▽第7話 選別の出会い
キョウコと一緒に入る補給倉庫の中。大量の様々な物資が置かれていて雑多としているように見えるが、いくつもの天井にまで届くほど高く室内の向こう側まで続く大きい棚で整理されていた。
「まずは服か。端末を渡す。好きなものを探して選べ」
「はーい」
なににしようか。何着持っていこうか。
そうやって色々と考えていると、補給倉庫に置かれていた検索端末をキョウコから受け取る。
「ほぇ、同じものがあるんだ」
早速端末を操作して画面に映るのは、シエルと同じデザインのセーラー服、キョウコと同じデザインの軍服ワンピース。違うデザインや別カラーもある。
それ以外にも色々な服が複数種類あった。
「軍隊なのに統一されてないんだ」
私が知っている軍人の服はみんな似たり寄ったりで見分けが付かないレベルのはず。
でもここは自分の口から独り言が出るほどに服装が自由。
「まぁいいか」
疑問はありつつも、自由な方が気楽でいい。さっさと自分の好みに合うものを探してしまおう。
と、その前にちょっとした疑問が出てくる。
「ねぇ、キョウコさん」
「なんだ?」
「今選ぶのって私服ですか? それとも戦闘服?」
「両方だ。ちなみに私が今着ている服は私用、戦闘用を兼ねている」
「なるほど」
私が抱いた疑問――ここで選んだ服はいつ着るのか。
結果は戦闘でも着て、私服としても着るということ。
「じゃあ戦闘はいつ起きるんですか?」
「私にも分からん。急に始まる時もあるし、準備する余裕がある時もある」
「だからキョウコさんの服は両方で?」
「そうだ。私は私服と戦闘服できっちり分けて一度失敗していてな。戦いにくい私服のドレスで急に戦闘することになって以来、今はこの通りだ」
つまるところ面倒だから一つの服で私服と戦闘服を兼用しているのではなく、急な戦闘があるから兼用にせざるを得ないということ。
「まぁ貴様が履いているような靴と中々際どいドレスを戦闘服にしたバカもいる。アンのように出来ると自信があるなら、とやかくは言わない。好きにしてみろ」
そしてキョウコの言う、先人のアン。
口振りからして彼は戦闘に不向きな女装で戦い、相当の結果を出したのだろう。
私に彼と同じことが出来る自信はない。一方でどれだけ戦闘に向いてなくても、合法的にコスプレが出来るのは魅力的。
「色々アドバイスありがとうございます、キョウコさん」
「私のように失敗してほしくないだけだ。礼はいらないさ」
キョウコにアドバイスのお礼を言って、私は決心する。
まずは自分の好みを優先する。これはまたとないコスプレのチャンスで、しかも今は猫耳と猫の尻尾まで生えている。機能性だとかは好みのものを選んだ後に考えよう。
「さて、選ぶか!」
いざ検索端末片手に好みの服探しの旅へ。
私は広大な物資の海、その一角の衣類置き場に足を運んだ。
「にしても、この充実具合……あのメスガキ管理者の趣味なのかな」
検索端末や自分の目で確認して分かる、種類の多さ。明らかに軍服としての機能性よりも見た目を重視したものが揃っている。下着や靴も同様に豊富だ。
逆に西暦が3000年を過ぎた現代でよく見かける強化服などは一切ない。それどころか古い映画で見かける旧世代の迷彩戦闘服は量も種類も少なかった。
「軍隊って言ってるだけで、軍隊じゃないのかな……まぁいいか」
私は軍隊について詳しくない。考えたところでよく分からないので軍隊についての疑問を放棄。
それから検索端末に表示された物と実物をあれこれ見て回り、私の服探しの旅は小一時間掛かるのであった。
※
好みの服を選び終わり、手にはいっぱいの荷物。まずは三着分を選んだ。
そのまま次の案内を受けるためにキョウコのところへ戻ると、目から表情までギラついた見知らぬ小太り世紀末野郎がキョウコと一緒にいた。
「うぉ!? だ、誰?」
「噂をすれば来たなぁ。待っていたぞ」
白いモヒカンに茶色の猫耳と猫の尻尾、小太りな上に絵に描いたような世紀末の服で明らかにヤバい外見の男。
正直関わりたくないけど、どうやら相手は私を探していたみたいだ。
「待っていたって、私を!? な、なんのご用で?」
「それは決まっているだろう。お前を試しに来たんだ」
「えっ……」
悪い予感がする。いや、殺される。心臓が縮む。
「なんで私を試しに?」
「シエラ805の新しい同居人で、あのアンの次に来た住人。これが試さないでいられるかよ。運命を感じるぜぇ」
「ヒェッ」
こ、怖い。私に運命感じないで。
「おい、彼女はまだ来たばかりなんだぞ。試すにはまだ早い」
「キョウコさん……!」
キョウコの助け舟だ。頼りになる。
早くこの状況を抜け出したい。
「だからだろう? コイツは他の誰かに試される前に俺が試したい。じっくり丁寧にその身に味を付けてやるのさ」
「それもそうだが……」
「キョウコさん!?」
あ、ダメかもしれない。
これ言いくるめられて試されるやつ。
「なんだ、キョウコキョウコと。お前も名前を付けたのか、アンみたいに」
「いや、彼女――アルクに名前をもらったんだ。羨ましいか?」
「ギャハハハハハ! 最高だな。自分自身に名を付けたアンの次は、他人にまで名を付ける新人か。尚更運命を感じるぜぇ!」
なんか普通に仲良く会話してるけど、私の運命どうなっちゃうの。
「さてキョウコ、アルクを試したい。借りていいな?」
「ちょ……キョウコさん!」
ヤバい。殺される。味付けされて食べられる。それが猟奇的、意味深、どっちだとしても嫌だ。
頼む、キョウコさん。
「まぁアルクにはまだ早い。が、確かに今からの方が良いかもな」
頼みの綱のキョウコがオーケーを出してしまった。
終わった。たぶん死ぬわ、これ。
「よし。さぁアルク、上官命令だ。俺に付いて来い。キッチリ調整してやる」
「は、はい……」
私、どうなる?
エロ同人みたいになるのか、それとも洗脳、闇落ちか。もしかしたら全部盛りか。
私の運命や如何に。来週の私に乞うご期待。
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