第21話 王都で観光
それは逆にマズいのではと僕は思ったんだよ。
「大丈夫なのかなバルさん。王様と王妃様をお待たせしちゃってる事になってるけど?」
「フフフ、そこはヘレン様が上手く抑えて下さっておりますのでご安心下さい」
ああ、そうか。ヘレン様は王妃様とも仲が良いって言ってたからね。
「ハンル様が言われるには少しは我慢を覚えた方が良いとの事です。ああ、これは国王陛下に向けての言葉ですよ。ミリーナ王妃殿下は素晴らしいお方で、純粋に新しい馬車を楽しみにしてらして、催促される方法も可愛らしく、『もう届くのかしら? 早く見てみたいし乗ってみたいわ。本当に楽しみなの』というものだそうです。まだかまだかと催促しているのは国王陛下です」
うん、ホーン様ならそうだよね。ハンル様やヘレン様からの報告で王妃様にまた怒られるんじゃないかな〜。
「さあ、こちらです。ペリ伯爵王都邸でございます。ようこそ、ヨウナシ様、サユリ様」
ハンル様が王都で過ごされる王都邸は周りの他の貴族の方たちの邸宅より質素な外見だけど、広さは負けてないどころか、この辺りだと一番広いみたいだ。
「ヘレン様が国王陛下の妹君であるのは他の貴族の方たちもご存知ですので、実は隣家は侯爵邸なのですがそちらより広くても文句は出ませんでした」
小さな声でコソッとバルさんが教えてくれたよ。
屋敷前に着くとハンル様、ザクバ様、ヘレン様にコミチさん、マーヤさん、グレドさんも居て僕たちを歓迎してくれた。
「ようこそ我が王都邸に。ヨウナシ殿、サユリ殿、ご友人は大丈夫だったのかな? そうか、無事に治ったのならば良かった。二人とも疲れているところに悪いがあちらに馬車を出して貰えるか?」
ハンル様の言葉を聞いて僕もサユリも指し示された場所に向かった。そこは馬車を入れておく
「確かに。有難うサユリ殿。それで今日はお二人はどする? 良ければ今晩は我が邸に泊まって欲しいが無理にとは言わない。ご友人がたとの約束などもあるだろうしな」
本当にこの人は素晴らしい人だね。人の気持ちを分かるこの人の領地でならタイスケたちも穏やかに過ごせるだろうと僕は確信したんだ。
「友人たちとの約束は明日となってますから、今晩はご厄介になっても良いですか。それとその友人たちについてご相談があるんです。聞いて貰えますか?」
「勿論だとも、ヨウナシ殿、サユリ殿、さあ中に入ってくれ!」
その日の夜はハンル様たちと夕食を食べて泊まらせて貰う事になったよ。そこで夕飯の時に僕はタイスケたちがハンル様の領地に住んでも構わないかの確認をしてみたんだ。
「ふむ、ヨウナシ殿の友人たちならば私も構わないが、もしも違う領地で住民契約をしているのらば移住手続きが必要となる。その辺りを明日以降で構わないので確認をしておいて欲しい」
ハンル様はそう言って住むこと自体は了承してくれたんだ。でもタイスケたちは他の領地で住民登録ってしてるのかな? それは分からないから明日にでも確認してみますってハンル様には言ったよ。
「それとだな…… 少し言いづらいのだがミリーナ王妃殿下が二人に是非とも会いたいと仰っておられてな…… その、その時は陛下にはご遠慮いただくから了承してもらえると有難いのだが…… どうだろうか?」
ザクバ様からそんな事を聞かれたけれども僕もサユリも王妃様にはお会いきてみたかったから、明日じゃなければ大丈夫ですって返事をしておいたよ。ザクバ様がホッとした顔をしてたよ。
「それでは夜も更けてきたことだし今日はもう
ハンル様がそう言うと、侍女姿のセレーヌさんが僕たちにお辞儀をしてきた。
「案内って!? いえ、大丈夫ですよハンル様、お気遣いなく」
そう言ったのだけど、王都は広いから案内がいたほうが行きたい場所に直ぐに行けるからと押し切られてしまった。セレーヌさんはこの王都屋敷に勤めている侍女さんで、王都産まれの王都育ちだからどこでも案内できるんだって自慢まで入ってたよ。
「ふわぁ〜、凄い広いお部屋だね」
案内された部屋はとても広くて清潔感に溢れていた。
サユリと二人で驚いていたらセレーヌさんが
「明日の朝は七の時にお起こしに参りますね。明日はよろしくお願い致します。それではごゆっくりお休み下さいませ」
そう言って部屋を出ていった。うん、セレーヌさんは身のこなしも洗練されていて出来る侍女さんって感じだね。
でも僕のその見立ては明日になったら変わるとはその時は思ってもみなかったんだよ。
翌朝、僕とサユリは朝食を終えてセレーヌさんの案内でタイスケたちの泊まっている宿屋【陽だまり】に向かった。
「おはよう、ヨウナシ。領主様は何て言ってた?」
部屋に入るなり僕にそう聞いてきたタイスケに僕は昨日のハンル様の言葉を伝えたんだ。
「それなら大丈夫。僕たちは誰も住民登録はしてないよ。僕とルミは職人ギルド、サキは農業ギルド、レンさんたちはハンターギルドに登録してるだけだね。それじゃ、昨日は紹介出来なかったけどレンさんたちを紹介するよ。宿屋のご主人に話をしてロビーを借りたんだ。ルミ、レンさんたちに言ってきてくれるかな?」
「うん、タイスケ」
