第13話 主人公か?
ヨウナシとサユリが目出度く夫婦になったその時より少し時を戻してみよう。ヨウナシたちがこの世界に来た頃である。
タイスケは積極的に兵士に話しかけた。馬車の中から隣を馬で走る兵士の一人に質問をする。
「あの、僕たちは何処まで連れて行かれるんでしょうか?」
しかし兵士の返事は
「舌を噛むぞ。休憩場所で質問に答えてやるからそれまで待っておけ。心配するな、俺たちはお前たちを見下したりはしない」
ニッコリと笑ってタイスケの事を心配するものだった。なのでタイスケは休憩場所までは我慢することにした。
そしてその日の野営場所に到着したのだが……
「隊長、二人は別にテントが欲しいそうです」
「そうか、ならば予備のテントを出してやれ」
兵士の一人がそう報告して赤毛の女性ながら隊長をしている者がそう答えた。二人とはもちろんだがタクスとヤヨイの二人である。
そして野営準備をタイスケとルミとサキは手伝い、タクスとヤヨイはただ見ていただけであった。そして夕食の時にも何もせずに、
「何だ、こんな食事しか出ないのか?」
「いやだ、私こんなの食べられないわ!!」
文句を言いながらも一番多く食べてさっさとテントに入っていく。それにはタイスケが話しかけた兵士も呆れた様子だった。
「全く、俺たちが何も知らないとでも思っているのかね? さてと、質問に答えようか少年」
そう声をかけられたタイスケは「お願いします」と頭を下げた。この場にはタイスケとルミとサキ。それに話しかけた兵士と隊長である女性兵士だけがいた。他の二人の兵士は後片付けをしている。
「俺たちがお偉いさんから聞いた命令は君たち五人を国境に連れて行きその場で降ろして戻って来いという命令だ。国境はドルガム帝国と戦争中のヴァン王国との国境になる」
兵士が質問に答えてくれたのでタイスケは更に質問をした。
「そこで降ろされた僕たちはどうなると思いますか?」
その質問には隊長が答えた。
「間者として疑われてヴァン王国に拘束されるだろうな」
やっぱりとタイスケは思った。しかしそこで隊長が小声でタクスたちの居るテントに聞こえないように囁いた。
「君たちはどうしたい? 私たちは実はヴァン王国に
その言葉にタイスケは考える。突然の申し出に訝しむと共に、この隊長の女性の言葉に嘘は感じられないとも思っていた。けれどもここで直ぐに返事をするのは間違いだとも思っていた。
「三人で相談して明日にはお返事するという事でも良いですか?」
タイスケの言葉に合格だという感じで隊長は微笑み、
「うむ、良いだろう。私はこの三人をまとめているレンという。こちらは副隊長をしているサックだ。あっちで片付けをしている大きい男はノーハで小さい方はカントだ。良く三人で相談して返事をしてくれ。君たちのテントはあの二人とは離してあるが相談は小声でするようにな」
それで兵士たちとの話合いは終わりタイスケたちはテントに入った。風呂はないが湯を貰えたので女性二人がテントで体を拭いている間はタイスケは外に出ていた。
その時にまたタクスとヤヨイが文句を言っているのが聞こえた。
「風呂にも入れないとはな!」
「もう! こんなんじゃ綺麗になれないわよ!」
文句を言っている二人だったが大男のノーハに無言で見つめられ、何も言えずにテントに引っ込んでいた。
タイスケはそれを見ながらあの二人とは確実に別行動をしないとダメだと心に誓った。
「タイスケくん、私たちは終わったわ。どうぞ」
サキとルミがテントから出てきたのでタイスケがテントの中に入ろうとするとルミとサキも入ってきた。
「えっと、サキ先生にルミ。今から僕が体を拭くんだけど……」
「ええ、そうね」
「うん、手伝ってあげる」
「いやいや、手伝いなんて要らないから!?」
タイスケは日本にいる頃にルミと付き合っていた。もちろん清い交際だ。だがタイスケと付き合っていたから陰キャと言われるルミがイジメに合わなかったという事実もある。
タイスケの父親は警察官僚で今は滋賀県警に単身赴任中である。それを知っている鬼頭はタイスケには関わらないようにしていた。
なのでタイスケがヨウナシにジュースを買いに行かせると自分がイジメようとしていても止めていたのだ。
タイスケは父親に似て長身で百七十七センチある。そして母親に似て武術好きでもあった。だが武術好きは公表してる訳じゃないので、父親の職業により鬼頭が敬遠してるのだろうと思っている。
鬼頭の父親は県議会議員だからタイスケの父親の職業について何処かから耳にしたとタイスケは考えていた。
「そう言わないでタイスケくん。私とルミちゃんは話し合ってこの世界では協力し合おうって事になったの」
「うん。だからタイスケ、お世話させて」
タイスケは戸惑っていた。ルミはともかくサキまでそんな感じになるとは思っても無かったのだ。だがサキもまだ二十四歳である。
一番年上であり自分がシッカリとしなければとういう思いはあるのだが、今のところタイスケに頼りっぱなしなのも事実だ。兵士たちに果敢に話しかけてくれ、この先の行動を決めようと動いてくれているタイスケを頼もしく思ってしまうのも無理はなかった。
そこでルミと二人で体を拭いている時に話し合い、ルミとタイスケが付き合っている事を知り自分が入っても構わないかとルミに正直に打ち明けたのだ。
ルミは暫く考えた後に自分が一番ならと頷いた。ルミはタイスケの好みを知っている。身長が低い女性が好みなのだ。ルミの身長は百五十二センチ、サキもまた背は低い方で百五十五センチである。
三人で行動するのならば、女性二人でタイスケを支え合った方が良いとルミは考えたのだった。
「いやあの、お世話してもらうような年じゃないから。自分の体ぐらい自分で拭けるよルミ」
「お世話したいの、ダメ?」
悲しそうな表情を作りタイスケにそう言うルミ。タイスケはコレに弱い。
「いや、ダメって訳じゃないけど…… でもサキ先生まで……」
「サキって呼んで、タイスケくん。私、もう覚悟は決めてるから! それに私いままでお付き合いとかした事ないから、その、経験も無い…… よ……」
世の男というのは女性の【初めて】にも弱いものである……(作者だけか?)
