第8話 召喚された学生と先生

 ここはドルガム帝国。その帝国一の大きな闘技場にて多くの者たちが固唾をのんで見守っている儀式の最中である。


「創星神ミルクリスに我ら乞い願う!! この召喚をもって我らの同胞はらからをこの地に呼び戻し給え!!」


 ひときわ壮麗な居服を着た者がそう大声でのたまうと闘技場の中心部が光り輝き、光がおさまった時にそこに多くの人が立っていた。

 多くは若者のようである。


「何だ? 何処だよ、ここ!?」

「えっ!? 何! あのコスプレ集団は!!」

「みんな、落ち着け、騒ぐな!」


 ワイワイガヤガヤと騒ぐ群衆に向かって王冠を被った者の声が届いた。


「良くぞ参った我らが同胞はらからよ! 余はドルガム帝国、帝王のナグハ·ドルガムである! 先ずは余の話を落ち着いて聞くが良い!!」


 その声は決して大きくは無かったがその場にいた全員が従わなければと思わせる力強さを秘めていた。そのため、ざわざわと騒いでいた召喚された者たちも静かになる。その事に満足したように帝王ナグハは頷き、


「うむ、それでは説明をしよう」


 召喚した理由を語り始めた。


「我が同胞はらからたちよ。諸君らを召喚したのは他でもない、我が帝国の為にその力をもって貢献してもらう為だ。諸君らは本来であれば我が帝国にてせいをうける筈であった。しかしながら神々のとある間違いにより諸君らは違う世界にてせいを受けてしまったのだ!! そこで本来は我が帝国にて貢献出来たであろう諸君らを、間違いを正す為に我らは召喚の儀式を行い、ここに呼んだのだ!! さあ、諸君らにこの帝国での知識を授けよう!! 今こそ唱えよ、【オープンステータス】と!!」


 帝王ナグハの言葉には強制力があるのか召喚された全員が【オープンステータス】と唱えた。

 そして表示される各ステータス。それを見た帝王ナグハは後ろに控えていた人物に小声で命令する。


「書記たちを連れて全てを記録せよ。役に立つ者たちを選別するのだ」


「ハッ! 直ちに!!」


 命令された男は直ぐに下がり更に後ろに居た五十人ほどの者たちに記録を命じた。

 召喚された者たちは十六歳の男女が九十二人、男性教師三十三歳が一人、女性教師二十四歳と二十六歳が二人であった。


 そして記録を終えた者たちは三つの集団に分けられた。何故かは理由は言われずに分けられて不安そうになっていたが。

 そうして分けられた後にまた帝王ナグハが喋りだした。


「ご苦労であった。諸君らが素直な者たちで余は大変に嬉しく思っている。それではそちらの集団とそちらの集団はこの後に案内の者がつくので着いて行くように。そちらの者たちは二つの集団が居なくなった後に話がある。しばしここで待つように」


 合計九十五人が三十三人、五十七人、五人に分けられて、残るように言われた五人はその言葉に、にわかに不安そうになっていた。


 そして、九十人が案内されて出ていき残った五人に帝王ナグハがとんでもない言葉を言い放つ。


「さて、その方らはどうやら我が帝国の者では無かったようだ。どうやら敵対国の産まれだったようだな。そのような者たちまで混ざっているとは思わずにいたが…… 本来であれば直ぐに処刑しても良いのだがそれでは余りにも不憫ふびんだと余の慈悲の心が言う。なのでその方らは敵対国へと追放する事に決めた。国境までは我が帝国軍人がちゃんと送ってやろう。その後は自分たちで何とかするのだ! 良いなっ!!」


 そう帝王に言われた五人とは、教師三人と男女の生徒二人であった。生徒の一人はヨウナシにいつもジュースを買いに走らせていた框太輔かまちたいすけである。女生徒はヨウナシと同じクラスの建屋留実たてやるみであった。瑠美はヨウナシとは接点を持っていなかった唯一のクラスメートである。

 男性教師の名は髙橋卓たかはしたくす、女性教師は植生早樹はにゅうさき(二十四歳)、髙橋弥生たかはしやよい二十六歳である。葉一と弥生は夫婦だ。


 五人はそのまま兵士によって連行されて一台の馬車に乗せられた。 

 馬車は粗末なつくりでありガタガタと大きく揺れた。そんな中でタクスが喋りだした。


「さて、埴生先生はどうしますか? 元生徒二人とは現地に着いたら私たち夫婦は別行動をするつもりですが」 


 タクスのいきなりな言葉にサキとタイスケ、ルミが目を見張ってタクスを見た。ヤヨイはニヤニヤとしている。


「何だ、框? 何をそんなに驚く事がある? 私たちも生きていく必要があるからな。お前や建屋のように役に立ちそうもないスキル持ちの面倒を見る余裕は無いぞ」


 その言葉にサキが怒った。


「髙橋先生、先生には教師としていえ、大人としての矜持は無いのですか!!」


「バカな事を。大人としての矜持を持ち合わせているからこの二人には自分たちで何とかしてもらおうと言ってるのだ。埴生くんも大人ならば良く考えて行動を決めねば。さあ、私たち夫婦と一緒に来るならば助かる可能性は高いぞ、どうする?」


