第20話 主人公参上だね


 そこには出会うとは思って無かった植生はにゅう先生が居たんだよ。


「植生先生、どうしてこんな場所に? 先生まで召喚されたんですか?」


 そこで僕は植生先生の後ろに隠れるように立っている建屋留実さんを見つけた。


「あっ、建屋さんも一緒だったんですね。他にも誰か居るんですか?」


 僕の矢継ぎ早の質問にも落ち着いて答えてくれる植生先生。先生はイジメを受けていた僕をいつも守ってくれていたから信用してる数少ない大人の人だ。信用してたのは他にはサユリのご両親ぐらいしか居なかったけどね。


「ええ、もう一人居るわ。それよりも家無威くんは私たちと一緒に召喚それてなかったけど、どうやってこの世界へ来たの?」


 そこでバルさんから提案があった。


「ヨウナシ様、ここは往来でもありますしよろしかったら場所を変えてお話しませんか?」


 バルさんにそう言われて道の方を見ると僕たちの馬車を避けながら他の馬車が進んでいたんだ。


「あ、ホントだね。先生、時間はありますか?」


「ええ、時間はあるけれど。もう一人居るって言ったでしょ? その一人が体調不良なの。だから先にこの薬を飲ませたいのよ」


「失礼ですがお宿はどちらに?」


 バルさんが植生先生にそう聞いた。


「この先の【陽だまり】です」


 返事を聞いたバルさんが御者席に一緒に座っているコミチさんの方を向く。


「コミチ、こちらの女性と一緒に、」


「「待って!」」


 思わず僕とサユリが同時にバルさんの言葉を遮った。行くなら僕たちの方が先生たちも気を遣わなくてすむよね。だから僕はバルさんとコミチさんに先にハンル様への報告をして貰おうと思ったんだ。


「バルさん、僕とサユリが一緒に行くよ。バルさんとコミチさんはこのまま進んでハンル様に到着した事を伝えてよ」


 僕の言葉にバルさんは躊躇わずに頷いた。


「分かりました、ヨウナシ様。後でお迎えに行きますね」


 そうして僕とサユリは馬車を降りて、先生と建屋さんと一緒に宿に向けて歩き出したんだ。


「良かったの? ハンル様っていうからには貴族の方かなんでしょう?」


 植生先生が僕を気遣ってそう言うけれども、僕としてはこれぐらいの事でハンル様が怒る事は無いと分かっているので「何の問題も無いですよ」と答えておく。


「あ、あの…… 家無威くん。その、そちらの人は?」


 建屋さんがサユリを見ながらそう聞いてきた。そう言えばサユリは学校が違うから知らないよね。


「あ、うん。そう言えば紹介がまだだったね。僕の妻のサユリだよ」


 僕の言葉に二人にペコリと頭を下げるサユリ。


「「つ、妻ーっ!?」」

 

 そんな大きな声で叫ばなくても良いと思うんだけど。そりゃ学校ではイジメられてた僕だから妻がいるとなると驚くのも無理はないと思うけど。


「えっと、番内沙友里ばんないさゆりです。今はヨウくんの妻となって家無威沙友里いえないさゆりです。よろしくお願いします」


 サユリの名乗りに植生先生が呟いた。


「番内さんって…… 確か家無威くんの住んでた施設の方よね?」


「そうです、植生先生。施設長をしてたのがサユリです」


「その、サユリさんも召喚されたの?」


 建屋さんがそう聞く。


「はい。ヨウくんと一緒にこの世界に来ました」


 それから宿に着くまでに僕とサユリはここに来るまでの先生たちの話を聞いたんだ。


「そうなんだ、かまちくんと一緒なんだね……」


 僕の言葉に建屋さんが思わずといった感じで僕に言う。


「家無威くん、タイスケはイジメてたんじゃなくてっ!」


「うん、分かってるよ、建屋さん。僕も何となくそう感じてたんだ。って言ってもこっちに来てから気がついたんだけどね。思えば鬼頭くんが僕に近づこうとしたタイミングで框くんは僕にペプイコーラを買ってきてって頼んできてたなぁって」


