第7話 お薬の時間です


 よし、今日は泊まれって言われてるから部屋に案内されたら自宅に戻って薬を用意してこよう!!


 そう意気込んだんだけど…… まさかお付きの侍女さんが部屋から出ないなんて事は僕たちは知らなかったんだ……


「あの、僕たちは庶民ですから自分の事は自分で出来ますのでどうかレルメさんもお休みになって下さい」


 そうお願いしてみたけどレルメさんの返事は


「そういう訳には参りません。私はハンル様からお二人が何不自由なくお部屋でお過ごし出来るようにと言いつかっておりますので。何でも仰って下さい」


 と満面の笑顔で言われてしまった。レルメさんは年の頃は二十歳前後と思われる清楚な感じのお姉さんで本当に僕とサユちゃんが気持ち良く過ごせるようにと気を遣ってくれてるのが分かるので強く出ていって下さいとは言い辛いんだよね……


 しかし僕のサユちゃんは勇気をもってレルメさんに言ってくれました!


「あの、レルメさん…… その、私たち、今日は久しぶりにお風呂にも入れましたし、その、あの、夫婦の営みを、その、……」


「まあ! まあまあ!? 私ったら気が利かないで!! さっ! 私は後ろを向いて壁になりますのでどうぞ遠慮せずにお二人の愛の営みを!! ジュルリ……」


 いや、変態さんがここに居ますよ! ダメでしょ、僕のサユちゃんが知恵と勇気を出してとても良い言い訳を思いついたのに!


 ここで僕もレルメさんには悪いけど少し強く言ってやろう! と思ったら扉がノックされ「どうぞ」と言ったらレルメさんがあからさまにマズイって顔をして、入ってきたマーヤさんにその顔を見られて……


「レルメ! また貴女あなたは! ご夫婦のお邪魔をしてはダメでしょう!! さあ! 早く控え部屋に戻りなさい!!」


 マーヤさんに叱られた。スゴスゴと僕たちの部屋を出ていくレルメさん。


「ヨウナシ様、サユリ様、ごめんなさいね。あの子も悪い子ではないのだけど何が悪いのか未だに独身のままなの。だからご夫婦のお客様がいらっしゃると邪魔をしてしまう傾向があって。ハンル様からお二人にレルメをお付けしたと聞いて直ぐにやって来たんです。さあ、ご夫婦お二人でユックリとお過ごし下さいね」


 マーヤさん、レルメさんは邪魔をしたいんじゃなくて性癖を満たしたいんだと思いますよ…… まあそこは言わないでおくけれども。

 マーヤさんも部屋を出ていきサユちゃんが部屋の鍵をかけた。それを確認して僕たちは自宅へと戻ったんだ。


「ヨウくん、やっと戻ってこれたね。ナデシコも連れて戻れたら良かったんだけど」


「そうだねサユちゃん。でもナデシコはハンル様の屋敷の厩番の人と仲良くやってたから大丈夫だよ」


「そっか、そうだね。それでねザクバ様の奥様の病気なんだけどインフルエンザだと思うの。高熱、倦怠感、関節痛が発症してから三日つづいてるらしいの。【見極眼】でも確認してみたから間違いないと思う。それとこの世界でも薬はあるらしくてそれを買いに隣の領にハンル様たちが行ってたみたいなんだけど、必要な原料である特薬草というのが無くて隣領でも薬が無かったんですって」


「そうか、スキルを使ったんだね。でもインフルエンザだとタミフルだったかな? あれば処方箋がいるんだったよね? 僕じゃ無理だよサユちゃん」


 僕がそう言うとサユちゃんはニッコリ笑って言った。


「ヨウくん覚えてない? うちのお父さんが私やヨウくんが熱を出した時に買ってきてた市販薬を」


「うん? 覚えてるよ。【麻黄湯】だよね」


「そう!! それよ! 【麻黄湯】はね、医学的にちゃんと検証された市販薬でもインフルエンザに効果があると認められた漢方なの!」


「ええ!! ホントに? サユちゃんの勘違いじゃなくて?」


 僕が半信半疑でサユちゃんに確かめるとサユちゃんはホッペを少し膨らませた。その後に少し目を潤ませて、


「ヨウくん、信じてくれないの……」


 なんて上目遣いで見られてしまったよ。可愛い…… 僕はこの顔も脳内メモリーにしっかりと記録しておいた。というかカメラだ!! デジカメを呼びだそう!! 


 【自宅】には電気もあるし充電も出来る! 僕の知識内で知ってる物なら呼び出せるんだから絶対にそうしよう!


 そんな内心の決意をしながらサユちゃんに


「ううん! 信じてるよ、サユちゃん!!」


 そう言って信頼の笑顔を見せたらサユちゃんも微笑みを浮かべて頷いてくれた。

 僕はさっそく麻黄湯を呼び出した。取りあえ十一箱。一つを持って残り十箱をサユちゃんに手渡した。


「この十箱はサユちゃんのアイテムボックスに入れておいてくれるかな? それと今から呼び出す物もお願い」


 そう言って僕は水、消毒液、傷薬、キズパッド、ガーゼ、包帯、知ってる市販薬なんかを十個ずつ呼び出してサユちゃんに手渡した。

 更には食料、飲料なんかもお願いした。むこう一年ぐらいは二人だけなら飢えない程度の数を。


「ヨウくん、多すぎじゃない?」


 なんてサユちゃんには言われてしまったけれども備えあれば憂いなしだからね。

 その時にペプイコーラを見てふと思い出した事があるんだ。隣のクラスだったかまちくんにいつも買いに行かされてたペプイコーラだけど、思えばいつも同じクラスの鬼頭きとうくんが僕をイジメようと近づいて来たタイミングで頼まれてたなって…… そんな、まさかね? 僕は思い出したその事を頭の片隅にしまっておくことにしたよ。


 僕は気を取り直してサユちゃんに向かって


「マーヤさんたちの時に傷薬を呼び出したんだけど、その時に予備としてサユちゃんに持っていて貰おうって考えてたんだ。ちょうど今なら好きなだけ呼び出せるからお願い!!」


 僕がそう言うとサユちゃんがとある事を言い出したんだ。


「ヨウくん、あのね。多分だけどこの薬や食料なんかも私たちと同じで異世界補正がついてると思うの。ちょっと麻黄湯を見極めてみるね」


 異世界補正って? 僕たちと同じって?


