第10話 レベルアップ

 さあ! レベル上げに励もう!!


 バルさんが先ず案内してくれたのは武防具のお店だったよ。そりゃそうだよね。僕もサユちゃんも何の装備も持ってないんだから。


 でも待って、僕たちはこの世界のお金も持ってないよ!!

 慌ててバルさんにそう言うと


「費用は全て伯爵家で持ちますのでご安心を。それとハンル様からこちらをお渡しするようにと言われております」


 アッサリとそう返されたよ。受け取った巾着の中はお金だった。


「ヨウナシ様、サユリ様のお二人それぞれに五千万ゴン入っております。私たちが受けた恩に対しては少なすぎる額ではございますがご自由にお使い下さいとの事ですので。あ、私に返されても困りますよ。私が叱責を受ける事になりますから」


 返そうとした僕たちの機先を制してバルさんにそう言われてしまった。そう言われるとバルさんには返せないよね。取りあえず受け取ったお金はサユちゃんに預けた。サユちゃんはバルさんに貰った鞄に入れるフリをしてアイテムボックスに入れてくれた。


「さあ、それではお二人の装備を選びましょう!!」


 僕とサユちゃんがお金を受け取ったからか爽やかにバルさんにそう言われた。店内に入ると無骨そうな親父さんが一人だけ居た。


「ん、バルか? どうした、ハンル様の装備の手入れはこの前渡したばかりだろう? ザクバ様とジム様、ハーリ様の装備も三日前に渡したし…… 何の用事だ?」


「グログ、今日はこのお二人の装備を君に見繕って貰おうと思ってね。このお二人は伯爵家にとって大事な恩人でお客人なんだ。合う装備を選んで欲しい」


 バルさんの言葉に僕とサユちゃんをジロリと見るグログさん。威圧感があってちょっと怖いな。でも前みたいに何も言えないなんて事は無さそうだ。神様は本当に呪いを解いてくれたんだと僕はこの時に確信したよ。


「よろしくお願いします。僕はヨウナシと言います。こちらは妻のサユリです」


 僕がそう自己紹介とサユちゃんの名前を言うとグログさんの顔が綻んだ。

 

「ほう、俺の顔を見て挨拶出来るとは胆は座ってるようだな。良し、先ずは防具からだ。おーい、ハミ! 女性のお客さんだ、寸法をはかって防具を選んでやって来れ」

 

「は〜い、今行きます!!」


 サユちゃんには女性の店員さんがついてくれるみたいだね。僕は親父さんに寸法をはかられて革製の防具を勧められたよ。


「コレはリザードンの皮を加工して作られた防具だ。多少だが耐熱効果もある。それにジェリーの酸攻撃にも溶けないようになってるんだ。ヨウナシはまだレベルが低いみたいだから最初はジェリー相手にレベル上げをするんだろう? ならコレがお勧めだな」


「はい、コレにします。有難うございます」


「良し、次は武器だな。適正を見たいからコッチに来てくれ!」


 僕はグログさんに色々な武器を手渡されて一通り振らされたんだけど……


「う〜ん…… どうもシックリ来るのがねぇなぁ…… コレで最後だぞ」


 どれもイマイチらしくて、僕自身もそう感じていたんだけど、最後と言って手渡されたのが木刀だったんだ。でも僕には【武器適正】のスキルがあるんだけどなぁ…… 何でだろ? これも神様に質問案件だね。


「それは極東の島国で作られている刀という剣を模した物だ。それがシックリ来たなら刀が一振りだけウチにあるからそれにしよう」


 僕は木刀を振ってみた。何だか手に馴染んでる気がするよ。


「うん、それが一番だな。良し、ちょっと待ってろ」


 そう言って奥に行くグログさん。戻って来た時には手に刀を持っていた。少し僕が思う刀よりも短めだ。


「コレが刀だ。ただ少し普通のものよりも八センチほど短いらしい。俺に売った極東の奴がそう言ってたよ」


 鞘から抜く練習をさせて貰い、短いからか僕でもスムーズに抜き差し出来る。重さもさっきの木刀よりも軽い。


「コレにします!!」


「分かった、それじゃヨウナシの方は決まりだな。後はヨウナシの奥さんの方だが……」


 グログさんと二人で店舗の方に戻るとサユちゃんとハミさんが談笑していたよ。どうやら僕よりも早く決まって待つ間お喋りして時間を潰してくれてたみたいだ。


「あっ、ヨウくん! 決まったの? 格好良いね!!」


 見るとサユちゃんも装備品を身に着けている。クリーム色した革製の防具に武器は……


 えっ!? 手斧? ハチェットって言うのかな? しかも二刀流なの!?


