第17話 ペリー村で過ごす日々

 僕とサユリはペリー村でのんびりと過ごしていた。既に石鹸、シャンプー、コンディショナーの件はハンル様とヘレン様によって王様(ホーン様)と王妃様に報告及び各国への交渉をお願いしてあり、ステーラ王国では石鹸(薔薇の香り)とシャンプー(女性用、頭皮を活性化)、コンディショナー(モイスチャーミルクならぬ魔獣のモウーミルク配合バージョン)の生産計画が始まり、隣国の二カ国でも石鹸(金木犀の香り)、シャンプー(男性用、フケ・かゆみを抑える)、コンディショナー(髪を元気にする成分)をカルダン公国で、石鹸(ヒノキの香り)、シャンプー(子供用、成長を阻害しない成分配合)、コンディショナー(子供用、フケ・かゆみを抑える)をセスーナ宗教国家での生産計画が立てられていた。


 ホーン様と王妃様は他の三カ国にも働きかけをしており、ウル王国とヴェリテ王国からはやりたいという返事を貰っているそうだよ。

 でも王妃様の出身国であるヴァン王国はドルガム帝国が一年以内に大規模侵攻を計画しているとの情報が入っているので事業に参加するのは難しいとの返事がきたんだって。

 そこでホーン様と王妃様は取り急ぎステーラ王国でヴァン王国の分も製作して、ヘレン様を通じて密かにドルガム帝国の帝王の愛妾さん二人宛に、これらはヴァン王国で生産されているので、戦争により生産できなくなるという旨を知らせる事にしたそうだよ。

 その際に二人分だけじゃなく、後宮にいる人たちの分も一緒に贈ることにより発言権を大きくする狙いもあるんだって。


 これで戦争が止まるとは僕は思えないけれども何もしないよりかは良いよね。

 それとこれはハンル様から聞いたんだけどやっぱり僕の知合いたちはドルガム帝国に召喚されたらしい。今は訓練をしていてそれが終われば大規模侵攻が始まるとヴァン王国では見ているそうだよ。

 召喚されたのは九十五人で、五人は何らかの理由で帝王宮から出されたんだって。


 う〜ん、誰が出されたんだろうね。まあ、気にしてもしょうがないから気にしない事にするよ。


 で、僕とサユリはペリー村の近辺でレベルアップとお肉確保に精を出しているんだ。僕としてはかなり強くなった気がするよ。



名前∶ヨウナシ

年齢∶十六歳

性別∶男性

職業ジョブ∶ハンター

位階レベル∶12

HP∶258

MP∶127

攻撃∶154

防御∶108

武器∶刀(短め)

防具∶リザードンの革鎧一式(炎、酸耐性有)

魔法∶火の魔法、水の魔法、風の魔法、地の魔法

技能スキル

【自宅】【武器適正】【防具適正】【魔法】【言語完全理解】【魔獣ハンター】【刀術】【抜刀術】【心眼】

家族∶サユリ (妻)



名前∶サユリ

年齢∶十六歳

性別∶女性

職業ジョブ∶ヒーリングマスター

位階レベル∶11

HP∶113

MP∶305

攻撃∶108

防御∶173

武器∶ハチェット(二刀流)

防具∶リザードンの革鎧(女性用、炎、酸耐性有)

魔法∶回復の魔法、補助の魔法、強化の魔法

技能スキル

【アイテムボックス】【言語完全理解】【防御補正】【見極眼みきわめ】【創造】【投斧】【斧戦術】

家族∶ヨウナシ(夫)



 それでもドルガム帝国で訓練してる人たちの方がきっと強くなってるんだろうなぁ…… 僕はもしも戦争がステーラ王国にまで及んできたならサユリと一緒に自宅に籠もるつもりなんだけど…… でもハンル様やそのご家族、それに使用人の人たちに勿論このペリー村の人たちとも交流が出来てからは情がうつってしまったから、出来れば戦争は無くなって欲しいななんて思っているんだ。