そうして僕たちはレンさんたちに会う事になった。レンさんは真っ赤な髪を肩まで伸ばした細身だけどその身体は鍛え上げられたものだと分かる女性で、ご主人であるサックさんは長身でレンさんよりも筋肉がモリモリの男性だ。
カントさんは僕よりも背が低いけれどもとても俊敏そうな感じの整った顔立ちの人で、ノーハさんはサックさんよりも背が高いけれども柔和な目をした優しそうな人だったよ。
ただ無口な人で会話は苦手らしい。というのは建前で、女性口調なので初めて会う人とはあまり話をしないようにしてるんだって。カントさんが教えてくれたよ。たいていの人がノーハさんが女性口調だと気味悪がって離れていくから、この人は大丈夫だと分かるまでは無口なフリをしてるらしいんだ。
「ノーハさん、ヨウナシやサユリさんなら大丈夫ですよ。僕たちが保証します」
タイスケがそう言うとノーハさんが躊躇いながらも自己紹介してくれたよ。
「あの、ノーハです。カントの
ノーハさんの声は目と同じで優しく中性的な声だったよ。
「僕はヨウナシです。こちらは妻のサユリです」
「あの、本当に私たちみたいな夫婦が居るんでしょうか?」
ノーハさんの質問にサユリが返事をした。
「はい、ホントですよ。ペリー村には男性同士の既婚者さんが二組、女性同士の既婚者さんが一組います。村ではちゃんとその人たちを夫婦として認めていますし、お子さんがいらっしゃる方もいますよ」
「子供はどうやって?」
カントさんがサユリに質問をする。
「孤児院に訪問されて養子縁組されたそうです。男性同士のご
「そんな村なら住みたいわカント」
「ああ、そうだな、ノーハ。そのホントにご領主様の許可は得られたんだろうか?」
カントさんからの質問にはセレーヌさんが返事をした。
「ご安心下さい。私の
う〜ん、やっぱり出来る侍女セレーヌさんは違うね。完璧だよ!
セレーヌさんの言葉にみんなが頷いた。
「良し、それじゃセレーヌさんが案内してくれるって言うからみんなで王都観光に行こうよ」
レンさんたちも王都に来てからタイスケが体調を崩したから宿の近くしか見て回ってないらしいし、ちょうど良いと思って一緒に観光をする事にしたんだ。
「良いのかい? あたし達が一緒だと楽しめないんじゃないのかい?」
レンさんが気を遣ってそう言うけれども
「大勢で見て回る方が楽しいと思います。一緒に行きましょう」
サユリからもそう言われて一緒に回ってくれる事になったよ。セレーヌさんに先ずはそれぞれが行ってみたい場所を言う。
僕とサユリはこの世界の
タイスケとルミさんは本屋さんで、サキさんは市場に行って木になる果物を手に入れたいそうだ。
レンさん、サックさん夫婦は武器、防具を見てみたいらしい。カントさん、ノーハさん
全ての意見を聞き終えたセレーヌさんは、
「それでは、先ずはサキ様ご希望の市場へと参りましょう。その後はレン様、サック様ご希望の武器、防具の店に向かいます。そこが済みましたらタイスケ様、ルミ様ご希望の本屋へ。そこで時間を見て昼食へと向かいます。王都一番と名高いレストランに予約を入れておきます。食後に奴隷市場へと向かいます。その後は観光地のいくつかにご案内致しますね」
出来る、出来るなセレーヌさん! スッキリとまとめられた僕たちの希望に反対意見が出ることもなく先ずは市場に向かう事になった。
その途中でセレーヌさんが脇にいた男の子を呼ぶ。
「君はガイダーかな?」
「そうだよ、綺麗なお姉さん」
「あら? お上手ね、お名前は?」
「オイラ、タツっていうよ。どっかに案内する?」
「いいえ、そうじゃなくて一つお願いがあるの。レストラン【マッタ·キテ·ネー】に予約を入れて欲しいの。報酬は五百ゴンよ」
「受けた! ここにいる人数で予約すれば良いのかい? 昼だよね?」
「ええ、そうよ。ペリ伯爵の名前でよろしくね。私の名前はセレーヌよ。ちゃんと予約出来たらこれを飛ばしてくれる?」
「セッ、セレーヌの姉ちゃんだったのかっ!! スゲェーッ!! 母ちゃんから聞いてるぜ、町での伝説の数々を! むがっもがっ!!」
「お口にチャックよ、タツ。いらない事は口にしないようにね」
やり取りを見ていた僕たちはセレーヌさんの背中だけ見えていたんだけど、物凄い圧がタツという少年にかかっているのが分かる。うん、知りたいけれどもセレーヌさんが居ない場所で確認する必要があるみたいだね。
その後、コクコクと頷いているタツ少年の顔を三秒見つめてから手を離して「お願いね」と言うセレーヌさん。僕たちの方を向いた時にはタツ少年は物凄い速さでその場を走り去っていたんだ。
うん、怖かったんだね。
「ハハハ、あんた、アタシと同じ匂いがするね」
レンさんがこちらを向いたセレーヌさんにそう言う。
「あら、私などレン様の足元にも及びませんわ。さ、それでは参りましょう」
にこやかに微笑んでそう言うセレーヌさんを更に面白そうに見ているレンさん。その場ではお互いにそれ以上なにも言わずに歩き出した。
そして、市場で僕たちはセレーヌさんの伝説の一端を知ることになったよ!
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