第5話 領都ペリ

 もちろん、ちゃんと薬を使いますよ!!

 

 それにお芝居をうって僕の主(サユちゃん)からの好意なんだから、こういう時は馬車の中の人に言わないと…… まあダメっていうサユちゃんじゃ無いのは僕が一番よく知ってるんだけどね。


 それには先ずは刺さったままの木片を抜かないとダメだよね……

 うん、僕には荷が重いや。


「あの、伯爵様。こちらのマーヤさんのお腹に刺さった木片を抜く必要があります。それと、消毒する時に痛みから無意識にマーヤさんが動く可能性が高いので、身体をしっかりと抑える必要もありますけど……」


「良し! 分かった! 俺がマーヤの身体を抑える。バル、木片を抜け! ミーハはマーヤの足を抑えろ」


「「はい! ハンル様!」」


 連携凄い!


 ハッ、ボウっとしてちゃダメだ。僕も素早く水筒から水を出して傷の周りにかけて、細かい木片を見つけたら抜いていく。

 刺さってた場所も気合いを入れて探して抜いたよ。それから消毒液をペタペタして、その時にマーヤさんの身体がビクンと動いたけどしっかりと抑えてくれていた。


「では薬を塗りますね」 


 僕はミーハさんの時よりも少し厚く薬を塗っていく。

 傷は塞がりはじめて、でもミーハさんの時のように直ぐにとは無理みたいだ。なのでガーゼにも薬を塗って傷にあてて包帯を何とか四人で協力して巻き付けた。

 ミーハさんのお母さんらしいけど、キレイな人だから『よこしまな心よ去れ!』と念じながらくびれた腰に手を回して包帯を巻いたよ。

 

 僕は気づいて無かったけどマーヤさんに包帯を巻いてる時に、馬車の小窓からサユちゃんにジーッと監視されていたとはバルさんが後から教えてくれた情報だ…… 良かった、ちゃんと念じて包帯を巻いていて。


 マーヤさん様子を見てみると浅く早かった呼吸も落ち着き、何よりも紙のように白かった顔色も血色が良くなってるよ。ホントにどうなってるのかな?

 後で神様に聞いてみよう。


 そして……


「少年よ、本当に助かった。このハンル·ペリ、どんな事をしても少年の主殿に対価を支払おう! 例えそれで我が伯爵家が傾こうとも必ずそうする事をここに誓う!!」


 重い、重いよ〜。


 さて、お芝居はこのぐらいで止めよう。僕は伯爵様に少し待って下さいと言ってから馬車に行き扉を開けて


「サユちゃん、この人たちなら大丈夫だと思うんだ。一緒に挨拶しようか」


「うん、ヨウくん。私もそう思ってたの」


 サユちゃんをエスコートして降りて貰い伯爵様の前に行き挨拶をした。


「ハンル·ペリ様、僕の名前はヨウナシと言います。こちらは僕の家族でサユリです。僕たちは二人で旅をしているんです。偶然ですがここを通りかかって、ハンル様のお身内の方の怪我を少しでも癒す事が出来て良かったです」


 僕が完璧な挨拶だと思ってドヤ顔になってしまったけど、サユちゃんがぶっ込んでくれたので直ぐにドヤ顔が驚顔おどがおになっちゃったよ!


「ハンル様、ヨウナシの妻のサユリと申します。私たちの持つ薬が役に立って良かったです。対価などはいりませんが、お願いがあります。私たち二人はとても遠い田舎より出てきてお金もなく、ましてやこの国の慣習などにも疎いのです。ですので私たちの馬車でお送りしますので、領都に着くまでの間に私たちにこの国や周辺国についてなど一般的な事で構いませんので教えていただけないでしょうか?」


 ぼ、ぼ、僕の、つ、つ、妻! 妻っていう事はあんな事やこんな事を…… ハッ! ダメだ、ダメだ!! 何を考えてるんだ僕は。超絶美少女であるサユちゃんが独身だと知ったら求婚してくる男性は数多あまた居るだろう。それらを一々断るのも面倒だから、僕の妻という事にしたんだと気づく僕。ふう〜、危うく自惚れるところだったよ……


 ちょっと悲しい……


「まさか、こんな年若い夫婦で二人旅とは。よほど腕に自信があるのだな。しかしながら使用してくれた薬の対価どころか送って貰う対価にしても安すぎる! なので領都についたら然るべく礼をするのでそれでどうか勘弁してほしい」


 ハンル様が逆にそう言って僕たちに頭を下げた。この人って僕が持ってたお貴族様のイメージと良い意味で違うんだよね。

 初めて会った貴族がハンル様で良かったよ。


 で、僕とバルさんが御者席に座り、サユちゃんが意識を取り戻したマーヤさんの隣に座る。そしてミーハさんが恐縮しながらハンル様の隣に座っているんだ。

 魔蜂に刺された馬は残念ながら毒が全身に回ってしまい亡くなっていたからバルさんが穴を掘ってからそこに横たえて灰になるまで焼いたんだ。そうしないと他の魔物が集まったりアンデッドになったりするんだって。うん、異世界だね。

 馬車にあった壊れてない荷物は客室後ろの荷台に乗せてある。


 で、バルさんから質問が……


「ヨウナシ様はサユリ様とお二人で旅をされているとの事ですが、お見受けしたところ荷物も何も無いようですが、先程の薬といいひょつとして異次元箱のスキルをお持ちなのですか?」