 僕の言葉にホッとする顔をする建屋さんと植生先生。ひょっとして建屋さんは框くんとお付合いしてるのかなとは思ったけど、何で先生までホッとした顔をしたんだろう? そうか、ここまで三人で協力して来たんだから、その框くんを僕が受け入れなかったらと心配してたんだね。


 でも十分後に僕のその考えは否定されていたよ……


 宿屋に着いて三人部屋に入った時にん?とは思ったんだけどね。大きなベッドに一人で寝ている框くんをサユリが回復魔法をかけて治したんだけど、回復して寝ていた框くんが目を覚ました時に、建屋さんだけじゃなくて植生先生までが框くんに抱きついて泣いて喜んだから僕は確信したんだ。


 このリア充めっ!! ってね。


「えっと、あの、何でここに家無威くんが?」


 目覚めたばかりで状況を把握出来てない框くんがそう聞いてきた。僕は……


「病に倒れて窮地に陥ったハーレム主人公を助けるモブキャラの参上だよ」


 心の中の声がそのまま口から出てしまったよ。途端に框くんの顔が真っ赤になる。


「ハッ、ハーレムって、いや、そんな違うよ家無威くん!?」


 違うって否定してるけど女性二人からの熱烈な抱擁を受けながら否定しても説得力は無いんだよ、框くん。


「ふ〜ん、ヨウくんも沢山の女性から愛されたいの?」


 しまったーっ!! 僕はサユリの存在を忘れてねたみを框くんにぶつけてしまっていたよ。でも仕方がないよね? 男なら誰だってハーレムに憧れを抱くものなんだから。ねっ?


「そ、そ、そんな事あるわけないじゃないか〜」


 それでも僕は動揺しながらも即座に否定したんだ。そんな僕を見てサユリはニッコリと微笑み言った。


「そう? それなら良かったわ。それじゃヨウくんも框さんにそんなに嫌な事を言うのはやめようね、ねっ?」


「う、うん。勿論だよサユリ」


 僕とサユリの会話を聞いていた框くんが聞いてきた。


「えっと、そっちの女子は誰なのかな?」


「ああ、僕の妻のサユリだよ」


「つっ、妻ぁーっ!?」

 

 框くんって失礼だよね。自分は二人も妻にしておきながら、僕に妻がいる事にそんなに驚くなんて。


「妻…… 家無威くんに妻がいたなんて…… 僕は学校でボッチだった家無威くんを助ける必要は無かったのか…… こんなに可愛くて綺麗な奥さんがいたって知っていたなら僕は……」


 遂にはブツブツと僕に聞こえてないつもりなのか呟いてるよ。ここは誤解を解いておかないとだね。


「僕とサユリが夫婦になったのはこの世界に来てからだよ、框くん」


 僕の言葉を聞いた框くんがハッとした顔をしてから自分に抱きついている二人を見た。


「そ、そうだったんだね、家無威くん。それなら…… 僕と結婚して下さい!! ルミ! サキ!!」


 うわぁ〜、二人にプロポーズしたよ!? それも僕とサユリの目の前で。これはサユリも框くんに幻滅するのでは? とチラリと横を見たら……


「素敵、三人とも末永くお幸せにね」


 涙ぐみながら三人の幸せを願っていたよ。うん、僕の妻は最高の人だ!!


「するーっ! タイスケと結婚するー!」

「わ、私も!? 年上だけど良いの、タイスケ?」

「有難うルミ。勿論だよ、サキ。ここまで来れたのはサキの力が大きいし、僕はルミと同じぐらいサキを愛しているんだ!!」


「わーんっ! あ、あ、有難う…… ルミも良い?」

「うん! サキ、一緒に幸せになろうね!」


 分かったぞ、この物語の主人公は框くんだったんだ。タイトルはきっと、【異世界に転生したら可愛い妻が二人も出来ました!】だね!


