第15話 伯爵家母子ご招待
その可愛さにポタポタと垂れそうになる鼻血を堪えながら僕はコクコクとサユリに頷いたんだ。
新婚旅行! なんて甘美な響きなんだろう。旅行先の開放感からサユリとあんな事やこんな事まで!? ダメだ! 鼻血が……
ポタポタを堪えていた所為なのかダバーと出てきてしまった。
「キャー、ヨウくん大丈夫!?」
サユリが慌てて僕に近づいて鼻を優しくティッシュで押さえてくれた。
それを見逃すヘレン様じゃなかったよ。
「サユリさん、その紙のような物は何?」
ティッシュを見てすかさずサユリに聞いてくるヘレン様の眼は圧が物凄かったよ。
「ひゃの、ここれはなんでしゅから、おひつひてしゅわって……(あの、ここでは何ですから、落ち着いて座って……)」
「そうね、それじゃ私の部屋に行きましょう!!」
強引に決められて僕とサユリはヘレン様の私室に強制連行されてしまった。私室へと連れ込まれた僕たちはヘレン様からの質問攻めにあう。
「先ずはその紙のような物について教えてちょうだい、サユリさん。それと、他にも家で加工出来そうな物は無いかしら? これはお金儲けの為に言っているのでは無いの。実はこの大陸の西の端にあるドルガム帝国が他の国に戦争を仕掛けて併呑していってるのだけど、ステーラ王国としてはその戦争をやめさせたいの。けれども向こうは止めるつもりは無い。けれども圧倒的な技術力でステーラ王国がこれまでに無い物を売りに出せば、手に入れる為にこちらの言うことを聞く可能性があるでしょう? もちろん、力付くでという可能性も出てくるんでしょうけど、ドルガム帝国は西の端、ステーラ王国は東の端で戦争をするにも莫大な経費がかかる事は間違いないわ。それに今ドルガム帝国と戦争中のヴァン王国は我が国や他の各国からも物資や傭兵が行って手助けをしているから、小康状態を保っているわ。今のうちに打てる手を打ちたいのが私たちの気持ちなのよ。戦争は何の関係もない民たちに一番大きな被害をもたらすわ。それを避けたいのよ」
う〜ん…… 話の内容が重たいなぁ。でもそうか、多分だけど先に転移した人たちはそのドルガム帝国に転移したんだろうなぁ。
後でシンペディアで調べてみよう。
「まずこれはティッシュと言って僕たちの世界では主に鼻をかむのに使用されてました。まあ、ちょっと刃物で指を切ったりした時に止血用にも使ったりもしましたけど」
「どうすればこんなに薄く作れるのかしら? それにこの薄さと柔らかさななら下品な話で申し訳ないけど、便をだした後のおしり拭きにも仕えるんじゃない?」
「それは使えない事もありませんが、トイレ事情がこちらの世界とは違っていて僕たちの世界ではおしり拭きには別の水に溶ける紙、トイレットペーパーというものを使用してたんです。僕たちの世界では水洗トイレといって、大小便をした後にレバーを捻ると水が流れて便器を綺麗にする仕組みだったものですから」
僕の言葉にヘレン様は驚いている。
「まあ! そんなトイレが使用されていたのね! その流した後の物はどうなるの?」
「僕たちの世界ではそういう物は下水といって専用の配管を通して処理場へと運ばれて、殺菌処理などを経て無害となった水を海に流していました」
「処理施設がちゃんとあって、そこに流れるように配管まで整備されていたのね。凄い世界だわ!!」
ヘレン様がそう驚いているけど、僕やサユリにしてみればコチラの世界のトイレも驚きに満ちた物だよ。便器の下は川になっていてジェリーたちの多くいる草原の一角につながっているんだ。
で、そこに溜まった物をそれが好物なジェリーが食べるというシステムなんだよ。
難点は最低でも半年に一回は増えすぎたジェリーを討伐しなくちゃいけない事だったんだけど、それも僕とサユリによって喜んで討伐に行くようになったから難点じゃなくなったってハンル様が喜んでたなあ。
「どうすればここまで薄く出来るのかは調べないと僕たちにも分かりません。この世界の技術力で作れるのかもですね」
「そう、そうね。ごめんなさいね、無理を言ってしまって。でも何か他には無いかしら? 平和な世界には当たり前にあるような簡単な物でも良いの。私たちの世界でも作れそうな物でヨウナシさんやサユリさんが思いつく物って何か無いかしら?」
そう言われても僕たちも考えてしまうけど、ここでサユリが僕とヘレン様に提案した。
「ヨウくん、ヘレン様を自宅にご招待したらどうかしら? ヘレン様、ヨウくんと私の住まいに来てみませんか? 私たちでは気づかない事をヘレン様ならお気づきになるかも知れませんから。どうかしら、ヨウくん?」
まあご招待するのは構わない。ヘレン様は家族じゃ無いから一度ご招待したからって勝手に自宅に来れるようになる訳じゃ無いしね。
ただ気に入ってしまって四六時中連れて行けと言われると困る事になると思うんだけど……