「く、あの、その、サキ、僕で良いの? ルミもそれで良いのかな?」
タイスケの質問にコックリと頷く二人。
主人公じゃないのに主人公ばりに二人の女性に愛されるモブキャラが誕生した瞬間だった!!
それからタイスケは観念して二人に体を拭いて貰い、その際にジュニアも二人に見られて(顔を隠していたが指の隙間からシッカリと見ていた二人)開き直ったタイスケは「僕だけ見られるのは恥ずかしい」と男の性をむき出しにして二人も裸にして、そして……
ヘタレなので手出しはせずにそのまま用意された掛け布団に三人で
「私は信じても良いと思うわ」(サキ)
「タイスケ、私も信じて良いと思う。あの兵士さん達は私たちをバカにしてないから」(ルミ)
二人からの意見を聞いて明日、タクスやヤヨイが近くに居ない時に話をすると言って三人は就寝した。勿論だがタイスケは目が冴えに冴えてなかなか寝られなかったのは当たり前であった。
好みの女性二人が両側から裸でピトッとひっついているのである。
タイスケは必死で悟りを開こうという苦行僧さながらであった。
翌朝、眠い目をこすりながらタイスケは起きた。結局は一時間ほど寝れたのだがやはり眠い。
それでも何とか起きて服を着てテントの外に出ると兵士たちが朝食の準備をしていた。
タイスケが起きたのでルミとサキも服を着てからテントから出てきた。兵士たちの様子を見て三人は
「手伝います」
朝食の準備を手伝い始めた。その時にレンから
「あの夫婦二人はまだ寝ている。それで、相談した結果はどうなったんだい?」
聞かれタイスケは「お世話になります」と返事をしたのだった。
「そうか、私たちを信じてくれるのだな。それでは今日は町に入っての休憩になるから君たちの服を買おう。そのままでは目立ちすぎるからな。普通の平民が着る服になるがそれは勘弁して欲しい」
「はい、分かりました。でも僕たちはお金を持ってませんけど……」
「それは気にしなくて良い。私たちは既に君たちを送る報酬を得ている。中々の金額を貰ったからな」
そう言ってニッコリと笑った後に続けてレンは話してくれた。
「先に言っておこう。私たち四人は三年前にドルガム帝国との戦争に敗れた国の兵士だった。なので帝国への忠誠心は無い。また、私たちより先に多くの兵士や民がヴァン王国やその先の国々に亡命している。私たち四人が亡命希望の最後くらいだと思う。そういう意味では君たちは運が良かったと言えるだろうね。先に亡命した者たちが私たちの身元を保証してくれるし、私たちと共にあれば君たちの身元も保証されるからね。ヴァン王国の偉いさんには顔が通じてるからその点は安心していい。それと、私と副隊長のサックは夫婦だ。ついでにノーハとカントも
驚愕の事実を知らされたけれどもタイスケ自身は自分にはそんな気持ちは無いなと思ったので、
「僕自身は女性が恋愛対象ですが、男性なのに女性の精神を持つ人に偏見はありません。それは僕の連れである女性二人もそうだと思います」
そう返した。その言葉を聞いてホッとした表情をするレン。
「そうか、良かった。私たちの世界ではその偏見がまだまだあってな…… あの二人は安住の地を求めているが中々な…… 因みにノーハがそうなんだ。それを聞いても大丈夫か?」
タイスケはてっきりカントの方が女性の精神を持っていると思っていたのでレンの言葉に驚きはしたが、
「ええ、別に問題はありません。僕たちの居た世界でも偏見はありましたけど、毛嫌いする人は少なくなっていたと思います」
そう答えてレンを更に安心させたのであった。その後、タクスたち二人が起きてくるまでの間にレンと細かい話を決めて朝食を食べ、馬車に乗り町まで進んだ。
そこでタクスたち二人は兵士たちに
「私たちはこの町で良い! ここに住む事にする!!」
そう高らかに宣言したのでレンも本人たちがそう望むならば構わないと言って好きにさせることにした。
「但し、何の保証もなくここに住むのは難しいからな。私たちは任務を遂行するので君たちの保証人にはならない!」
そう断言するのは忘れなかったのは流石と言えるだろう。
この後、町に残ったタクスたちは大変な苦労をするのだが、それはまた別の機会に語るとしよう。
タイスケたちはその後も順調に進み(ただしタイスケは毎日、毎晩寝不足である)遂に国境へと辿り着いたのだった。
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