▽第14話 獣兵
私とシエルは第七兵舎から離れて訓練へと足を進めた。のだが、着いた先の基地外周には人がほとんどいない。
走っている人間が一人か二人と数えるほどしかおらず、その様子は私と同じ訓練というよりも個人でやっている運動という方が正しい。
「訓練、ここでする感じ?」
「そんな感じ。走るよ」
「え、マジ? まさか基地の外周を?」
「マジ。まずはアタシと一緒に外周を一周しよ」
「マジかぁ……倒れたらお願いね、シエル」
「うん。じゃあ行くよ」
こうして私はシエルと一緒に基地の外周を走ることとなった。
すると、すぐにまた違和感を覚える。
「速い」
走り始めから全てが違った。
ランニングなのにシエルは人間よりも圧倒的に速い速度で走っていくし、感覚的に人間の時とは出せる速度の違いが分かった。
「全然違う、私も……!」
だからシエルに追い付こうと走る速度を上げた。
そして見える世界が変わる。風を切りながら周りの風景を次々視界の端に置いていき、シエルの背中を追いかける。
「はぁ……はぁ……」
スタートから三十秒と経たずにもう体力がなくなってきた。
普段から運動しておけば……という後悔と共に走るスピードが落ちてしまう。
「アルク、大丈夫? まだあるよ」
「まだって、あれ?」
足を止めて振り返ると、既にかなりの距離を移動していた。
大体500mほどだろうか。たったの十秒ほど走っただけでスタート地点が遠い。
なんじゃこれ。私はこの現実が素直に理解出来なかった。
「猫だから、こんなに速いって訳?」
「まぁそういうこと?」
「そういうことなの……? 暗い中でも目が見えるし、弾はハッキリ見えるし、ちょっと跳んだだけですごい動くし、おまけにこのスピード……もう人間じゃないみたい」
「人間じゃないよ。アタシたちは耳と尻尾がある獣兵だから」
人間ではなく獣兵。
薄々思っていたが、やはり人間じゃなかった。
「獣兵……それが私たちなんだ」
「うん。001管理者が言っていたから」
あのメスガ――001管理者が言っていたのなら、私たちが獣兵という存在なのは確定だ。
改造人間にされたのか、もしくは転生とか憑依させられたのか分からないけど、とりあえず私たちは既に人間じゃない。今のこの現実が、人間じゃないことをハッキリ分からせてくれる。
「獣兵って人権ある?」
「分からない」
「だよねぇ」
それでも酷い扱いは受けていない。
正直なところ人間だった頃よりも環境がいい。それほど気にしなくても心配はいらないかも。
「続き、走るよ」
「はーい……」
人間じゃないこと、身体のこと、人権、それら余計なことを考える暇はない。
私はヘロヘロになりながらもシエルと一緒に続きを走っていく。
※
「はぁ……ァ……ふぅ」
完走した。だだっ広い基地の周りを走り切り、息は途切れ途切れ。
我ながらエッチな声だけど決してエッチなことはしていない。というか、もう一歩も動ける気がしない。
「大丈夫?」
「もうダメ、休憩! 休憩!」
私はたまらず腰を下ろす。
足全体が痛く、息をするにも胸が苦しい。
「持っていこうか?」
「大丈夫、シエルに手間掛けるのは悪いから」
「うーん……」
微妙な反応のシエル。
でも疲れているからといって、毎度シエルに持って行ってもらうのは悪い。自分の足でしっかり立たないと。
「やっぱり持ってく。休まれると進まないから」
「え?」
「次、射撃訓練」
「うぇー……」
休む暇はございませんでした。
私はまたしてもシエルの並々ならぬ怪力で持って行かれるのであった。
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