▽第16話 予定された死の影
初めての訓練を終えて昼食の時間。
訓練に使った武器を武器置き場に置いて、私たちは食堂に向かう。
「お昼は……」
「お肉! アルク、席を確保!」
「了解であります!」
食堂に着き、早々に視界に入る肉のたくさん入った献立。
シエルはテンションを高くしてトタトタと歩く足を速くさせ、早々に私とシエルの分の昼食を取りに行った。
こんなテンションのシエルは初めて見たかもしれない。
とりあえず私は朝食の時と同じく席を確保する。
「よう、アルク。訓練はどうだった?」
私を呼ぶ声。見れば、悪人面の変わらない二人――バツザンとガイセイがやって来た。
「大変だった、走るのは特に。でも射撃はいい点取れたよ、シエルに褒められたし!」
「バツザンと俺の見立て通りか」
「しかし体力がないのは問題だがなぁ」
「あはは……仰る通りで」
確かに筋力、体力を付けないといけない気がする。標準武器のイズレット粒子銃を全然扱えなかったし。
そう思っている内にテンション高めのシエルが二人分の昼食を持って戻ってくる。
「シエルが来たな。俺たちは昼飯食い終わっているから先に行くぜ」
「邪魔して悪かったなぁ。シエルとは仲良くしてやってくれよ」
悪人面の癖に気前のいい兄ちゃんみたいなこと言って、抜山蓋世コンビは去っていく。
「アルク! 持ってきた、食べよ!」
「はーい、シエル♡」
お肉多めの献立。白飯もあって満足出来そうな食事。
朝食に続いて昼食もガッツリ食べよう。
美味い美味い。
※
昼食後、第七兵舎の自分の部屋に戻っていく途中。
「ねぇ、今日のやることはもうない感じ?」
「予定が食い込んで来ない限りは、ない感じ」
ということなので、午後の予定に訓練はない。
「じゃあ帰ってのんびりだー!」
走って撃ってへとへと。
午後から休めるとか、社会人の身からしてこんなに嬉しいことはない。
そう思っていたら視界内に小走りで近付いてくるキョウコの姿が入った。
「アルク!」
「うん? キョウコさん?」
私の名を呼んで、キョウコは息切れせず目の前まで来た。流石に私とは体力が違う。
「001管理者がお呼びだ。管理部に至急向かってくれ」
「は、はい!」
あのメスガキ管理者から呼ばれている。
それだけ伝えたキョウコは早々に小走りで去っていく。
「噂をすればなんとやら」
「予定が食い込んで来たね」
「のんびりしたかったんだけどなぁ……」
「仕方ないよ。行って来て、アルク」
「はーい」
この後ゆっくり休む予定が180度変わり、私の体も180度旋回。
休めると思っていたところに差し込まれた予定のせいで更に疲れを感じる。そんな状態でシエルとは逆を進み、私は001管理者のいる管理部へと足を進めた。
※
疲れを感じながら、しばらくの移動。私は管理部の目の前にまで来た。
管理部の扉をコンコンとノックして「失礼します」と扉を開ける。
「あ、来たわね」
番号名付けメスガキ管理者のお出迎え。
やはり獣の耳と尻尾はなく、ただの白衣を着たピンク髪の少女だ。
「あのー……用って?」
「今までの行動報告をしてもらおうかなってね」
「行動報告?」
「ここに来てからのあなたの行動、感想、状態、事細かく教えて。口頭でいいよ」
まさか私、管理されようとしている?
でも雰囲気は緩め。機械的に兵器のような管理、というよりペットみたいに管理されようとしているかもしれない。
「じゃあ、いつの間にか森にいてシエルと出会ったところから話した方がいいかな?」
「シエル? まぁそこからでお願い。あ、座って」
長話になるかもだけど、報告を済ませてしまおう。
拒否して別の仕事を増やされるのは面倒だ。
そうして私はイスに座って行動報告を001管理者にする。
森にいた時、シエラ805をシエルにしてから今管理部にいるまでの全てのこと。
その時の行動、気持ち、身体状況。
ところどころで挟まる001管理者からの質疑応答。
私は全てを話した。
そして二時間ほど掛けて行動報告は終わる。
「お疲れ様。とても興味深い話だったわ。どおりでシエラ805が気に入る訳ね、こんなにアンみたいな人なんだもん」
「えへへ、左様でござんすか」
優秀な先人と同じで嬉しいような、先人の代わりにされて嬉しくないような気持ち。
それはそうとようやく帰れる。シエルを抱きたい。
「あ……」
「なにん?」
帰れると思いきや、まだあるみたいだ。
「ここ一ヶ月以内に実戦がある予定だから留意しておいてね」
「え、実戦? もう?」
「うん。いつ開始されるか厳密に予定されてないから、しっかり準備しておいて。もちろん死ぬのは基本的に許さないから」
宣告された実戦の予定。
001管理者はゆるーく言っているが、死ぬのはダメと言っているように死ぬかもしれない実戦が待っている。
「じゃあ今日のところは帰ってゆっくり休んでね」
「は、はい」
一気に緊張してきた。
さっきまでの軽くて緩い気持ちが消え去り、重くなる足で管理部を出る。
今日はもう休もう。私は自分の部屋に戻っていく。
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