 僕の頭の中には?マークが浮かんだけれどもサユちゃんは真剣な顔で麻黄湯を見極めている。ここは邪魔きたらダメなやつだ。


「やっぱり……」


 そして黙って待つこと三分ほどでサユちゃんがそう呟いたんだ。


「やっぱりってどういう事?」


 僕が質問すると


「えっとね、麻黄湯がインフルエンザに効果があるって言ってもタミフルみたいにその日に効果が出るような即効性がある訳じゃないのヨウくん。でもヨウくんから手渡されたこの麻黄湯は一包飲めば解熱に関節痛まで直ぐに和らげてくれるんだって見極眼で分かったの。つまり異世界補正が薬にも適用されてるって事だよ! ヨウくんは凄いね!!」


 最後は何故か僕が凄い事になっちゃったけど、それでも話を聞いて僕は本当に凄い事だと分かったんだ。だからサユちゃんにエナジードリンクも見極めてもらったんだ。


「えっとね、基礎体力の向上に疲労激減だって。飲んだ効果は二時間続いてその後に筋肉痛なんかの副作用は無いんだって! ホントにヨウくんは凄いね!!」


 またまた僕を褒めてくれるサユちゃん。僕は照れながらもそう言って満面の笑みを見せてくれるサユちゃんをついでに呼び出したデジカメでパシャリと写したんだ。


「やだーっ、もうヨウくん! 変な顔の時に写さないで!」

 

 サユちゃんの顔に変な顔の時は一瞬たりとも無い!! 


「サユちゃんはいつだってどんな時だって可愛いよ! 変な顔なんて絶対に無いよ!!」


 気づけば僕は心が思うままにサユちゃんにそう言っていた。僕の言葉にサユちゃんの顔が真っ赤になったけれどもそこに邪魔者の声が聞こえてきたんだ。僕が招待しないとこの自宅の空間には入れない筈なのにだ。


『あの〜…… イチャコラしてるトコロに大変申し訳ないのですが、そろそろ私とコンタクトを取る必要があるかな〜…… なんて、思ったのですが……』


 神様でした。でも姿は見えないね。


『それはですね、神といえどもヨウナシさんに招待されてないので声だけ何とかお届け出来るって感じなんです。招待してくれます?』  


「ダメです!」


 僕の即座の拒否に神様はイジケた。


『うう、私、神なのに…… 神力を使っても入れないなんて…… いいのよ、どうせ私なんて都合の良い相談相手でしか無いんだから』


 その声はサユちゃんにも届いていたようで……


「ヨウくん、ご招待してあげたら?」


 優しいサユちゃんはそんな事を言うけれども、招待なんてしたら調子にのって入り浸るのが目に見えてるから僕はサユちゃんに


「ダメだよサユちゃん。ここに神様なんて招待しちゃったらきっと他の神様までやって来て招待しろって迫られるんだから」


 こう言って神様の招待はしない事を告げた。サユちゃんは微妙に納得してなかったけど次に聞こえた神様の呟きで納得したようだ。


『な、何でバレてるの!?』


 ほらね。どうせ暇だから遊びに来た〜とか言って入り浸る神々の姿が僕の脳内に何故かしら映ったから断って良かったよ。それよりも向こうから声がけしてくれたならちょうど良いや。


「神様、何で僕が呼び出した物は更に性能が良くなってるの?」


 僕の質問に神様はちゃんと答えてくれたよ。


『くっ! 招待は無しね…… それはね、地球からこの星に来るまでの次元の狭間で星力せいりょくが取り込まれるからなの』

 

「「せっ!? 精力せいりょく!!!」」


 神様の言葉に僕もサユちゃんも驚いてしまったけど、

 

『ちっがーうっ!! 精力じゃなくて星力! 星の力という事よ。ヨウナシさんもサユリさんも同じで星から星へと移動した事によって地球からとこの星からの小さな祝福を授かっているのよ』


 違うと言われて知らなかった事実を教えてくれた。その言葉にサユちゃんが質問をした。


「神様からの祝福じゃないんですか?」


『私たち神が授けられるのはスキルよ。祝福は無いわ』


 そうだったんだ。ということは……


「僕たち以外の転移者も同じって事ですよね。神様からのスキルも含めて」


『いい質問ね。そうね、他の転移者にも同じ事が起こってるわ。スキルを授けた神は私じゃないけどね』


 あっちは違う神様なんだ。神様同士で何かあるのかな? まあ、関係ないや。


「分かりました、有難う。それじゃ!」


『冷たっ!! もうお別れなの? もっとお話しましょうよ! そうだ、顔を見てお話するなんてどうかしら?』

  

 まったく、隙あらばと……


「あの、神様。有難うございました。私たち、これからザクバ様の奥様にお薬を届けたいのでそろそろ……」


 サユちゃんナイス!!


『そ、そう言われると…… はあ〜、それじゃまた用事がある時は呼んでね。この空間でなら私の神力も見つからないから何時でも良いわ』

  

 良し! それじゃ、お薬の時間だね!!

 

 


 

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