 僕だけならともかくサユリまで危険な目に合わせたくは無いけど、僕が戦うとなったらサユリもきっと戦うって言い出すだろうからね。

(ヨウナシは知らなかった。訓練よりも実戦を繰り返しているヨウナシやサユリの方がより早くレベルアップして強くなっていっている事に)


 まあ、先の事は分からないから今は考えないようにしてるんだ。

 僕とサユリは毎日村の人たちと一緒に晩御飯を食べて、というかご馳走になって夜は自宅に戻っている。名実ともに夫婦になったか? まだだよ! 僕もサユリもまだ十六歳だからね。僕はそりゃ自家発電をして性欲を抑えて、お互いに十八歳になったらって話をしてるんだ。

 ペリー村の爺様、婆様いわく「十六歳にもなってなんてヘタレじゃ!!」らしいけど……


 この世界だと成人は十五歳。つまり僕もサユリも成人して一年が過ぎてる夫婦らしい。なので、手を出さない僕の事をそんな風に言うらしいんだよ。まあ、【所変われば品変わる】って奴だね。ちょっと違うかな? まあそれはどうでも良いや。


 それよりもハンル様も他のご家族方や使用人の人たちも僕とサユリが表に出ないように注意してくれてる事がとても嬉しいんだ。まあ、それは王様でえるホーン様や王妃様もそうなんだけどね。

 今さら他の貴族たちにうちの領地にも何かを寄越せなんて言われたくは無いしね。僕がハンル様の手助けをしてるのは領民の事を第一に考えておられる方だというのが大きいんだ。

 これまでの事はハンル様のその考えに僕自身が出来るだけ手助けしたいと思っただけの事だからね。


「あなた! そっちに行ったわ!!」

 

 おっとそんな事を考えてたら角の生えた特別に大きな兎が僕に突進してきていたよ。

 油断大敵、火がボーボーだね! 僕は慌てずに兎の突進を避けて抜刀術で兎の首の皮を一枚残して斬った。


「やった!! 流石ねあなた!!」


 サユリが喜んでいる。実はこの兎、とても美味しくてサユリの大好物でもあるんだ。だけど食べられるのは解体して二日ほど熟成させた後になるんだけどね。

 そうすると脂がトロトロになって甘い香りがして口に入れるともう!!

 ダメだ、考えただけでヨダレが!?


「もう! あなたったら! 食べられるのは二日後よ! 今からヨダレを垂らしてたらダメじゃない!」


 そう僕に注意するサユリも生唾をゴックンしたけどね。でも僕はそれを言わない。夫婦円満の秘訣は【旦那は奥様の機嫌を損ねるような事を言うな!】ってペリー村の爺様たちから教えて貰ったからね。


「アハハ、ゴメンよサユリ。ついこの前に食べた兎のカツを思い出しちゃって!」


「ああーっ! 考えないようにしてたのに何で言うかなっ!! 私までヨダレが出ちゃいそうになるでしょ!!」


 ペリー村でカツ(パン粉を付けて肉を揚げる)を流行らせたサユリがそんな抗議をしてきたけど、顔が笑っているから僕は内心でホッとしていた。


 そうそう、話は変わるけどサユリのスキル【創造】がレベルが10を超えて進化したんだ。それまでは目の前に実物が無いと【創造】出来なかったんだけど、今はカタログで写真を見るだけで【創造】出来るようになったんだよ。(食べ物以外の衣服と家具のみ)

 なのでサユリは欲しい衣服や家具なんかはカタログを見て自分で創造してるみたいだ。素材はたっぷりとアイテムボックスにあるからね。(これまで倒した魔物や魔獣の素材)


 そうして穏やかな、けれども充実した日々をペリー村で過ごしていた僕たちをある日、バルさんが呼びに来たんだ。

 それはペリー村で過ごして一ヶ月半が過ぎた頃だったよ。


「ヨウナシ様、サユリ様! グレド《義弟》が遂に完成させました。つきましてはヨウナシ様やサユリ様にもその完成度を調べて欲しいと申しております。申し訳ございませんが領都ペリまで来ていただけますか?」


 まだ二カ月経ってないのにもう完成させたの!? マーヤさん奥さん言葉離縁がよほど怖かったんだね。きっと超特急で作成したんだと思うよ。


「はい、勿論です!!」

「わあっ! もう出来たんですか。楽しみです!」


 僕もサユリも二つ返事で領都ペリへと向かう事にしたんだ。そして領都へとバルさんと一緒に戻って馬車を見させてもらう。


「ハンル様、先代様、先々代様!! これが今の俺が出来る最高の馬車です!! どうか乗って素直な感想をお聞かせ下さい!! それにヨウナシ、サユリ嬢ちゃんも乗って感想を聞かせてくれ、頼む!!」

 

 グレドさんの後ろにある完成した馬車は貴族の方が乗るに相応しい装飾が施されている。


「フム…… 我らが先に乗るよりもヨウナシ殿とサユリ殿に先に乗って頂こう。良いか、グレド?」


「はい! 望むところです、ハンル様!!」


 ということで僕とサユリが一番乗りになったんだけど良いのかな? まあハンル様が良いなら良いか。

 馬車にはハンル様の厩舎にいるナデシコと一番の仲良しのトウカイオーが繋がれた。この名前だけど牝馬ひんばだよ。御者はバルさんがしてくれるみたいだ。


「それではヨウナシ様、サユリ様、動きますね」


 バルさんがそう言ってトウカイオーに合図を送った。


 驚いた!! 僕が呼び出した馬車よりも揺れが少ない!!


「ヨウくん!? 凄いね!!」 

「うん! ホントだねサユリ!! とても凄い!!」


 僕もサユリもその揺れの少なさにとても驚いたんだ。伯爵邸の庭を一周してみんなの居る所に戻ってきた。

 僕とサユリは馬車から降りてグレドさんに言ったんだ。


「グレドさん!! 凄いです!! 揺れが無いし座る場所に備え付けられたクッションも絶妙でした!!」

「グレドさん! 私、この馬車なら安眠できます!! 中の工夫も素晴らしいし、見た目よりも広いのは魔法ですか?」


 僕とサユリの褒め言葉にグレドさんは照れながらも、


「おう! そう言って貰えると職人冥利に尽きるぜ!! サユリ嬢ちゃん、そうだ。空間魔法をかけて中を広くしてある。快適な旅をしていただく為にな!! 良かったらヨウナシたちの馬車も同じように中を広げる事は可能だぞ」


「「是非! お願いしますっ!!!」」


 僕とサユリのお願いの言葉がハモったのも無理は無いよね。


 その後にハンル様やご家族の方も乗られてグレドさんに、


「グレド! 素晴らしいぞ!! これなら国王陛下も王妃様も満足される筈だ!」(ハンル様)


「グレド! お兄様大公殿下お姉様公爵夫人の分もお願いね!」(ヘレン様)


「グレド、ワシら夫婦の分は後でゆっくりと作ってくれたら良いからの」(ジム様)


「あんた、お疲れ様でした。あんたなら出来ると私には分かってたよ。チュッ」(マーヤ)


「コッ、コラッ、マーヤ!? ハンル様たちの前でなんて事を!!」(グレド)


「ハハハ、良いのだグレド。お前はそれだけの仕事をしてくれた! この一号馬車を陛下に献上しても良いか? 『二番目はもっとより良く改良されてる筈だからな』」(ザクバ様)


「ハイ! よろしくお願い致します、皆様! 皆様の分も一度作ったので、今回ほど時間をかけずに作る事が出来ますのでもう暫くお待ち下さい!!」


 こうしてグレドさん作の馬車が完成して先ずはホーン様に献上される事になったんだ。


 この時の僕は知らなかったんだ。この馬車もまた、戦争を止めるキッカケの一つになるんだって事を。


 それを教えてくれたのは驚くべき人たちだったんだよ。


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