 オタクの僕がしょうもない事を考えていたら框くんから話があるんだって言われた。


「うん、良いよ。話って何かな框くん?」


「それ、先ずはその呼び方なんだけど、僕の事はタイスケって名前呼びしてくれたら良いよ。僕もヨウナシって呼ぶから。サユリさんはサユリさんって呼ばせて貰うね」


「はい、タイスケくん」


 僕が返事をする前にサユリが了承しちゃったから僕も了承するしかないよね。


「うん、それじゃタイスケって呼ばせて貰うよ。タイスケの伴侶の二人はルミさん、サキさんって呼ぶからね」

 

 僕の返事に満足そうな顔をするタイスケ。それからここに来るまでの事をタイスケは話し始めた。


「それでね、ここまで同行してくれたレンさんとサックさん夫婦にカントさんノーハさん夫夫ふうふも安住の地を求めているんだ。勿論だけど僕たちもだよ。ヨウナシはこの国で何処か良い場所を知らないかな?」


 そうか、カントさんとノーハさんは男性同士だからこの世界ではまだまだ偏見があるんだね。でも……


「うん、それなら僕がお世話になっているハンル·ペリ伯爵様の領地が良いと思うよ。僕たちは領村のペリー村に住んでるんだけど、その村にはカントさんやノーハさんと同じく、男性同士、又は女性同士で婚姻関係を結んでいる人たちが三組ほどいるからね」

 

 僕からの情報にタイスケの笑顔が弾けたよ。うん、主人公の笑顔は男の僕でも魅力的に見えるね。


「そうなんだ! 良し、その話をレンさんたちにしてみるよ。それに僕たちもそのペリー村に移住したいな。その村では建設、建築、又は果樹なんかの仕事があるかな?」


 タイスケからの質問に僕は答える。


「ペリー村では分からないけど、領都、領町には需要があると思うよ。ひょっとしてスキルかい?」


「うん、そうなんだ。僕のスキルは建設。町の設計から必要な資材まで分かるんだ。それを元に建設する事も人を指導して仕事を進める事も出来るよ。ルミのスキルが建築。家や建物の設計、必要資材、実際に建てる事も出来るよ。サキのスキルは木早生きわせっていって木の成長を物凄く早める事が出来るんだ。だから建築資材なんかも直ぐに調達出来るけど、木になる果樹なんかも成長させる事が可能だからね」


 うん、すっかり僕たちを信用してスキルを話してくれた…… これは僕とサユリのスキルの話もした方が良いよね? サユリを見ると頷いているから僕はタイスケたちに自分たちのスキルの話をしたんだ。


「えっ!? それは凄いね!」(タイスケ)

「うそ? 行ってみたい!!」(サキ)

「わ、私も行きたいです!」(ルミ)


 僕はサユリと目を合わす。すると、サユリがコクリと頷いてくれたから、僕は三人を【自宅】に招待する事にしたんだ。

 今からだといつバルさんが迎えに来るか分からないから、僕たちの用事が済む明日に招待するよと伝えた。


「わかった、有難うヨウナシ」


 タイスケからのお礼の言葉を聞いてから僕とサユリは部屋を出たんだ。明日は用事が済めば僕たちがこの宿屋まで迎えに来る事になってる。


 部屋を出て宿屋の受付にお邪魔しましたって言ってたら扉が開いてバルさんがちょうど来たみたいだ。


「ヨウナシ様、サユリ様、ご友人の方の容態はどうでしたか?」


 僕とサユリの友人の事まで気遣ってくれるバルさん。それを見ると本当にハンル様のお人柄がよくわかるよね。 


「有難うバルさん。うん、サユリが治してくれたから大丈夫だよ。それよりもハンル様も待ちくたびれてるでしょ? 早くお会いしないとね」


「ハハハ、ハンル様なら大丈夫ですよ。待ちくたびれているのは国王陛下と王妃殿下ですね。ハンル様の元にまだか、まだかと連絡が届いているそうです」


 それは逆にマズいのではと僕は思ったんだよ。


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