第11話 産業革命と王様

 これから、ハンル様の領地の産業革命が始まるよ!!



 とは言っても先ずはちゃんとした説明をしないとね……


 僕とサユちゃんは自宅に戻って【シンペディア】を立ち上げたんだ。サユちゃん用にPCを一台呼び出したから二台で仕事が進むのは良いよね。


 それから手分けして加工方法を調べる僕とサユちゃん。今頃、ハンル様たちは領村二つの村長に連絡してるかな?

 領町の町長にも連絡してるだろうし大忙しだろうね。

 今回、僕やサユちゃんが提案したジェリーの皮の使用用途なんだけど、五種類あったんだ。


【断熱材としての効果】

 ジェリーの皮を乾燥させてから粉砕して、木材加工の時に出るオガクズと一緒に水と混ぜて練る。練った物を型枠に入れて乾燥させると火に強い断熱材になるんだって。(領町で加工予定)


【湿布】

 ジェリーの皮にハップという木の樹皮を粉砕した物を乗せると融着して、捻挫とか打ち身で炎症を起こした部分に貼ると炎症と痛みを鎮めてくれるんだって。(領村で加工予定)


【防水(撥水)】

 ジェリーの皮を乾燥、粉砕した粉をお湯と混ぜてドロドロにしたらぬのや机に塗って乾かせばあら不思議? 布や机が水を弾いてしまうよ。雑巾に使うと困っちゃうよね。(領町で加工予定)


【胃薬】

 ジェリーの皮を乾燥、粉砕させた物に同じく魔獣のビッグベアの胆を乾燥、粉砕した物を一対二の割合で混ぜるととても良く効く胃薬になるんだって。整腸効果もあるそうだよ。(領都で加工予定)


【武器強化】

 ジェリーの皮を乾燥、粉砕した粉を武器に擦り込むと斬れ味が上がったり、武器の強度が上がるんだって。但し持ち手に塗ると滑りやすくなるから要注意だよ。(領村で加工予定)



 五つの効果があるからそれぞれに分けて加工場を作るんだって。必要素材はハンターギルドに依頼を出すそうだよ。


「良し、これで良いよね。ハンル様に渡そうか」


「うん、ヨウくん。ハンル様の領地に活気が出ると良いね」

 

「きっと出るよサユちゃん! 雇用もうまれるし子供たちもお小遣い稼ぎが出来るからね!!」


「そうだね!」


 僕たちはそう話し合ってハンル様の元に戻ったんだ。今はバルさんや他の人たちも動いて体制を整えている。だから直接ハンル様の執務室に向かったよ。ノックをして返事があったので中に入ると、一通の手紙を見て眉間にシワをよせたハンル様がいたよ。


「どうかしましたか、ハンル様?」


「うん? ああいや、ヨウナシ殿。大した事では無いのだがな…… 陛下が母上の様子をお忍びで見に来られると言ってきてな…… ああ、母上はもともとは王家の出でな。陛下の末の妹にあたるのだ。末子であった母上はあに(二人)あね(一人)がたからたいそう可愛がられてたのでな…… 陛下だけなら何の問題も無いのだがな…… 大公殿下に公爵夫人までもが一緒に来るとこの手紙に書いてあってな……」


 既にお忍びで来られる状態じゃ無いような気が僕にはしますけど?

 素直にハンル様に聞いてみたら、


「はあ〜…… ヨウナシ殿の言うとおりだよ」


 ハンル様も認めたよ。


「来られるのは大公殿下が一番で三日後に。その更に三日後に公爵夫人が、更に三日後に陛下が来られるそうなんだが……」


 そりゃ眉間にシワもよりますよね。でも僕とサユちゃんには関係ないですよね?


