おもてなし
夢幻
第1話 おもてなし
ルタン星と地球が友好条約に調印し、貿易や文化交流を開始して一年が過ぎた。
それを記念しての式典がルタン星で行われることになった。地球代表として招かれたのは宇宙局局長のジェイソン・シーガルと局員のマック・トーンだ。
「楽しみですね、局長」
二人は迎えの車で到着し、案内された会場のひな壇に腰を下ろした。
「なんでも公式な歓迎行事でしか振る舞わない特別な料理が出るらしい」
宇宙局局長のジェイソン・シーガルはそう言って笑った。
「楽しみですけど、しかし不思議ですよね。この星の生物は幾つか見ましたけど、鳥も犬や猫も地球のそれによく似ています。ルタン星人そのものは我々人類とは似ても似つかないというのに」
「遠い昔の話ですが」
惑星翻訳機の声に振り向くと馴染みの顔があった。ルタン星側の交渉担当官・ゴルァだ。
「我々の祖先が宇宙探索に出てすぐに皆さんの星である地球に辿り着いたそうです。大気や植物などはルタン星に酷似していたので驚いたという記録が残されています。その際に幾種類かの生き物も持ち帰ったので、その中に鳥とか犬猫が居たわけです。まあそんな話はともかくとして、今夜は料理を存分にお楽しみください」
「ゴルァ管理官、今日は盛大な会へのお招き、感謝します」
「お口に合うと良いのですが」
六つある目を細め、ゴルァは微笑んだ。
会は盛大だった。奇妙ではあるが耳に優しい音楽を聴かされ、背に翼と四本の腕を持つルタン星の踊り子の舞踏も鑑賞出来た。地球のものとは若干違うアルコールも楽しみ、すっかり腹が膨らんだ。
「いやあ、いくら美味しくてももう入りません!ルタン星の料理は最高だなぁ!」
腹を撫でてマックは笑った。
「お褒めにあずかり嬉しい限りです。何せ今夜のメイン《コノサクシュナス》はこの星自慢の、いわばとっておきの素材ですから。さあ、ではお開きとしますか?車を用意させますので、少ししたら地下駐車場の方にお越しください」
そう言ってゴルァは立ち去った。
ジェイソンは首を傾げた。
「どうかしたんですか?局長」
満腹の腹をさすり、マックは訊ねた。
「変だな」
「変?なにがです?」
「翻訳機さ。惑星間翻訳機には《適語が無い場合、近似の何かに置き換える機能》があったはずだ。適語削除でもしない限り我々は耳慣れない言葉であっても自分の知っている近いものに置き換えてストレスを感じずに理解が出来るだろ?」
「ええ、まあ……」
「さっきゴルァ管理官が口にした《コノサクシュナス》って言葉。我々には理解出来ない単語だ。なら、一番近い奴で我々の知っている何かに置き換えそうなものだ」
「あ、そうですよね」
訝りながらも指示された地下駐車場へ二人は向かった。
「あれ、なんですかね?」
マックが指さす方向に人の列が見えた。遠いので、それが子供らしいことは判るが何をしているかまでは判らない。その列は静かに、整然と並んで何かの順番を待っている様子だ。列の先頭にはドアがある。興味を感じ、二人は列に近づいた。
「子供?」
やはりそれは子供だ。しかも、腕は二本に脚も二本。回り込んで顔を見れば、目も鼻も口も人類とそっくりだ。
「でもなんだか少し違いますね?」
何人もの顔を覗き込んでいるマックの傍でジェイソンは一人の子に訊ねてみた。
「キミたちは……なにをしてるんだ?」
だが返事はない。そればかりかジェイソンを見もしない。チラチラと周辺を見ることはあっても、大人二人には何の興味も示さない。
「どういうことなんでしょうか?ルタン星に人間の子供は居ないはずですが」
すると背後から声が掛かった。
「人間の子供ではありませんよ」
驚いて振り返ると、そこにゴルァが立っていた。
「驚かれると思い説明は省きましたが、これは皆さんの知る人類の子ではありません。それ以前の……まあ、人類以前の種です」
意味がわからなかった。ゴルァは簡潔に説明して聞かせた。
「申し上げましたとおり、我々の祖先は一度、遙か昔ではありますが地球を訪れているのです。その際、幾種類かの生物を持ち帰ったわけですが、その中にまだ人類になる以前の種がいました。持ち帰って食してみるとこれが大変な美味で、そこで我々はその種の改良に努め――」
二人はドアに飛びつき、開けて中を見た。そこは調理場と言うよりも――。
「き、局長!これは…!」
充満する血の臭いの中、二人は呆然とした。
「あ、ご心配なく。さらなる改良を加えた結果、その肉は最上の――」
おもてなし 夢幻 @arueru1016
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