第12話 王様のお願い
って、今ハンル様、陛下って仰いました!?
僕は驚きで固まってしまったよ。そんな僕を見ながら頷きながら近づいてくるハンル様。
「ヨウナシ殿、陛下がご面倒をかけたようだ、申し訳ない。サユリ殿も……」
「何だよ〜、ハンル。俺が悪いみたいに言って」
「全面的に陛下が悪いに決まっております。どうせボアを退治するお二人を見て腕試しをしたいと思われたのでしょう。それも本気を出させる為にサユリ殿に気のある素振りなどを見せて。直ぐに王妃様に連絡致します!!」
ハンル様のその言葉にホーン陛下はジャンピング土下座を決めた。
「すいやっせんしたーっ!! 俺が悪うございました!! どうか、どうか、妻にはご内密にお願いしやっすーっ!!」
いや、どんだけ怖い人なんだろうね王妃様。僕は刀を鞘に収めてサユちゃんの元に行く。
「ヨウくん、凄かったね! 剣を斬るなんて!!」
サユちゃんは目をキラキラさせて褒めてくれたよ。僕もサユちゃんを守れて良かったよ。それに少しは格好良いところを見せられたと思うしね。
「それじゃ戻ろうかサユちゃん。今日はもう退治する気分じゃなくなったしね」
「うん、ヨウくん。村の人たちにボアを渡して帰ろう」
そう言って村の方に歩き出した僕たち二人をホーン陛下が止めたんだ。
「あっ! 待て、待ってくれ! さっきの非礼は幾らでも詫びるからどうか待ってくれ!」
「陛下、これ以上はダメですよ」
「そう言うなよハンル。俺としてはこの国最強を自負する俺の剣を斬ったヨウナシが気になって仕方ないんだからよ」
あくまでもそう言い張るホーン陛下に僕は
「剣を斬れたのはスキルのお陰です。ご質問は以上でよろしいですか?」
アッサリとそう言ってその場を後にしたよ。後ろで何かゴチャゴチャ聞こえたけどハンル様にお任せして僕たちはさっさと村に戻ったんだ。
村に戻って解体所でボア二体を渡して家に戻る僕たち。家に入りしっかりと内鍵をかけてから自宅に飛んだよ。
「ふう〜、これで安心だねサユちゃん」
「うん、ヨウくん!」
何だかサユちゃんのテンションが高い。そんなに僕が格好良かったのかな? そうだと嬉しいな。
「ヨウくん、あのね、その……」
サユちゃんが言い淀む。
「どうしたの、サユちゃん? 僕たち二人は家族なんだから何でも言ってよ。自宅に何か不満点でもあった?」
僕はこの自宅に何か不満があるのかと思いそう確認してみる。
「ううん、この自宅には何の不満も無いの! その、家族についてなんだけど…… 私たち、ハンル様たちには夫婦って言ってるでしょ?」
ハッ!! まさか仮初とはいえ咄嗟に僕と夫婦となった事に不満が!? うう、それなら仕方がないね。これからは
でも僕のそんな思いは次のサユちゃんの言葉で消し飛んだんだ!!
「それを本当の事にしたいの!! ヨウくん、私と夫婦になるのはイヤかな? 私はヨウくんしか考えられないの!!」
僕は今、天国にいるんでしょうか? 既に魂だけの存在となってるんでしょうか? 神様、夢なら覚めないで下さい……
半ば昇天してしまった僕。そんな僕を心配してサユちゃんが声をかけてくれていたんだ。
「……くん、ヨウくん!! どうしたの!? 大丈夫!! 返事して、ヨウくん!?」
「ハッ!? あ、ああサユちゃん、ゴメンよ。とても幸せな夢を見ていたんだ。サユちゃんが僕と夫婦になってくれるなんて言ってくれた夢を……」
「それは夢じゃないからっ!! 現実だよ、ヨウくん!!」
サユちゃんのその言葉に僕の頭はパンクしてしまった!!
「えっ? えっ!? げっ、現実!! まさかぁ〜、超絶美少女のサユちゃんが僕なんかと…… えっ!? ホントにホントッ!! 神様! 有難うございます!! 生きてて良かった! もう今すぐ死んでも良い!!」
「だっ、だめだよ! ヨウくん! 死んじゃだめ!! それじゃ、ヨウくん! 私と夫婦になってくれるのね!!」
「ふっ、
「フフフ、私が言おうと思ってたのにヨウくんに取られちゃった」
どうやら僕はサユちゃんの言葉を奪ってしまったようだ……
腹を切って詫びよう!
「ちょっ、ちょっとヨウくん! 何してるの!? 急に!?」
服をまくり上げてお腹を出して刀を抜いた僕を見てサユちゃんが慌てだした。
「いや、僕は今、僕の大切な妻の言葉を奪ってしまったから腹を切って詫びようかと思って……」
「いきなり私を未亡人にしないでよ、ヨウくん。これから一緒にいっぱい想い出を作って行くつもりなんだから!!」
もう僕は感極まってお腹をだしたままサユちゃんを抱きしめてしまったよ。女の子って想像以上に柔らかいんだね。いや、これはきっとサユちゃんだからだ!!
