▽第13話 新服と抜山蓋世
変にバツザンとリマ60をストーカーと勘繰って恥をかいて、シエルから教えてもらった手順で生体認証装置に登録して、荷物と武器を置いてと、顔が熱くなりながらも今やるべきことを終えた。
「ふぅぅぅ……」
胸に手を当てて深呼吸。恥をかいてガチガチに凝り固まった気持ちを落ち着かせる。
幸いなことにみんなはいい人だ。変に勘繰ってもからかわれないし、これを皮切りにいじめもされない。
環境がとても良い。
「はぁぁぁ……」
これが職場だったら、いじめの皮切りになったはず。私はそういう理不尽を今まで受けなかったが、やられている人は見たことがある。
標的にされた人はリンチ。みんなのおもちゃとなり、退職するまでいじめの対象にされる地獄の毎日だ。
「大丈夫?」
「あ、えぇ、大丈夫」
気持ちを切り替える。
まずはやるべきことの確認。人間の黒い部分がぐちゃぐちゃと混ざり合った職場と同じく、私は働くことをする。
「シエル、この後は?」
「基礎訓練」
「基礎? どんなこと?」
「まずは走ったり、歩いたり、そんなところ」
「はぇー」
また足が痛くなりそうな訓練。
これは着替えた方がいいかもしれない。ヒールサンダルに慣れたとはいえ、流石に足をいじめる訓練でこの靴は足が大破するかもしれないし、大破したついでに服がビリビリに破けてセクシーアルクになるかもしれない。
「アルク、エッチなこと考えてた?」
「い、いやぁ?」
おっと悟られてしまった。
別に私、変態じゃないんだからね?
ただ単にちょっと魔が差しただけなんだからね?
「じゃあ訓練行くよ」
「ちょちょっと待って!」
「んー?」
「今パパッと着替えるから!」
脳内ツンデレやっていたら危うくまた流されるところだった。
これで冗談なしに足が壊れてしまうのを回避。
今度こそ流されず、私は着替えていく。
※
着替えを始めてから数分。
私は補給倉庫から持ち出した三着分の服と靴の内、一着に着替えた。
「シエル、これどう?」
「グッド。いいね。フェイバリット」
「えへへ! ありがと!」
ピンク色を中心にした萌え袖パーカーとチェック柄のスカート。パーカーの下には白のワイシャツを、そして靴下は黒のニーハイソックス。首元にはリボンを付けている。
着替え終わった私は、ギャルな見た目から萌え萌えな学生キャラになった。
「じゃあ行くよ」
「オッケー!」
玄関に移動。
気分は学生だが、履く靴はローファーじゃない。足が痛くなるのはもう勘弁なので機能性重視、私たちが生きる3000年代より相当古いミリタリーブーツにしている。
「出発だー!」
「おー」
私たちは靴を履いて玄関から外へ出る。
玄関扉はオートロック。扉を閉めれば鍵が勝手に掛かる。
「よし」
指差し確認。戸締り問題なし。
こうしないと鍵が閉まったか忘れる。そうでもなくても忘れる時がある。
「アタシに付いてきて。今回も案内する」
「いつもいつも案内ありがとね」
「……うん、こっちだよ」
ほんのり顔を赤くしたシエル。そんなTHE・可愛いの後ろを付いていく。
そして訓練に行くために二人で一歩目を踏み出す、その時――隣の部屋の扉が開いた。
「これいいな」
「だろう?」
部屋から出てくるのはタバコを吹かすバツザンとリマ60の姿。
「あ、二人共」
「おう? シエルたちもこれから出るのか」
声を掛けるシエルと応じるリマ60の二人。
そういえばまだリマ60に名付けをしていない。
「うん、これからアルクの訓練に付き合う」
「上手くやってやれよ」
「分かってる」
そう言ってリマ60とバツザンは第七兵舎を出ていこうと離れていく。
「あ、あの! 二人共!」
「あん?」
「どうした、アルク?」
名付けをする謎の使命感で反射的に呼び止めてしまった。
二人は振り向き、私は二つの悪人面と顔を合わせる。
「え、えっとですね? リマ60さんにまだ名付けしてないなぁって思って」
「へぇー……俺にも名付けしてくれるのか? だったら素敵なのを付けてくれよ」
リマ60の悪人面が二ッと笑う。笑みも怖い。たぶんどんな表情しても怖いと思う。
それはともかく、私はリマ60の名前を考える。
バツザンと一緒にいることだからセットの名前がいいかもしれない。ということで――
「ガイセイはどうですか? バツザンさんと合わせて抜山蓋世って感じで」
「強大な力と気力を持っていること、そんな感じの四字熟語だったな。名前として語感は気になるが、意味は悪くない」
「えへへへ、気に入りました?」
「まぁまぁだ。でも名前は貰っておく。バツザンと合わせられるからな」
これでリマ60はガイセイになった。
今回はすんなり名付け出来て良かった。ネーミングセンスがレベルアップした気分だ。
「ではアルク、訓練頑張れよ。お前は天才らしいからな」
「へへへへ、基礎でへこたれるなよ?」
バツザンとガイセイ。抜山蓋世コンビは二人してタバコを吹かしながら悠々と第七兵舎を離れていった。
「行こう」
「うん!」
抜山蓋世コンビに続いて私たちも第七兵舎を離れる。
あの二人はやっぱりいい人たちかも、ガイセイは耳と尻尾から判断してたぬきか、なんて思いながら訓練へと足を進めていく。
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