「うむ、勿論だとも。ヨウナシ殿とサユリ殿たちは私と共に産業の発展とご自身のレベルアップを目指してもらえば良い。陛下がたのお相手は父上と母上に一任する事にする」


 そう決めたハンル様に僕とサユちゃんはプリントアウトした紙を手渡した。


「おお! これがそうか! 武器強化についてはこの領都から一番近い領村【ペリー】で行う事となったのだ。村長に話をして村長が村人たちに説明をしたら子供たちもやる気になっていると言っていたそうだ。子供と言っても十歳以上と条件を設けたからな。ジェリー相手に怪我をする事も無いだろう。そこで提案なのだがヨウナシ殿とサユリ殿、ペリー村には空き家が一軒あるのだ。陛下方が来られている間はそこで過ごす事にしないか?」


 僕とサユちゃんはハンル様からの提案に顔を見合わせてから返事をした。


「そうします。僕たちは今日からでも構いませんよ」


 僕もサユちゃんも王様のような偉い人には会いたくないし、他の大公様や公爵夫人様もハンル様のような良い貴族かも分からないからね。


「おお、ではマーヤかミーハに案内させよう。二人ともペリー村が故郷なのだ。勿論だけどバルもそうだがバルは今は忙しいのでな」


「はい、分かりました」


 そうして僕たちは今日からペリー村に移動して、ペリー村での武器強化について相談に乗ったり僕たち自身のレベルアップに励む事になったんだ。


 でもまさか…… 一国の王様があんなに身軽な人だとはこの時は僕もサユちゃんも思っても無かったんだよ…… 


 僕とサユちゃんがペリー村に移住して一週間が過ぎたよ。その間に領都ペリに大公殿下と公爵夫人がやって来たという話は村長さんを通じて知った。


 僕とサユちゃんは初日、二日目、三日目は村長さんと一緒にジェリーの皮の乾燥、粉砕をする工場というか倉庫のような建物で、手で粉砕する作業を手伝ったんだ。


「ヨウナシ様、サユリ様、要領は分かりましたので、明日からはお二人のレベルアップに励んで下さい」


 村長さんがそう言ってくれたから四日目からはサユちゃんと一緒にペリー村近辺の害魔獣、スモールアイアンファングボアを相手にレベルアップに励んだんだ。


 村の畑を荒らす悪い魔獣だからね。一所懸命に退治したよ。だから僕もサユちゃんも二つもレベルアップしたんだ。



名前∶ヨウナシ

年齢∶十六歳

性別∶男性

職業ジョブ∶ハンター

位階レベル∶5

HP∶103

MP∶63

攻撃∶84

防御∶58

武器∶刀(短め)

防具∶リザードンの革鎧一式(炎、酸耐性有)

魔法∶火の魔法、水の魔法、風の魔法、地の魔法

技能スキル

【自宅】【武器適正】【防具適正】【魔法】【言語完全理解】【魔獣ハンター】【刀術】【抜刀術】

家族∶サユリ


名前∶サユリ

年齢∶十六歳

性別∶女性

職業ジョブ∶ヒーリングマスター

位階レベル∶5

HP∶56

MP∶98

攻撃∶60

防御∶98

武器∶ハチェット(二刀流)

防具∶リザードンの革鎧(女性用、炎、酸耐性有)

魔法∶回復の魔法、補助の魔法、強化の魔法

技能スキル

【アイテムボックス】【言語完全理解】【防御補正】【見極眼みきわめ】【創造】【投斧】【唐竹割】

家族∶ヨウナシ


 そしてスモールアイアンファングボアのお肉は村の人たちと分け合って食べたよ。日本で食べてた豚肉よりも栄養価が高いんだって。見極眼でサユちゃんが確認してくれたんだ。

 ジェリーは村の子供たち(十歳以上の子)六人が毎日張り切って退治してくれてるよ。討伐報酬で一体につき十ゴン、皮の買取額が二十ゴン。一日に五体退治したら百五十ゴンになるんだ。百五十ゴンだと肉串が一本五十ゴンだから三本も買えるんだよ。