 その言葉にサキは拒否をあらわにした。


「お断りします。違う世界に来てまでヤヨイさんに先輩面されたくありませんし、髙橋先生にセクハラされたくもありませんので! 私はタイスケさんとルミさん二人と行動を共にします! 現地に着いたら気にせずにお二人で自由に行動なさって下さい!」


 サキの言葉にタクスは呆れたような顔をしてヤヨイはニヤニヤ笑っていた。


「あら? 先輩面なんてした事ないけどそんな風に思われてたのね。フフフ、お荷物二つも抱えて生きていけるのかしら? まあ貴女がそう決めたなら良いわ。でも、もしも困ったからってコッチに手助けを求めないでね」


 ニヤニヤと笑いながらヤヨイがそう言い、


「それでは決まりだ。国境に着いたら君たち三人とは私とヤヨイは別行動となる。困っても手助けなんかは絶対にしないからな。まあ、埴生くんと建屋くんの二人はどうしてもと言うならば対価を支払うならば助けなくも無いがね」

 

 タクスも顔に嫌らしい笑みを浮かべてそう言い放った。


「髙橋さん、それじゃ逆もまた然りであなた達夫婦が困っていても僕たち三人に手助けを求めないで下さいね。絶対に」


 ここまで黙ったままだったタイスケがそう言うとタクスの顔がイラッとする。


「フンッ! 何も出来ないガキが一丁前いっちょまえに粋がりおって! 女の前だからと格好をつけるな!!」


「そんなつもりはありませんよ、髙橋さん。それよりも僕が先ほど言った事は約束してくれますか?」


「良いだろうっ! 勝手にどこででものたれ死ぬが良い!!」


 こうして話がまとまり馬車の中は静かになった。ルミは一言も発する事なく、しかしその手はタイスケの服の袖をギュッと握っていた。


 タイスケは考えている。

『あの帝王の言う通りに本当に国境まで送られるのかは分からない。それにもしも国境に送られたとしても帝国といさかい中か又は戦争中の国だろうし。そうなると帝国軍によって送られた僕たちは間者かんじゃとして疑われる事になるだろう。出来れば地図が欲しいな…… まあ無理だけど。それよりもこの兵士たちが国境じゃない別の所で降ろしてくれるのが望ましいな。だけど最悪を想定して行動しないとダメだよね。僕とルミちゃんのスキルは建設と建築。似てるけど何が違うのかも確認したいし、サキ先生のスキルは木早生きわせっていう聞いた事の無いスキルだからそれも調べないと。調べられる場所なら良いな…… 先ずは情報収集からだ。怖いけど兵士たちに話しかけてみよう。目的地までどれくらいかかるのかとかも知りたいし』


 後々、タイスケのこの考えのお陰でサキとルミを含めた三人はヨウナシたちと出会える事になる。タクス、ヤヨイ夫婦はひどい事になっていくのだが、それはまた違う機会に話す事にしよう。



 帝王の宮に案内された三十三人は豪華な食事を振る舞われ、歓待を受けていた。


「スゲー、奴のステーキよりも旨い肉なんて初めて食べた!!」

「このお酒甘くてチョー旨いっしょ!! もっと持ってきて〜!」


 大人三人は居なくなったので酒も遠慮なく飲み干している。そこに帝王ナグハがやって来た。


「うむ、満足しているようだな。諸君らはとても優秀な者たちだ。余としてもしっかりと英気を養って貰いたいと思いこうして歓待しておる。明日はユックリと休んで貰い明後日より各々のスキルを育てる為の訓練を受けてもらう。食事が終われば風呂に案内するので皆、入るように。部屋は個室を用意しておる。では諸君らが余の期待を裏切らない事を祈っておるぞ」


 そう言ってナグハは部屋を出ていった。ナグハが来るまでは楽しそうに話していたが、それからは全員が不安そうな顔に戻り食欲も無くなったようだ。

 酒だけを煽っている者もいた。小声であちこちで相談が始まるが、そこに案内の者たちが現れて風呂へと案内された。


「皆様、お着替えはコチラになります。今お召しになっている服は帝王陛下にお渡しする事になります」


 一方的にそう言われ、しかし誰も反論する事なく受け入れた。本能で逆らえば殺されると察しているのだ。


 三十三人はこうして帝王の宮でしばらくの間、軟禁状態でスキルを育てさせられる事になった。



 五十七人の者たちは更に十三、十四、十五、十五人に分けられて各騎士団の詰所へと案内された。

 

「皆にはこれより騎士見習いとして働いて貰う事になる。が、通常の騎士見習いとは異なり先ずはそれぞれのスキルの育成に励んで貰う。ささやかだが歓迎の宴を用意した。今日、明日はユックリと体を休めて貰い明後日より騎士の指導のもとでスキル育成を行っていこう。なに、大丈夫だ、我々は帝国騎士団。この大陸最強の集団だからな。きっと君たちもその一員になれると私は信じているよ」


 第一騎士団ではこのような話がされ、他の騎士団でも似たような言い回しで皆が歓迎の宴を受けた。


 そして五十七人の者たちも騎士団に軟禁状態となってスキルの育成に励まされる事になるのだった。 

  

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