。
「……そりゃ、そうか。当たり前ね。でも、貴女がステファニー様に擦り寄っていかないから『婚約者の事でステファニー様を良く思っていないからだ』とか『嫉妬しているからだ。だけど勝ち目がないから、無視を決め込んでいるに違いない』って皆が言ってたわ……悔しくないの?」
どうもステファニー様の取り巻き達に、私は陰口を叩かれているらしい。
アイーダ様はそれを面白がっている……というより、私がそう言われるのを快く思っていない様だ。……やはりアイーダ様は根は悪い人ではないのだろう。
「アイーダ様、私を心配して下さったのですね。でも正直……もう慣れました!言わせたい方々には言わせておけば良いのです」
私がそう明るく言うと、アイーダ様は面食らった様な表情で、
「貴女って……大人しいだけかと思ってましたけど、案外逞しいのね」
と驚いていた。
私達は何故かそこからお互いの話になり、気づけばお昼休みも終わっていた。
「貴女とは仲良く出来そうだわ」
「奇遇ですね。私もそう思っておりました」
アイーダ様は笑顔で授業の準備へと戻っていった。
放課後になり、アイーダ様が私の元を訪れる。
「マーガレット様、この後ご予定はありまして?」
私はいつもの様に図書館へ行こうと思っていたのだが、誰かとの約束がある訳ではない。
「いえ……特には」
「では、最近話題のカフェに行きません?私の家の馬車があるのでご一緒に」
カフェ……。話には聞いた事があるが、行った事はない。私は少し躊躇ったがデービス様の言葉を思い出す。
『経験していない事を本に書くのは難しい』
私は別に本を書く予定はないが、何事も経験!
私は、
「ぜひ!よろしくお願いします」
とアイーダ様に返事をしていた。
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