「まあ!? 使徒様の家にご招待頂けるの!! それなら私一人でお伺いする方が良いわよね。多勢で行くのはご迷惑になるでしょうし。私、主人に許可を取ってくるわ! 少しだけ待っててくれるかしら、ヨウナシさん、サユリさん」
うん、今さらダメだって言えそうに無いな。ヘレン様だけなら良いか。僕はいそいそと部屋を出ていったヘレン様を見て断るのを諦めたんだ。
そして五分後、ヘレン様とザクバ様にハンル様までやって来られた。そしてザクバ様からお願いがあった。
「ヨウナシ殿、どうかハンルも連れていってやってくれぬか? 伯爵家当主としての目線で見るのも大切だと思うのだ。どうかよろしく頼む!!」
「分かりました。それじゃ、ヘレン様とハンル様を僕とサユリの自宅にご招待しますね。二〜三日戻らなくてもお二人の無事は保証しますのでご安心下さい」
「おお! よろしく頼むヨウナシ殿。ハンル、確りと見て来るのだ!」
「はい、父上! 母上、それでは参りましょうか。ヨウナシ殿、お願いする」
ハンル様の言葉に僕はサユリと頷き合い、お二人を招待する意思を持って自宅へと飛んだ。
自宅前に着いたらちゃんとヘレン様とハンル様がいてホッとしたのは心の中にしまっておくよ。
この世界の人を連れてくるのは初めてだからね。実はかなり緊張してたんだ。
「ここが、ヨウナシさんとサユリさんの家なのね」
「木で出来ているのか。何と美しい!」
「あの、僕たちの世界の文化の一つで家に入る時は靴を脱いで下さいね。お願いします」
そう言うと二人ともさっそく靴を脱ごうとしたので慌てて止めたよ。
「あっ、待って、違います。ここじゃなくて家の中に靴を脱ぐ場所がありますから、そこでお願いします!」
言い方を間違えてしまったよ。僕たちは靴を脱ぐ為の玄関が当たり前だけどこの世界の人たちには家に入る時に脱げっていわれたら外で脱いじゃうよね。
僕は扉を開けて玄関に二人を招いたんだ。
「ここで脱いで下さい。そして上がったらサユリが用意している履物、スリッパと言うんですがそちらを履いて下さいね」
戸惑いながらも二人とも従ってくれた。そして、
「母上、家の中で靴を脱いでみたら何やらリラックス出来るようです」
「ハンルもそう感じた? 私もそう思ったの。このスリッパという履物も良いわ。それに靴を脱いで上がると家の中に土などの汚れが落ちないのね。凄い利点だと思うわ」
そう感想を言い合っている。とりあえずリビングに案内をして座って貰った。サユリが急須に新しい茶葉を入れて緑茶を二人に振る舞った。
「おお、紅茶とは違うが優しい風味の良い味だ」
「本当ね、このお茶は私たちの世界でも栽培出来るのかしら?」
「出来ますよ。というかもう既にされてる筈です。紅茶も同じ茶葉ですからね。茶葉を摘んだ後の処理の仕方が違うだけなんです」
僕の言葉に続けてサユリも
「ハンル様、ヘレン様、この緑茶は風邪の予防にも役に立ちますし、中に含まれる栄養には健康になる効果もあるんですよ」
と緑茶の良い点を教えていた。
「なんと! その処理の仕方は教えて貰えるのだろうか?」
「はい。それは直ぐにでもお伝えします」
「ヘレン様、私と一緒にお風呂に入りませんか? きっとヘレン様が気に入られると思う物があるんです」
サユリの誘いにヘレン様もすっかりと乗り気になられた。
「まあ、それじゃお願いしようかしら! あ、でも着替えが無いわ……」
途端にシュンとなるヘレン様。
「ヨウくん、カタログを呼び出してくれる?」
妻に言われて僕は直ぐに呼び出した。その冊数は五冊。二冊は下着、三冊は寝間着〜普段着、お洒落着のカタログだ。
「有難うヨウくん。ヘレン様、お風呂に入る前に先ずは着替えを選びましょう! きっと楽しいですよ!」
目をキラキラさせてカタログを見るヘレン様を連れてサユリは自分の部屋にヘレン様を連れて行った。
そして僕はハンル様のお相手だ。
「ヨウナシ殿、その呼び出しとは? 教えられないならば言わずとも構わないが……」
僕はハンル様に僕の能力を打ち明けたよ。
「何と、この空間であればヨウナシ殿の知る限りの物を呼び出せると!? やはり神様の使徒様なのだな」
それからハンル様と話合いをしたんだ。基本的にはハンル様も戦争には反対で、今ヴァン王国と小康状態を保っている間に何とかドルガム帝国の侵略の意思を無くしたいと思っているんだって。
その為には戦争を起こしても良いことなんて無いぞと認識させるのが良いという事で他の国と話合いが済んでいるらしいんだ。
「頼む、ヨウナシ殿。私にヨウナシ殿の世界の物をたくさん見させて貰えないだろうか。これまで私たちが知らなかった物で、我が領地や我が国、又は近隣国で再現出来そうな物を探したいのだ。遠回りのようだがそうする事が平和に戦争を回避出来る手段だと思うのだよ」
はい! 僕も争いは嫌いですから、全力でハンル様にお応えしますよ!!
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