「ヨウくん…… あの、誓いのキスを……」
僕を見上げるサユちゃんの目が潤んでいた。
「サユちゃん……」
その夜、僕たちは一緒のベッドで寝たんだ。翌朝、少し赤い色が点々とついたシーツが…… 何があったのかはご想像にお任せしますと言いたい所だけど、僕の鼻血なんだよね……
何もしなかったよ。妄想以外は……
ギンギンに目が冴えて寝られなかった僕だけど元気いっぱいに朝から朝食を作ってサユちゃんを起こした。
「サユちゃん、ご飯できたよ。食べよう!」
ホントは寝顔をずっと眺めていたかったけど起きたサユちゃんに変態さん認定されるといけないので涙を飲んでサユちゃんを起こした。
「う〜ん、おはよう。ヨウくん…… って、もう朝なの!? ご、ごめんなさい! 私、朝早く起きてご飯を作ろうって思ってたのに……」
何故かシュンとなったサユちゃんに
「それじゃ明日の朝はお願いするよ。今日は僕の作ったご飯を食べてね」
そうお願いしたんだ。するとサユちゃんは顔を少し赤らめながら
「うん、ヨウくん有難う。明日の朝は絶対に私が作るからね!」
って言ってくれたよ。可愛い! 僕の妻は世界一可愛いよ!!
それから五日間、僕とサユちゃん、いやサユリは新婚さんとして自宅で過ごしたんだ。呼び方は僕がサユリと名前呼びで、僕のことは二人切りの時はこれまで通りヨウくん。人前では
顔を赤らめて少しモジモジしながらサユリにそう言われた時にまた鼻血が出てしまったけどね。
そして六日目。さすがにもう王様や大公殿下、公爵夫人も居ないだろうと思って先ずは伯爵邸に行ってみたんだ。
…… 甘かった、まだ居られましたよ、王様だけ…… 国の統治は大丈夫なのかな?
「おっ!? や〜っと来たか、ヨウナシ、サユリ嬢! ず〜〜〜っと待ってたんだぞ! 俺は暇だからなっ!!」
暇なんか〜い!!
「済まない、ヨウナシ殿、サユリ殿。どうしてもお二人にもう一度会うまでは戻らないと仰ってな……
ハンル様が心底すまなそうに僕たち二人に謝ってきたよ。いや、ハンル様の所為じゃないですから謝らないで下さい。
「ハンル様、どうですか? 軌道に乗りましたか?」
「ああ、各領町、領村、そしてこの領都でも既に順調な生産に入っているよ。本当に助かっている。先ずは領内での販売と隣の子爵領へと卸す事に決まったよ。うちの領地にあるベル商会が中心となって販売をひと月後に開始する予定だ」
僕が王様を意図的に無視してハンル様に話しかけ、ハンル様の返事を嬉しく聞いていたら、
「そうそう、ソレだよ。ジェリーの皮なんて何の素材にもならないとスキル鑑定持ちたちが断言したのに何でヨウナシやサユリ嬢には役に立つって分かったんだ? そこの所を詳しく教えてくれ」
なんて横槍が入ったけれども僕はそれも無視する。
「良かったです、ハンル様。それじゃ僕とサユリはまたペリー村に戻ってレベルアップに励まさせて貰いますね」
「あ、ああ。もちろん構わないが…… その、ヨウナシ殿……」
言いづらそうにハンル様が言葉を濁す。まあ自国の王様ですからね、無視し辛いのもあるでしょうね。でも僕とサユリには関係ありませんから!
「何でしょう、ハンル様?」
僕がハンル様にそう尋ねるとイケオジが拗ねだした。
「良いんだ、どうせ俺なんて…… こうやって自分の国の民にも無視される王なんだよ…… 帰ったら王妃に泣きつこう……」
いや〜、オジサンが拗ねても可愛くないですよ、王様。僕の妻が拗ねたら可愛いですけどね!
「ホーン様、先ずは訂正させて下さいね。僕とサユリはステーラ王国の民ではありません。今はハンル様にお世話になってますけどね。それとご質問の件ですが妻のサユリのスキルで分かったとだけお答えしておきます」
ハンル様たちにはバレちゃったけど、神様の使徒(自覚は無いけど)なんてバレたら何かと言われてしまうかも知れないからね。まあ、ホーン様も無理矢理なんて事はしそうにない王様だけども、それは僕の印象だけだから。
「そうか。スキルならば無理に聞けぬな。それはそれとして…… あの馬車を売ってくれ!!」
アンタもソレかーいっ!!
心の中で盛大に僕はツッコミました!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます