▽第8話 シエルの同期
前回までのあらすじ。
好みの服と靴を三着分選んだ私、小太り世紀末野郎に連れてかれる。
あらすじ終わり。私の人生もたぶん終わり。
「あのー……」
「なんだぁ?」
「試すって、なにを試すんですか?」
「決まっている。お前の力だぁ」
私の力をなぜそんなに試したがるのか。
ただの新人いじめじゃないのか、それとも新人を調教しようとしているんじゃないだろうか。それはもうエロ同人みたいに。
「いやぁ私の力を試すと言われても、正直来たばかりで弱いっすよ? 試す価値なんてないと思うんですけどぉ……」
逃げたい。
私に試すほどの力なんてないし、こんなの無意味だと分からせなきゃ。
「試さないと分からないこともあるのさ。いい例がアンだな。アイツはただの女々しいだと思っていたが、なにもかも違った。天才だ、奴は……だからお前も試す。お前もアンのように化け物かもしれないからなぁ」
「化け物なんて、そんなぁ……」
アンーーーッ!
アンという前例がすごい期待値を高くさせちゃってるじゃん、どうすんのこれ。
「隠すな、疑うな。化け物か、そうでないか、俺は見極めたい」
私がそんな化け物な訳ないじゃん。クソザコだよ。そりゃもうゲームのチュートリアルに出てくるモンスターくらいの弱さよ。
「そんな、そんなね? 私は主人公最強系のラノベの主役じゃないんですよ?」
「それは試せば分かる。そしてお前が化け物なら、結果として出てくるだろうよ」
遠まわしになにを言っても諦めてくれない。だからと言って直接断るのは怖い。
そんな感じで試されるのを断れないまま、私は小太り世紀末野郎の後を付いていく。
そうして数分後。武器置き場で私たちの足は止まった。
「ここだ。お前の武器を選べ」
「武器を?」
「検索端末、自分の目、好きなようにして武器を選べってんだよ」
口調といい、悪人面といい、私の弱っちい本能に鋭利に突き刺さってくる。
私はすぐに三着分の服と靴をおいて武器を選ぶ。
早く選ばないといけない。怒られるのは嫌だ。
「え、えっと、じゃあ……!」
「焦るな」
「えっ?」
「これからお前の半身となる武器。ゆっくり選べ。実際に触ってみたいなら手伝おう」
「は、はい」
見た目とか口調が怖いだけで意外と優しいのか。
言われた通りに他人の目と顔を意識する気持ちを落ち着けて、今は自分のことだけに集中。自分の武器を選ぶ。
「あ、そうだ」
「あ? どうした?」
目の前のことで頭がいっぱいで聞き忘れるところだった。
「お名前は?」
「あぁ、名乗っていなかったなぁ。俺はシエラ806、SIERRA・1-806・銀組一級。お前の同居人のシエラ805とは同期だ」
「シエルと同期、あなたが?」
「シエル――シエラ805のことか。ふん、同期にしては印象が真逆と言いたいのか?」
「え、あ、いや、そんなことは!」
「取り繕うな。分かっている」
意外に優しいだけじゃなくて話も分かってくれる。
でもまさかこんな人とシエルが同期なんて、という衝撃はある。
「それで俺にも名前を付けてくれるのか?」
「あ、まだそこまでは考えてなくて……」
「あぁ? お前、俺だけ名付けしねぇつもりか!?」
「別にそんなこと思ってないっすよ! ちゃんと名付けるっすから!」
この怒号と殺気のある表情。やっぱ怖いわぁ、この人。
さっさと名前付けて機嫌直してもらおう。
「えーっと、じゃあ806を文字ってヤオマロってのは――」
「ダセェッッッ! 室町時代かよ!」
「ごめんなさーい!」
お許しを請う、お決まりの土下座フォームを展開。
すると「バカ野郎、立ちやがれ!」と言われたので即座に土下座フォームを解除。スッと立ち上がる。
「もっとこうさ、あるだろ!? ダンテとかマサムネとかさぁ!?」
「はい、おっしゃる通りでぇ! もうちょっとカッコいいので考えまーす!」
とは言ったものの、小太り世紀末野郎に合うカッコいい名前が分からない。
だからと名付けを諦めたら怒られる。
とりあえず自分の感性でカッコいい名前を出力してみるしかない。それで気に入ってくれれば一安心だ。
「それじゃあバツザンはどうです?」
「さっきよりは悪くねぇ響きだ。いや、むしろ気に入った」
「良かった、お気に召したようで」
四字熟語の抜山蓋世から抜山を取って名付けてみたが、気に入ってくれた様子。
意味は山を引き抜くほどの力。だから悪い意味の名前ではないはず。
とにかく今度は怒られず、無事に名付けを完了した。
「今日から俺はバツザンだ。さぁアルク、武器選びを続けろ!」
「はい」
服の次は武器選び。
FPSとかTPSなど銃を使うゲームで見たことのある銃も揃っており、まずはそういう見知ったものから触ることにした。
「バツザンさん、このリストアップしたやつ全部触ってみていい?」
「構わん。場所は検索端末にある通りだ。分からないことがあれば、すぐに俺に聞け」
検索端末から武器を探し、指定の場所になければバツザンに聞く。
そうやって目当ての武器を実際に見て、触って、持ってみて、自分に合う武器を選定していくのにまたまた時間は過ぎていった。
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