「へへへーっ! どうですか、アタシの見立ては! サユリさん、手斧を投げさせたら百発百中だったんですよ。だから特別製の戻って来るハチェットを選びました! 刺さっても自動的に抜けて手元に戻って来るんです!!」


 ドヤーッて顔でハミさんに説明された。サユちゃんもニコニコしてるから僕が何も言う事は無いよ。でもジョブがヒーリングマスターだったよね、サユちゃん…… いや、何も言うまい!


「うん、とても良く似合ってるよ。可愛らしい防具があって良かったね、サユちゃん。サユちゃんの可愛さが更に引き立つね!」


「もう〜、ヨウくんったら!? 恥ずかしいじゃない!」


「若いって良いわね〜、アタシもグログにそんな事を言われてみたいわ〜」


「バカな事を言ってないでバルにちゃんと請求書を渡せ」


 グログさんが少し顔を赤くさせなからぶっきらぼうにそう言う。


「ねっ、サユリさん。ウチの旦那も少しは可愛げがあるでしょ?」


「フフフ、ホントですねハミさん。照れてますねグログさん」


 そんな女性二人の会話をニコニコしながら聞いていたバルさんはグログさんに


「支払いはいつも通り振り込んでおくよ、グログ」


「ああ、それでいい。それよりも草原に行くんだろ? 気をつけてみてやれよ」


「勿論だとも。お二人には傷一つ負わさないよ」


 そして僕たちは店舗を出てバルさんの案内で領都の西門に向かった。入った時は北門だったから違う景色が見れて嬉しい。


「門番にハンプ様からの身分証明を見せてくれますか。それで大丈夫です」


 僕とサユちゃんが身分証明を出して門番さんに見せると最敬礼されてしまった。更には


「お気をつけて行ってらっしゃいませ!! お戻りをお待ちしております!!」


 なんて言葉もかけられたよ。バルさんを見ると説明してくれた。


「フフフ、その身分証明は伯爵家の客分としての物でして、ハンル様に対するように接するようにと騎士や兵士には通達されてるんです」


 どうやら凄い身分証明だったようだ。


「さて、それではジェリー退治と行きましょう。ジェリーの特徴は不定形、人を見ると繊維を溶かす酸を飛ばしてきます。人体を溶かす事はないですが、服や防具などを溶かしてしまいますので注意が必要です。しかしヨウナシ様とサユリ様の防具はジェリーの酸に耐性がありますから五回ぐらいはかけられても大丈夫でしょう。けれども油断せずに避けるようにしてくださね。倒し方は簡単です、ジェリーの一部を斬りつけて穴を開けるとそこから体液が零れ出て倒せますから。倒した後に残るジェリーの皮は放置して構いません。使い道は有りませんので」


 そうバルさんから説明を受けて僕とサユちゃんはジェリーを探した。


「水たまりだと思ったらジェリーだったなんて事もございますから注意深く探して下さいね」


 これはアレだね。某ゲームのように可愛らしい見た目じゃない奴だね。その方が倒しやすいから良いけどね。


「居た! 居たよヨウくん! 私が攻撃してみるね! ヤァッ!!」


 サユちゃんの左手からハチェットが飛んだ。サユちゃん確か右利きだったよね? 飛んだハチェットは見事にジェリーの端っこに刺さってからサユちゃんの手元に戻って来た。


「アッ!? 何か聞こえる!」


「おお! レベルアップされましたね。ステータスを確認して見て下さい」


 バルさんから教えられてステータスを確認するサユちゃん。


「ホントだ! 上がったよ、ヨウくん!!」

「おめでとう、サユちゃん! 次は僕が頑張ってみるよ!」


 二人で喜んでいたらバルさんが魔法でジェリーの皮を燃やそうとしていたから僕は慌てて止めたんだ。何の使い道もないって言ってたけど、ひょっとしたらサユちゃんの【見極眼】なら何か用途が出てくるかもって思ってね。


