第16話 これで戦争回避?

 

 はい! 僕も争いは嫌いですから、全力でハンル様にお応えしますよ!!


 それから僕はカタログを呼び出したんだ。

 

 全てを見せると言っても実際に呼び出して見せるのは効率が悪いから、写真入りのカタログをハンル様に見て貰い、気になった物があれば僕が説明する形にしたんだ。


 それでハンル様が再現出来るだろうかと問われた物には付箋をつけて後でシンペディアで調べる事にしたんだよ。

 一冊目を見終えて二冊目のカタログをハンル様と見てる時にヘレン様とサユリが部屋から出てきた。


「ヨウくん、付箋のページの物を呼び出してくれる? サイズ部分は蛍光ペンで印を入れてあるから。それと必要な枚数も入れてあるからお願いします」


 サユリにそう言われて僕は寝間着のカタログを開く。うん? この寝間着なんて二着になってるね。アレ? コッチの寝間着は一着なんだ。

 疑問に思いながらも呼び出してサユリに渡していく僕。

 次に普段着〜お洒落着のカタログを開くと……


 うん、まあ女性はお洒落したい物だし、何も言うまい。僕は黙って黙々と服を呼び出した。ヘレン様はとても嬉しそうだ。最後に下着のカタログを開こうとしたんだけどサユリから待ったがかけられた。


「ヨウくん、母子でもヘレン様も恥ずかしいと思うから、下着はヨウくんか私の部屋で呼び出して欲しいの」


 それもそうか。自分の息子にどんな下着を買ったかなんて知られたくないよね。


「うん、分かったよサユリ。一緒に来てくれる?」


「うん、ヨウくん。私に渡してくれたら良いからね」


 そうして僕とサユリがリビングから出ていく間際にヘレン様がハンル様が見終わったカタログを指差して「私も見て良いかしら?」と聞くので「どうぞ見ていて下さい」と返事をして僕の部屋に向かった。


「えへへ、やっと二人きりになれたね、あ·な·た!!」


 グハッ! 僕の心臓が一瞬とまったよ!! 何なんだ、この可愛らしい新妻にいづまは!? 

 もう抱きしめても良い? 良いよね?


「キャッ、ダメよあなた。リビングにヘレン様やハンル様が居るんだから」


 そう言いながらもサユリの抵抗は小さいので僕は思い切ってキスを迫ってみたんだ。すると抵抗なく受け入れてくれたよ。


 但し僕の鼻が僕を裏切って血がタラーって……


「だっ、大丈夫? あなた?」

「らいじょ~ぶ、サユリ、ごめんね。しまらなくて」

「ふふふ、あなたらしくて良いわ」


 そんなちょっとイチャラブを終えて僕はヘレン様の下着を呼び出したんだ。何だかやけに煽情的せんじょうてきなのもあったみたいだけど…… ハンル様、近い内に年の離れた弟か妹が産まれるかも知れませんよ。


 それから僕たちはリビングに戻ったのだけど……


「ハンル、何でコレが何かを確認してないの!」

「いや、母上、それは戦争を止める為に役に立つような物では無いと思ったので……」


 母子で揉めていたんだ。いったい何を指してヘレン様がそう言っているのか確認してみたら香水だったよ。

 キャネルの五番だ。う〜ん…… まあ女性には効果があるだろうね。なので僕は黙って付箋を貼り付けたんだ。

 さっきサユリに渡したカタログにも香水のページがあったからヘレン様はサユリに聞いてたんだと思う。黙って付箋を貼った僕を見てヘレン様は


「やっぱりヨウナシさんは良い男だわ。うちの息子にもコレぐらいの甲斐性があれば婚約者も直ぐに決まるでしょうに」

 

 なんて事を言いだしたよ。


「母上! 今はソレは関係ないでしょう!!」


 ハンル様が抗議するも母は強し。


「あら? 関係ないこと無いでしょう。早く婚約者を決めて結婚して領民を安心させるのも領主として大切な事よ」


 容赦ないねヘレン様。僕は苦笑を浮かべながらハンル様を見ていたんだ。


 それからサユリとヘレン様はお風呂に向かったので僕はまたハンル様とカタログを眺めていたんだ。

 けれどもその平穏もヘレン様がお風呂から出てくるまでだったよ。


「ハンル! ハーンルッ!! 大変よっ!! 革命だわっ!! これがあるなら戦争なんて起こらないわ!! 絶対に世界中の女性がこれを求めて戦争を止めるわっ!!」


 「ヘレン様、大声を出すとご近所に迷惑ですよ」と言おうとしてご近所が居なかった事に気づいた僕は偉いと思うんだ。

 だってヘレン様はバスタオルを体に巻いただけで飛び込んできたんだから!

 しかもその後に僕の妻まで同じ格好で!?

 

 ダメだ! 鼻血が!!


「ヘレン様、服を着て下さい!!」 


 サユリがそう言って飛び込んで来たから僕は慌てて


「サユリも服を着て!」


 叫んで知らせたよ。だってハンル様も居るからね。ここでポロリなんてあったら僕はハンル様を憎んでしまう。


「エッ、キャーッ!! す、直ぐに着てくる!!」


 サユリはポロリする事なく服を着に行ったからホッと一安心だよ。そしてハンル様は落ち着いてヘレン様に問いかけている。


「母上、落ち着いて下さい。いったい何があったのですか?」


 自分の母親だからね。落ち着いているのも納得だけどここには僕も居るんですから服を着てきて欲しいな。


「その前にヘレン様。ヘレン様もちゃんと服を着てきて下さい」


 僕がそう言ったけど興奮したヘレン様には通じなかったよ。


「そんな事は後で良いのよ! ヨウナシさん! 何でこれまでコレを隠していたのっ!!」


 えっと僕が責められるような物がお風呂にあったでしょうか?

 僕が不思議そうな顔をしてヘレン様を見たらヘレン様は焦れたようにご自分の髪を僕に見せながら、


「コレよ! コレ! シャンプーにコンディショナーよ!! サユリに聞いて使用させてもらって!! 見て! 私のこの髪を!! こんなにツヤツヤででもサラサラになってるのよ!!」


 あっ、あっ、そんなに動かれたら、ヘレン様ダメです!!

 僕が注意しようとした時には遅かった。ヘレン様が大きく動かれる度にゆるくなっていたバスタオルがハラリと……


 ブーッ!! 僕は盛大に鼻血を吹き出したんだ……

 金髪碧眼で四十代だけど二十代に見えるヘレン様のスッポンポンな姿は僕の鼻の耐性を大きく破壊したんだよ。

 思わず確りと見てしまった下の方。

 白人の女性は少ないって聞いてたけど本当だったんだぁ!


 それが気を失う僕の最後の思考だったよ。


「ヨウナシ殿! 大丈夫か?」

 

 ハンル様のその声を聞きながら僕は鼻から血を吹き出しながら気絶したんだ。


 気づいた時は何だか後頭部が柔らかいもので支えられていた。そして、目を開けると


「あなた、大丈夫? 後でお話しましょうね」


 僕と目が合ったサユリがニッコリと微笑み、目は笑ってなかったけれどもどこかホッとした顔をしてそう言う。

 いや、不可抗力だからね、サユリ。僕が見たくて見た訳じゃないからね。


 チラッと横を見たら落ち込んでいるヘレン様と、ヘレン様をお説教しているハンル様が見えた。


 ん? という事はここはサユリの膝の上? 膝枕してくれてるの!?


 僕は慌てて起き上がろうとしたけど、


「あなた、まだ少し鼻血が出てるから止まるまで待って」

  

 優しくサユリに押さえられてしまったよ。


「いや、でも、重いでしょ、サユリ。僕ならもう大丈夫だから」


 僕の声が聞こえたのかハンル様から声がかけられた。


「おお! 目覚められたかヨウナシ殿。母上がみっともないものを見せて申し訳ない!」

  

 いえ、ハンル様。みっともないなんてとんでもない! ミロのヴィーナスもかくやというほどの素晴らしいものでした!!


「どうせ、どうせ…… 四十を過ぎたオバさんの裸なんてみっともないわよ……」


 ヘレン様がとても落ち込んでいられる。これはダメだ! 僕は後からサユリに怒られる恐怖を押し殺してサユリの膝枕から起き上がり思わず叫んでいたんだ!


