▽第15話 ゲームと現実

 休む暇なくシエルに持って行かれた私。

 着いた先はまたも補給倉庫だった。


「射撃訓練、ここでするの? というか武器は兵舎に置いていっているし」

「大丈夫。今回は標準武器を使っての訓練だから」

「標準武器?」


 シエルの手によって生体認証装置が解除。

 補給倉庫の大扉が開かれ、再び倉庫内を目にする。


「武器置き場に行くよ。まずは武器を取る」

「あ、そのことなんだけど」

「どうしたの?」

「いやぁね? 私、拳銃くらいの武器より重い物があんまり持てなくて……」

「うーん、でも持ってみよ? 物は試しだから」

「あ、はい」


 ということで私は武器置き場に連れて行かれた。

 再びの武器置き場。そこでシエルは標準武器とやらを私の目の前に持ってくる。

 持ってきたのはゲームでも見たことある武器――武器選びの時に触った二つ。粒子銃とバツザンが模擬戦の時に使っていた拳銃ほどの大きさのエネルギーガンだ。


「これ、好きな方から持ってみて」

「じゃあこっちから」


 まずは私でも持てる拳銃――エネルギーガンから手に取った。

 今一番に出る感想は「軽っ」という言葉。模擬戦でマルチプルエネルギーガンを実際に使った後だと、手に収まる大きさで持ちやすいのがハッキリ分かる。でも攻撃力はゲーム同様に低そうだ。