「サユちゃん、あの皮をスキルを使っててくれるかな?」


「うん、分かったよヨウくん」


 結果として大変に有効な素材だと分かったから、僕たちが倒したジェリーの皮は集めていく事に決めたよ。


 そして僕も初ジェリーを倒して無事にレベルアップしたんだ。その日はサユちゃんが十体のジェリー、僕が十二体のジェリーを倒した。僕もサユちゃんもレベル3になったんだ。



名前∶ヨウナシ

年齢∶十六歳

性別∶男性

職業ジョブ∶ハンター

位階レベル∶3

HP∶78

MP∶52

攻撃∶67

防御∶51

武器∶刀(短め)

防具∶リザードンの革鎧一式(炎、酸耐性有)

魔法∶火の魔法、水の魔法、風の魔法、地の魔法

技能スキル

【自宅】【武器適正】【防具適正】【魔法】【言語完全理解】【魔獣ハンター】【刀術】

家族∶サユリ



名前∶サユリ

年齢∶十六歳

性別∶女性

職業ジョブ∶ヒーリングマスター

位階レベル∶3

HP∶50

MP∶75

攻撃∶50

防御∶80

武器∶ハチェット(二刀流)

防具∶リザードンの革鎧(女性用、炎、酸耐性有)

魔法∶回復の魔法、補助の魔法、強化の魔法

技能スキル

【アイテムボックス】【言語完全理解】【防御補正】【見極眼みきわめ】【創造】【投斧】

家族∶ヨウナシ


 何故か僕もサユちゃんも名前の表記が変わったよ。まあこの世界だと苗字は必要なさそうだから良いか。って思ってたらサユちゃんが何事かをブツブツと呟いていた。


「ヨウくんの奥さんって事にしたんだから苗字が家無威いえないに変わってると思ってたのに……」


 良く聞こえなかったけど何だか残念そうに見えるサユちゃん。


「どうしたの? 思ってたより上がって無かったのかな?」


 僕がそう聞くとサユちゃんは慌てて首を横に振って否定した。


「ううん、違うのよヨウくん。ちょっと気になる事があっただけなの! もう解決したから!!『そうよ、名前だけって事は名実ともに夫婦って事と捉えたらいいんだわっ!!』」


 僕の問いかけがきっかけになったのか何だか吹っ切れた感じになったからホッとしたよ。


「お二人とも素晴らしかったですね。それでは今日はコレぐらいにしておきましょう。それと戻られたら是非ともジェリーの皮にどんな使い道があるのか教えて下さいね! スキル鑑定持ちの者が見ても使用用途が無いって言ってたのですが、サユリ様の鑑定では違うんですよね? それはハンル様もお知りになりたい筈てすからよろしくお願いします」


 バルさんがニコニコしながら終わりにしようと言うので僕たちは伯爵邸に戻る事になった。


 フフフ、バルさん! ジェリーの皮の使い道は数多あまた有りますよ〜! 楽しみにしてて下さいね!


 そうして戻って夕食はハンル様たちと一緒に頂いて、その後にジェリーの皮について分かった事をお教えしたんだ。


「バル!! ハンターギルドに直ぐに連絡を!! これからジェリーの皮を伯爵家で買い取ると伝えてくれ! 一枚二十ゴンでだ! これなら貧困層の子供たちの仕事にもなるだろう! 皮は何枚でも構わないぞとも伝えるのだ!!」


「はい! 直ぐに連絡してきます!!」


 ハンル様の言葉で気がついたけどジェリーって子供でも倒せるんだね…… まあ、危険なくレベルアップ出来たから良いか!

 って思ったけど子供たちの仕事になるなら次からはジェリー以外の魔物や魔獣を相手にしないとダメだよね。ちょっと緊張しちゃうな。


 まあそれよりも……


 これから、ハンル様の領地の産業革命が始まるよ!!





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