「ヘレン様!! 大変、失礼しました!! 見るつもりは無かったのですが、真正面だったのでつい見てしまい、余りの美しさに目が離せなくなってしまったんです!! 僕は妻のサユリを愛しておりますが、ヘレン様の素晴らしい肢体についつい興奮してしまい、このような失態を犯してしまいました! 本当に申し訳ありません!!」 


 これは落ち込んでおられるヘレン様に自信を取り戻して貰う為に本音九分九厘、お世辞一厘の言葉だからね、サユリ。どうか分かってね!!


 そう思って言った後にサユリをチラッと見たらニコニコ笑顔ではあったけど目だけが殺気を放っていたんだ。僕は内心で震えあがりながらも今はヘレン様の様子を確認する為にヘレン様の方に集中した。決して怖くて目を逸らしたんじゃない。


 僕の言葉にヘレン様は


「まあ! まあ!? 聞いた、ハンル? 美しいですって!!」


 良かった。自信を取り戻されたようだ。


「母上、ヨウナシ殿は気を遣って言ってくださってるだけです。調子に乗らないように」

  

 ハンル様がそう言うけれどもヘレン様はご機嫌のままだった。良かった。


「それでね、ヨウナシさん、サユリさん。このシャンプーにコンディショナーに石鹸があればドルガム帝国の女性たちも戦争回避のために動くと思うの!!」


 えー? 石鹸やシャンプーでですか? シャンプーやコンディショナーはまあまだこの世界には無いからそれなりに影響があるのは分かりますけど、石鹸は既にありますよね?

 そう思った僕は素直にそのままヘレン様に聞いてみた。


「ヘレン様、髪を洗って痛みを防ぐシャンプーやコンディショナーは分かりますけど石鹸は既にこの世界ににも有りますよね? それでどうやって動いてくれるんですか?」


 僕の言葉にヘレン様は残念な男を見るような目で見て言った。


「ハア、ヨウナシさんなら分かってくれると思ったのに。やっぱり男性なのね。確かに石鹸はあるけどこんなにお肌がスベスベもちもちになるような石鹸は無いわ。ヨウナシさんが気絶している間にサユリさんが調べてくれたけどこの世界の素材でも作れるって分かったから、絶対に作って販売すれば女性たちが立ち上がるのは保証するわよ。私もドルガム帝国の帝王の愛妾に二人ほど知り合いがいるからそこから広めればきっと戦争を止める動きが広まるわ!! シャンプーやコンディショナーがプラスされたら確実よ!!」


 そ、そうですか。女性の美意識に訴えるんですね。でもそれは良いかも知れないね。特殊な性癖の人を除いて男って女性には弱いものだからね。例え帝王一人が戦争だって喚こうが一人じゃ出来ないだろうし。


「分かりました。それならシンペディアでちゃんと調べて作れるようにしなきゃダメですよね」


「ええ、それでね。今回はお兄様にも協力して貰って、色々な香りや効果を持つものを他の国でも生産して貰おうと思ってるの。コッチが欲しいならこの国、アッチが良いならうちの国っていう風にすればより良いと思うのよ。なので各王家の事業として立ち上げれば良いと思うのよ。勿論、ヨウナシさんやサユリさんの名前が出ないようにするわ。表に立つのはお兄様かお義姉様にしてもらうわ。販売した売り上げの三割はヨウナシさんとサユリさんに還元するようにするから、どうかしら?」


「原価も分かってないから三割って言うのは決めない方がいいですよヘレン様。私も主人もそんなにはいりませんから。売れてから契約するという事にしましょう」


 そこでサユリが僕の気持ちを代弁してくれたよ。本当に僕には勿体ない妻だよ。僕はサユリにニッコリと微笑んだんだけど……

 サユリも微笑み返してくれたけど、まだ目は笑ってなかったよ……


 うん、お話合いが怖いや……


 とにかく、戦争回避の為に作る商品が決まったよ! 後は試作品を作って王家に献上して、怒涛の勢いで販売を開始だね!!


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る