▽第25話 粒子が引き寄せるモノ
休日から後日。
ここに来てから五日目、六日目、七日目。
連日続いた訓練とトレーニングの末にいよいよ一週間が過ぎた。
「んゅ?」
「ん……っ」
私は目覚める。
ここでの生活に順応出来てきたのか、シエルと一緒に朝の五時に目が覚めた。
今日で八日目の日。
実戦はいつ来るのだろうか。不安になる。
「起きなきゃ……」
ベッドから上半身を起こし、カーテンを開く。
窓から差し込む日光。
暖かい日差しとその眩しさに眠たげな意識が覚醒していく。
「おはよう」
「あ、シエル。おはよ!」
今日も今日とてシエルは私の部屋、私のベッドで一緒に寝て一緒に起きる。
悪くない日々。訓練やトレーニングで疲れることを除けば、とても良い日々だ。
「さぁ今日もボチボチ行きますか……ん?」
「うん?」
突然感じる、なにかの視線。自室の扉の向こう側から気配がする。
突然のことに私たちは気になり、自室の扉を開けた。
もちろん扉を開けた先の廊下には誰もいない。
「まぁ誰もいる訳ないよね」
「玄関も鍵締まっているから誰も入れないはず……」
「じゃあ、まさか? 幽霊……とか?」
「……支度終わったら武器庫行こっ!」
「ん? 分かった」
真剣な表情で突然の武器庫へ行く宣言。そんなシエルに疑問に思うことはあるが、まずは支度を始めた。
身を綺麗にし、身だしなみを整え、着替える、この一連の流れを素早くこなす支度。
そうして時間を少し要して準備は万端。
私は学生気分の萌え袖パーカーの制服、シエルはいつものセーラー服で部屋を出る。
「戸締りヨシ」
「行くよ」
指差しで戸締りを確認。
私たちは第七兵舎の一階にある武器庫に向かう。
すると一階に下った時点でなにか雰囲気が変わった。
「え、これ」
「するね、気配。やっぱり誰か忘れてる」
自室で感じた視線、気配。
それと同じものを武器庫から感じる。
そしてこの原因をシエルは知っている様子だった。
「アルクも来て」
「一人じゃ怖いもんね」
「それもあるけど、アルクに対処方を教えておきたいから」
「対処、ね。分かった!」
私はシエルと一緒に異様な気配を放つ武器庫へ近付き、生体認証でロックを解除して武器庫内へと入る。
部屋番号で分けられ、それぞれの武器の入ったガンロッカーが並ぶ武器庫内。
得体の知れないモノの気配がかなり強い。しかし武器庫を見渡しても異変はない。
「どこ、この気配の出元は……」
「出元、あったよ」
私が見ても分からないのに対して、シエルは気配の出元を見つけた様子。
そのままシエルの案内で気配の出元へと辿る。
「これ?」
「そう」
辿って足を止めた。目の前にあるのは203の部屋番号が付いたガンロッカー。
ガンロッカーには標準武器であるイズレット粒子銃が一つだけ寂しく入っており、よく聞くと稼働音が小さく鳴っている。
つまりこの銃は起動中。いつでも発砲出来る状態で放置されていた。
「この銃が良からぬモノを引き寄せてる」
「それ、マジの幽霊ってこと?」
「そういうこと。イズレット粒子は人体や環境に害もなくて便利だけど、こうやって起動して粒子を発生させたまま長く放置していると異界からなにかを引き寄せるの」
イズレット粒子――番組では古くから様々な兵器に採用されているクリーンで安全な無限のエネルギー源として紹介されていた。
それが良からぬモノを引き寄せるなんて、知らなかった。
「とにかく止めるよ」
「どうやって?」
「銃の下部分にあるボタンを押すだけ。今ロッカーから出すから、押してみて」
そう言ってシエルは他人のロッカーを開く。
「勝手にやっていいの?」
「なにかしらの異常が出る前に止めるのが最優先。それに銃を触った旨の張り紙と持ち主の調査依頼を出しておくから大丈夫」
「そういうことね」
「うん。じゃあ、ここを押してみて」
ロッカーから取り出され、シエルから渡されるイズレット粒子銃。
指差しで教えてもらい、私は指定されたボタンを押す。
すると銃の稼働音がなくなった。
「止まった?」
「ちゃんと止まった。次はお経、柱に設置された端末で流すから操作を見てて」
「なるほどね。分かった」
お経を流すと聞き、イズレット粒子銃に南無阿弥陀仏が刻印されている理由が分かった気がした。
こういう時のための魔除けなんだろう。
そう思いながらシエルの端末操作を見て覚え、武器庫内にお経が響き渡る。
「これで大丈夫。後は他人の銃を触った旨を書いてロッカーに貼る。アルクが一人でこういう場面に遭遇した時、このやり方で対処してね」
「うん。記憶しとくわ」
これで私はイズレット粒子が引き起こすことへの対処方法を一つ覚えた。
こうして今日という日はイズレット粒子を介した幽霊騒動から始まる。
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