「問題ないね。次、これ」


 お次は粒子銃。

 エネルギーガンと違って片手で扱える大きさじゃない。両手で持って初めて扱える代物であり、重さはそれなり。


「……オッケー」


 シエルから渡される粒子銃。

 私は粒子銃を持つ。


「ンンッ」


 武器選びの時に少し触ったのと同じく持てるには持てる。

 しかしこれを上下に動かすと、やはり重たく感じる。


「あら? あ、これ」


 持って動かして重たく感じながらも、銃を見れば思わぬものを発見。

 私はこの粒子銃――イズレット粒子銃から、ゲームにもあった刻印を見つけた。

 それは南無阿弥陀仏という刻印。銃のあちこちに刻まれている。


「すごーい、ゲームと同じじゃん!」


 ゲームと同じなのは興奮する。

 でも、ゲームのキャラと同じように銃を構えてみると「重い」と反射的に声が出るほど動かすのと同様に重く感じる。


「やっぱり大丈夫そうだね」

「結構重く感じるけど?」

「持てるなら大丈夫だよ」

「そうかなぁ……」

「たぶん、おそらく、きっと、大丈夫。アタシが保障する」


 本当に大丈夫なんだろうか。

 まぁなにを思ったとて、射撃訓練をやることには変わらない。


「行こう。足らないところはアタシが手伝う」

「よし……分かった!」


 私は銃を扱える不安だとか、大丈夫の言葉に確証のあるないを頭から捨て去る。

 やらなきゃいけないなら、やるだけのこと。

 チャレンジ精神の心構えでシエルの後を付いていく。


  ※


 走って疲れた後は射撃訓練。

 シエルに付いていった先は外、補給倉庫の裏側。

 こんなところに野外射撃場があった。


「先に拳銃からやる?」

「そうしようかなぁ。走った後でへとへとだから」

「了解。このレッグホルスターを付けてあげる。訓練開始したら拳銃をこれから取り出して射撃してね」

「オッケー、ガンマンになるわ」


 まず使うのは拳銃の方から。

 シエルに拳銃の入ったレッグホルスターを右脚に付けてもらう。

 美少女の手にたっぷり触られて気分はとても良い。


「準備はいい?」

「いつでもいいよ」

「分かった。位置について」


 そう言ってシエルは開始地点に指差した。

 私は指定された開始地点に移動し、射撃場を見渡す。

 起き上がるであろう的と的が移動するためのレール。開始地点から的までの距離はホログラムで表示されている。


「射撃訓練まで10カウント。的に素早く当てていって」

「はーい」


 ホログラム表示で示される開始までのカウントダウン。


 6・5・4……


 バツザンも使っていた拳銃、ゲームでは環境底辺の銃でどこまでやれるか。


……2・1


「射撃訓練開始」


 シエルの声とホログラムの0の表示が射撃訓練の始まりを示した。

 始まりと共に訓練用の的が起き上がる。


「やる!」


 私は素早くレッグホルスターから拳銃を取り出し、的に銃口を向けて発砲。


「撃ちやすい」


 やはりマルチプルエネルギーガンよりも扱いやすい。

 重量の圧倒的軽さで片手撃ちしやすく、反動はゲームの表現と違って皆無。エアガンみたいに起き上がる的に全て当てられる。


「すごいじゃん、これ」


 ゲームでは環境底辺だけど、この扱いやすさはとても手に馴染む。起き上がる的や移動する的にも狙いが付けやすく、ゲームでの弱い印象が完全に覆った。

 次々と的を倒していける。


「残り標的数、5」


 シエルの声とホログラム表示が終わるまでの残りを示す。

 最後の的。残り全ての的が連続して起き上がり、移動し始めた。

 私は的の挙動をハッキリ目視。素早く銃口を向けて、引き金を次々引いていく。


「終了」


 そして終わった。的を全て倒し終えた。

 ホログラムで表示される100点中80点の数字。


「すごい。初めてで、この点数……」

「えへへ! やったぜ!」


 シエルも驚く高い点数。これには気分も調子も良くなっちゃうね。


「……じゃあ次、イズレット粒子銃で。起動して安全装置は外したからね」

「はいよ! 次もハイスコア出しちゃうんだから!」


 自信が出てきた。

 エネルギーガンをレッグホルスターに戻し、シエルからイズレット粒子銃を受け取る。


「よし」


 持てるには持てる。重いと感じるけれど構えることも出来る。

 私は次も高い点数を取るつもりで再び射撃訓練の開始地点に移動。

 射撃訓練の開始を待つ。


「再度射撃訓練を設定。開始まで10カウント」


 8・7・6……


「がんばって、アルクなら出来る」

「うん!」


 気分も調子もいい。出来る気がする、次も高い点数を叩き出すことが。


……2・1・0


「開始」


 もう一度始まる射撃訓練。

 今度はイズレット粒子銃を両手で構えて起き上がる的を狙い、引き金を引く。


「重い」


 銃から放たれるビーム。

 腕の力が足りないからか、狙いが揺れて一発では当たらない。もう二発、三発と引き金を引く回数を増やして今度は的に当てる。

 さっきと違って明らかに命中精度が悪くなっている。


「これはダメかも……」


 エネルギーガン同様に反動はないが、銃本体の重さと撃てば撃つほど銃の加熱が手に伝わってきて次第に当てられなくなっていく。


「残り標的数、3」


 そうやって残りの的は三つ。

 当てられないで的が倒れる前に当てるつもりで何度も引き金を引く。


「終了」


 終わりを示すシエルの声とホログラム。

 イズレット粒子銃を使っての射撃訓練は終わった。

 肝心の点数。ホログラムで表示された点数は100点中42点だった。


「はぁ……重さが邪魔した」


 言い訳。筋力があれば解決したことだ。


「アルク、悪くない点数だよ」

「そうかな。さっきはいい点数取ったのに……」

「気にしちゃダメだよ? アルクは初めてなんだから」


 シエルから母性を感じた。

 良い結果出せなくて落ち込む心に美少女の優しい光。バブってオギャって依存したい。

 君は私の母になれる人物よ。


「む、なにか変なこと考えてる?」

「いやぁ……?」


 くんくん少し嗅がれて、悟られた!?

 ニュータイプか?


「エッチ」

「いやいや、YEAR……?」


 変態ではございません。

 こうして射撃訓練は終わりを迎えるのでした。

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