 村長さんが子供たちも責任感を持つ事を知ってくれて良かったって喜んでたよ。

 他の領村や領町でも同じように子供たちが張り切ってくれてるらしいよ。


 だから僕とサユちゃんも子供たちに負けじと、今日も張り切ってボア退治に出かけていたんだ。

 二頭のボアを退治して誰も居ないのを確認してからサユちゃんのアイテムボックスに入れて貰ったんだけども……


「ほう!? 異次元箱持ちか?」


 突然、僕たちの背中の方から声がかけられたんだ。慌てて振り向くとイケオジな方が軽装だけども装備を身にまとって立っていた。

 腰には剣があるけれども手は触れてなかったよ。


「あの…… どなたでしょうか?」


 僕はサユちゃんを守るように前に出てイケオジに聞いてみた。


「ああ、突然すまなかったな。俺はホーンというハンターだ。見たところお前さん達もハンターなんだろ?」


 そう聞かれたけれども僕たち二人はハンターギルドには登録してないから


「いいえ、違います。僕たちは向こうにあるペリー村に住む夫婦です。僕はヨウナシといいます。妻はサユリです」


 ちゃんと否定しておいたよ。


「なんだぁ、夫婦かよ。ただの付合いならそっちのお嬢ちゃんを口説こうかと思ったのにな。まあ、それでも一応聞いておこうか? サユリちゃん、そっちの冴えないヨウナシを捨てて俺に鞍替えしないか? ヨウナシよりも快適な生活を約束するぞ!」


「お断りします。私の夫以上に快適な生活を送れるように出来る人は居ませんから」


 即座の否定に面白くなさそうな顔をするホーンさん。でも当然だよね。僕には自宅があって日本と同じように生活出来るんだから。この世界だと村の一軒屋にはやっぱりお風呂なんてついてなくて、初日から僕たちは夜になると自宅に戻ってたんだ。

 毎日お風呂に入れるのは重要だよ。


「なんだよ、即答かよ。んじゃターゲットを変えてヨウナシ。勝負しようや。俺が勝ったらサユリちゃんは俺と来る。お前が勝ったら俺で叶えられる事なら何でも叶えてやる、どうだ?」


「お断りします。妻は物じゃありませんし、僕の願いをホーンさんが叶えられるとは思いませんから」

 

「おいおい、ヨウナシまで即答かよ。まあ、それじゃ実力行使と行きますか!」


 そう言ってホーンさんが腰に差した剣を抜いたんだ。


「サユちゃん、下がって!!」


 僕も刀を抜いてサユちゃんにそう言う。サユちゃんは下がりながら僕に補助魔法をかけてくれた。速度上昇、力上昇、持久力上昇だ。僕以外の人にサユちゃんが補助魔法をかけた場合はその人の凡そ二倍の上昇率になるんだけど、夫婦(仮初とはいえ)補正なのか、僕は凡そ十倍の上昇率なんだ。

 つまり力で言えば僕は両手で五十キロの物を持ち上げられるんだけど、今なら五百キロの物を持ち上げる事が出来るんだよ。


「ヨウくん、気をつけて!!」


 サユちゃんが下がったのを確認して僕はホーンさんの方を見る。


「何だよ、夫婦だからって補助魔法なんてかけてもらいやがって。それじゃ、俺も遠慮せずにかけよう」


 どうやらホーンさんは身体強化の魔法を使えるみたいだ。


「行くぞ、ヨウナシ! 死ぬんじゃねぇぞ!!」


 ホーンさんが僕に向かって踏み込んで来て剣を振り下ろす。

 速いっ!! でも何とか見える。ってかサユちゃんの補助魔法があって何とかってどんな強さなんだホーンさんは。


「ウエッ、アレを避けるのかよ! 俺の次男でも剣で受けるので精一杯なのに! お前、どんだけだよヨウナシ! でもコレで久しぶりに本気で行けるなっ! っと!! 危ねえ! 斬れたら痛いだろうがよ!!」


 僕が振った刀を言葉とは裏腹に軽々と避けるホーンさん。そして、


「へへへ、嬉しいなぁ。こんな田舎にこんな使い手が居るとはな! 次の俺の振り下ろしはヤベェぞ、覚悟しろよ、ヨウナシ」


 嬉しそうにそう言うホーンさんを見て僕は刀を鞘に収めて静かに腰を落とした。


「ん? 何だ? 負けを認めるのか?」


 その言葉に僕は首を横に振る。


「ふ〜ん、違うのか? まあ良いか、コレでサユリちゃんは俺の物だーっ!!」


 先ほどよりも更に速い斬撃が僕を襲おうとした瞬間に僕は鯉口こいぐちを切って刀を振るった。


 キッ、キキィーン!! 甲高い音が響き渡り


「嘘ーっ!? ヨウナシ、剣を斬るなんてどうなってんだよ!!」


 ホーンさんの驚く声が辺りに響いた時に、


「そこまでです! 陛下! 我が家の客人に無礼な振る舞いは一国の王として恥ずかしい行いですよ!!」


 ハンル様の声が僕たち三人に届いたんだよ。


 って、今ハンル様、陛下って仰いました!? 


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