第18話 召喚された者たち

 

 ヨウナシとサユリがペリー村で穏やかな日を過ごしていた頃より時間を少し遡る。帝王宮に残された三十三人と騎士団に振り分けられた五十七人、それにタイスケとルミとサキ、タクスとヤヨイを覗いてみよう。先ずは町に残ると宣言し、レンが承諾したタクスとヤヨイからだ。


 実はタクスとヤヨイは最初からつまずいていた。町を出ていくレンたちの中の一人、ひときわ体が大きく威圧感のあるノーハを奴隷にしようとヤヨイのスキルを使ったのだが効かなかったのだ。


 ヤヨイのジョブは【悪娼婦】でスキルは【魅了】【蠱惑】である。ノーハを魅了して自分たちの下僕しもべとして使い倒すつもりであったがスキルが効かずに無視されてそのまま行かれてしまった。

 レンたちがタイスケたちと共に去った後にさっそく夫婦喧嘩が始まる。


「たくっ、何が私の魅了であの大男を奴隷にしてみせるだ! 全く効果が無かったじゃないか!」


 タクスがヤヨイにそう言えば、


「何よ! あんただってあの女からこれっぽっちしか巻上げられなかったじゃないっ!!」


 と銅貨五十枚をジャラジャラしながら毒づいた。タクスのジョブは【詐欺師】でスキル【詐称】【口八丁】だ。その口先でレンを騙して金を巻き上げようとしたのだが、レベルが低いという事はスキルの練度も低いという事だ。レンは兵士の隊長を務めるだけあってレベルも高く、低練度のスキルなどに引っかかる訳が無いのである。

 因みにだが、この世界では一般人でも平均してレベル10になるようにレベルアップをしている。近辺は騎士や兵士、ハンター等によって魔物や魔獣は狩られているが、それでも取りこぼしというのは出てくる。なので一般人でも最低限、自分の身を守れるようにとレベルアップを推奨しているのだ。

 それはドルガム帝国だけでなく、戦争を仕掛けているヴァン王国以東の国々でも同様である。


 なので……


「クソッ! 何でだ? 何で俺のスキルが効かないんだ! あいつらはただの庶民なんだろう?」

 

「なっ、何で私の魅了が効果無いの? それに常時発動パッシブされてる蠱惑まで!?」 


 タクスやヤヨイのスキルに引っかかる庶民は皆無であったのだ。

 ドルガム帝国では銅貨五十枚あれば安宿であれば大人二人が五泊は素泊まり出来る。けれども二人ともそんな安宿に泊まる筈もなく、一泊で銅貨五十枚を使い果たしたのだった。

 そして、町の住人たちからスキルで金を巻き上げたりしようとしたのが衛兵にバレて投獄された。

 投獄期間は一週間である。その間は不味くはあるが朝晩は食事が出る。


「マッズッ!! こんなスープ食えるか!!」

「ちょっと! こんな固いパンなんて歯が折れちゃうじゃない!! もっと柔らかいパンを出しなさいよ!!」


 二人は愚かであった…… 初日にそう叫び、タクスはパンのみ、ヤヨイはスープのみしか出されなくなったのだ。


 そして一週間後、釈放されるのだがその場所は町の外、魔獣が多く居る森の奥深くであった。

 この森は町を守る衛兵たちならば奥深くまで難なく行ける程度の森である。

 が、何の訓練も受けておらず日本でも戦闘などした事がない二人にとっては地獄のような場所であった。しかも衛兵たちは容赦なく二人を歩かせ(わざとグルグル回るように歩いて普通に歩けば三十分ほどで着く奥深くまで二時間かけて歩いた)、疲労困憊な状態で放り出したのだ。その際に二人には


「良いか、お前たちは追放だ。町の近くにやって来ただけで罪となる。もしもそうなったならば今度は犯罪奴隷として鉱山送りとなるからな。せっかく助かった命が惜しいならば町には近づくなよ!!」


 そう宣言してから去っていったのであった。ここから、タクスとヤヨイの受難は更に進む事になるのであった。



 帝王宮に残された三十三人のうち、特別待遇の二人が居た。一人は鬼頭雁高きとうようこうでもう一人は万高好満よろずだかよしみである。

 鬼頭のジョブは【剣闘師】でスキルは【剣鬼】【剣王】【剣聖】である。

 一方で万高のジョブは【聖僧尼】でスキルは【治癒】【聖域】【聖闘】であった。

 

 その二人は特別待遇として豪華な個室を与えられ、専属の執事、侍女がつけられた。

 残り三十一人は初日こそ個室であったが、三日後からジョブとスキルにより分けられて、五人、五人、六人、六人、七人、二人部屋に振り分けられていた。

 

 二人部屋に振り分けられたのは榊宮子さかきみやこ天神灯里てんじんあかりの女子二人だ。その二人が部屋で筆談で相談をしていた。


【ミヤコ、どうする? 当初の予定通りにこのまま訓練を続けてある程度レベルアップしたら抜け出す?】


【そうね、私もアカリもレベルが10になったら抜け出しましょう。この帝国の賢者ナバルガムが言ってた通り、元々私たちはこの帝国に生を受ける筈だったのかも知れないけれども、それでも日本に生まれて育った私たちにはこの帝国の価値観についてはいけないわ】


 筆談と言ってもミヤコのスキルで互いの脳内に文字を浮かべるものなので、もしも部屋を監視されていたとしてもバレる事はない。


 ミヤコのジョブは【発明師】でスキルは【魔技発明】【戦技発明】である。

 アカリのジョブは【刀斬師】でスキルは【斬鉄剣】【斬魔剣】であった。

 いま使用している筆談はミヤコのスキル【魔技発明】で開発した【テレパス】である。


【この国の帝王は何だか胡散臭いわ。このままこの帝国に居たら使い潰される可能性があるわね】


【そうね、それにヨウコウの奴が図に乗ってチョッカイをかけてきてるし、ヨシミには日本での事があるから私たちも目をつけられてるしね……】


 実はヨウナシをイジメと認識してイジメていた八人の中の筆頭がヨウコウとヨシミである。ミヤコとアカリはそんなイジメから少しでもヨウナシを離す事が出来るならと用事を言いつけていたのだった。タイスケと同じである。

 けれども同じ女子であるヨシミには見抜かれていたようで、日本にいるときにも事あるごとにミヤコとアカリは嫌味を言われていた。

 それがこの世界に来た事と、特別待遇になった事により嫌味以上の行動に出ようとしているとミヤコとアカリは感じ取っていたのだ。

 このままここに居ては自分たちの身が危ないと考えている二人は相談を重ねて逃げる算段をしているのであった。


【他の人はどうする?】


【…… 私はカケルくんも一緒に逃げて欲しいけど……】


 ミヤコからの問いかけにアカリはそう答えた。


【そうね、それなら私もタツヤに声をかけて見るわ】


 ミヤコもアカリも彼氏が居た。この世界に来てからは頻繁に会う事もままならないけれども、訓練中にお互いの身を案じ合ってはいる。

 なので二人はお互いの彼氏に声をかけて反応を見ることにしたのだった。


 ミヤコもアカリもカケルもタツヤも真面目に訓練に取り組んでいるので今のレベルは5である。四人で帝国を抜け出そうとする日は近い。


 騎士団に振り分けられた五十七人はというと、見習いとして訓練と雑用を日々こなしていた。


 その中でも成長著しい者は近々、近隣の魔獣討伐に同行する事となっている。第一騎士団に配属された者たちはレベルこそまだ3だがスキルの練度を上げる事を優先していたので、魔法関係のスキルを持つ者たちは明後日から弱い魔物や魔獣を倒す実戦訓練に出かける事となった。


「良いか、私たちがついている。魔物が現れても落ち着いて訓練通りに魔法を打てば何の問題もなく倒せるからな。失敗しても慌てる事は無い、ちゃんと私たちでフォローするからな」


 騎士団長からそう言われて緊張しながらもちゃんと頷いている者たち。


「魔物との実戦訓練で君たちのレベルは飛躍的に上がるからな。レベルを10まで上げたら騎士見習いは卒業だ。みな頑張ってくれ!」


 騎士団長からの言葉に言われた者たちの顔が明るくなる。

 今は見習いという事で騎士団宿舎から出る時も必ず騎士が同行する事になっている。それに給金も低いので欲しいものが買えない。

 しかし騎士となれば給金も多くなり、また望めば町に家を借りて住むことが出来るようになるのだ。今の軟禁状態から脱出できるようになるのでやる気も強い。


「剣や槍を使う近接戦闘の者たちもレベルが5になれば実戦訓練を行う予定だ。その日は近いからな。これまで以上に訓練に励むように!」

 

 騎士団長の言葉に近接戦闘系のスキルを持つ者たちも頷いていた。

 召喚されてから一ヶ月が過ぎていた。



 タイスケたちはどうなったであろうか?


 レンたちと共に国境にたどり着いたタイスケたちはヴァン王国に入国をはたしていた。入国する際に水晶に手を置かされたが問題なしと言われて町に入り、そして旅を続けたのであった。

 最初の町で身分証明の為にタイスケとルミは職人ギルドに登録し、サキは農業ギルドに登録をした。

 町に来るまでの間にそれぞれのスキルについて検証した結果である。


 タイスケの建設は建屋だけでなく道や水道などの設備も含めて設計、建設出来るスキルである事が分かり、ルミの建築は建屋について設計、建築出来るスキルだと分かったのだ。

 またサキの木早生きわせは木をいち早く成長させるスキルである事が分かった。木限定であるが、木になる果実類を季節に関係なく成長、育成する事が可能なので農業ギルドに登録したのだ。


 レンたちはタイスケたちと共に旅をしていた。主にノーハとカントの為に安住の地を求めての旅であった。

 タイスケはヨウナシの痕跡を求めて旅をしている。ヨウナシだけがこの世界に来ていないとはどうしても思えなかったからだ。

 ヴァン王国を抜けて隣国へ行き更に次の国に入った時に遂に見つけたとタイスケは確信した。


「わっ、この国で売られてるシャンプーとコンディショナーって!?」


 サキが共同浴場で使用する為に購入したシャンプーとコンディショナーを使って驚く。


「うん、日本の物と遜色ない!!」


 ルミもそう認めた。そして浴場から出たらタイスケも


「この石鹸ってアレだよね?」


 と二人に確認してきた。二人はその言葉に頷く。そこでタイスケは職人ギルドに向かい聞いてみた。


「ああ、石鹸にシャンプーにコンディショナーか。良かっただろ? 他の国でも違う香りや効果の物が売られ始めたんだぜ。ステーラ王国からの依頼でな、わが国でも作られ始めたんだよ」


 その答えにタイスケはレンにステーラ王国へ向かう事を告げた。


「そうか。その国にタイスケたちの同胞どうほうが居る可能性があるんだな。私たちも一緒に行っても構わないか?」


「ええ。勿論です。皆さんが一緒なら僕たちも心強いですから」  


 こうしてタイスケたちはステーラ王国の王都を目指して旅を続ける事になった。タイスケもルミもサキも各国に滞在中に簡単な仕事を受けて旅費は稼いでいた。特にヴァン王国に入ってからは日本の円に似た通貨となったので分かりやすいので助かっていた。

 タイスケ、ルミ、サキの三人で今の手持ちは百万円ゴンを超えている。旅をするには十分な額であった。

 

 


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