▽第12話 彼らはやはり危ない?
バツザンとリマ60からまじまじと見つめられながらの朝食後。
二人の鋭く怖い視線に当てられながらの朝食を終えた私は、自らの荷物を置きにシエルと共に一度第七兵舎へ戻ることにした。
「美味しかったね、アルク」
「う、うん……美味しかったね。でもね――」
朝食は美味しかった。二人にギラギラジロジロと見られていても味はちゃんとした。腹も満たされた。
「どうしてバツザンたちが私たちの後ろを追ってくるの?」
「ん? ホントだ」
後ろを見る。
見えるのは、私たちの後ろを堂々と追ってくるバツザンたちの姿。相変わらずギラギラジロジロとこちらを見てきて、挙句の果てには彼らと目が合う。
「フフフ……」
「へへへ……」
目が合うと、めっちゃニチャついてくる。白い歯がよく見える。
怖い。
「なんで? どうして?」
「進行方向が同じなんじゃない?」
「そんなことある? いや、まさかストーカー?」
「違うと思う」
確かにストーカーにしては、第七兵舎に向かう私たちの後ろを堂々と追い過ぎている。
それに見てくるだけで危害もちょっかいも加えてこない。
なにが目的で私たちを追ってくるのか。まるで分からなくて怖い。
「まぁ二人のことは気にしなくていいよ」
「そ、そうは言っても……」
「大丈夫。二人はそういう人間じゃないよ」
シエルはそう告げる。
確かに、まさしく確かに彼らが悪人面な一方で内面は普通。話も分かってくれるし、気遣いもしてくれる。
後ろに彼らがいるのは怖い。しかしここはシエルを信用して、気にせず第七兵舎へと足を進ませることにした。
そうして荷物を持ちながら移動し続けて数分後。
私たちは第七兵舎へ入り、自分たちの部屋の前まで来た。
「あのさ」
「うん」
「まだ後ろにいるんだけど」
「そうだね」
そしてバツザンとリマ60も来ていた。
シエルを信用して彼らのことを気にせず歩いてきたが、これはもう堂々としているだけのストーカーなのではないか。
「話しかけてみるべきか。ストーカーだったら、尻尾を出すはず。いや、尻尾はもう外に出ているけども!」
「考えすぎだよ」
「でもでも、万の一つにもそうだったら……私、行ってくる。シエル、骨は拾ってね!」
「大丈夫だと思うけどね」
シエルは大丈夫だと言うけど不安は残る。
だから私は意を決して彼らに話しかけてみることにした。
あの悪人面二人と対面するのは怖いけど、私は振り向いて彼らに近付く。
「あのー……」
「あん? 俺たちになにか用があるのか?」
「は、はい! 大ありです、バツザンさん!」
私が近付くのに応じてバツザンは顔を近付けてくる。ここで見た目の怖さに押されてはダメだ。
「なんで私たちを追ってくるんですか?」
「あん?」
「俺たちはお前たちを追ってないぞ」
どういうことか。それともストーカーの下心を隠している詭弁なのではないか。
「じゃあ、なんでここにいるんですか?」
「ここにいる理由? なるほど。バツザン、言ってなかったのか」
「そういえばまだアルクには言ってなかったな」
ここに来て言われてない情報が判明。
遂に尻尾が出るのか。ドキドキの一瞬。
バツザンは私の横を通り過ぎる。
「お前たちが住んでいる部屋の隣、俺たちが住んでいるのさ」
そう言ってバツザンは私たちが住む部屋のすぐ隣、その部屋の生体認証装置のセキュリティを解除。住んでいるとアピールするが如く部屋の扉を開けてみせる。
「えぇーーー……っ!」
えぇーーー……っ!
口から出る言葉から思考に至るまで驚きの嵐。
私とシエルがイチャイチャしている隣にはこんな悪人面二人が住んでいたのだ。
「え、え、じゃあ……二人は私たちと同じで部屋に用があって帰ってきたってこと?」
「そうだな。訓練までまだ時間があって、訓練前に一服出来るものを持っていこうとしていたのさ」
「で、ついでにお前とシエルの様子を見ていたという訳よぉ」
シエルが言った通り、確かに彼らはそんな人物ではなかった。
それなのに私は変に勘繰っていた。ずっと勘違いしていて顔が熱くなり、自分でも顔が赤くなっているのが分かる。
「どぅおおおおお! 失礼しましたぁー!」
やめやめ、こーんなことやめー。
私はもう部屋に戻る。生体認証装置に自分の手を乗せて扉を開こうとする。が、エラーを起こして部屋の扉が開いてくれない。
「どしてどして、どしてーッ!」
「あ……アルクの生体認証の登録し忘れてた」
「シエル、お前はもう先輩なんだ。死んだアンに頼り切りでいるなよ」
「……そうだね」
そんなこんなで私は顔を熱くさせながらシエルから生体認証の登録を教えてもらい、そのまま部屋に自分の荷物を置いて、武器は第七兵舎の武器庫へ置くのであった。
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