 ううん…… どうしようか…… でもバルさんも短い時間だけど信頼に足る人だと分かってるし……


「はい、妻のサユリが僕たちの故郷ではアイテムボックスという名のスキルを持っていまして。そこに荷物は入れて貰ってます」


「おお! やはり。けれどもそれは悪手ですよヨウナシ様。せめて偽装用の鞄を一つはご用意するべきです。異次元箱のスキルを持っている者は少数で、我が主は違いますが、貴族の中には無理やり攫って自分の配下にするクズもおります。ましてやサユリ様はあの美貌、領都に着きましたら私の手持ちの使わなくなった鞄を二つお渡ししますので、そちらを偽装用としてご利用して下さい。魔法鞄は一般的に売られておりますからね」


 うん、やっぱり良い人だ。


「貴重な事を教えてくれて有難うございます、バルさん」


「いいえ、私の妹と姪を助けて頂いたお礼にはとても及びません。他に何か知りたい事はございませんか? ああ、そういえば金銭についてもお知りになりたいと仰ってましたね。それでは説明致しますね」 

 

 お金については馬車が動き出して一分ほどで少し分かった事があるんだ。それは……


 全員が所定の位置に座って僕がナデシコにさっきと同じ速さでお願いと言って動き出したんだけど…… 中からハンル様にこう言われたんだよ。


「ヨウナシ殿、もう全員がちゃんと座ってるから動かして貰っても構わないぞ」


 って。それを聞いたバルさんがブッって吹き出したのはご愛嬌だよね。僕はハンル様にこう言ったよ。


「ハンル様、馬車なら一分前から既に動いてますよ」


 それを聞いたハンル様はサユちゃんに後から聞いたんだけどたっぷりと三十秒は固まったままでいて、唐突に僕とサユちゃんに向かって叫んだんだよ。


「ってくれ…… 売ってくれ! この馬車!! 幾らだ? 百万ゴンか? そうか足りぬか、サユリ殿、私で出せるのは五百万ゴンだ!! どうだ! ヨウナシ殿、この金額ならば納得だろう!!」


 叫ぶハンル様にバルさんが冷静にツッコミを入れたよ。


「ダメですよハンル様。この馬車はヨウナシ様とサユリ様の旅の足です。それともまさかですが、ハンル様のお嫌いなクズ貴族を真似してお金だけ出して無理やり取り上げなさいますか?」


「グッ! バッ、バカな! 俺がそんな事をするわけがなかろう! いや、今のは俺が悪かったヨウナシ殿、サユリ殿。どうか忘れてくれ……」


 僕には言葉しか聞こえなかったけど、中で見てたサユリちゃんの目には未練たっぷりなハンル様のお顔があったそうだよ。


「はあ〜、まさか動いていたなんて、ビックリねミーハ」

「ええ、母さん。私もいつまでたっても動かないなぁなんて思ってたから…… ちょっと恥ずかしいわ」


 母娘二人のそんな会話も聞こえてきてたよ。そしてバルさんのお金についての講義が始まったんだ。


「先程、ハンル様の言葉にあった通り通貨の単位は【ゴン】になります。この通貨は我が国ステーラ王国だけでなく、周辺五カ国で共通通貨となっております。海を隔てた別大陸の国では違う通貨を使用しておりますがちゃんと両替商もおりますのでご安心くださいね。さて、ゴンですが十ゴン銅貨が一番小さい額となります。次に百ゴン真鍮貨、その次は千ゴン銀貨、次は五千ゴン黒銀貨、次は一万ゴン金貨、十万ゴン白金貨、百万ゴン黒金貨が一番大きな額です。つまりハンル様の仰った五百万ゴンは黒金貨五枚となります。一般的に我が国で売られている馬車の値段は貴族用の安い馬車で五十万ゴン、伯爵家で良く利用される馬車で百万ゴンが相場です。王家で使用している馬車は三百万ゴンですね」


 ゴンゴンって聞いてたら【箪笥たんすに……】のフレーズが頭の中を駆け巡るよね。えっ!? 僕だけ?

 まあ冗談はここまでにして分かりやすい通貨で良かったよ。


「有難うございますバルさん。とても良く分かりました」


 それからバルさんにはステーラ王国の地理について教えてもらったんだ。今から行くハンル様の領地は王都まで馬車で三日かかるらしい。領都一つ、領町二つ、領村二つの領地でなんだけど魔物から民を守る為に領都を一番魔物が多く出る領地に建ててあるそうだよ。

 それはハンル様のお祖父様の代からなんだって。本当にお貴族様のイメージが狂うよね。


 現国王であるナッシュ·ステーラ陛下は良王と呼ばれていて王国全土で善政をしくように領地持ち貴族に強く言ってあるそうだけど……


 まあやっぱり中には僕のイメージ通りのお貴族様も居るそうだよ。領地を持たない官僚貴族と組んで税収を誤魔化す人や、領地の民を奴隷のように考えて働かす貴族も居るのだとか。

 それらを何とかしようと国王陛下はもちろんだけど、王太子殿下やご学友だったハンル様たち若い貴族は頑張ってるんだって。で、そのいわゆる悪いお貴族様の領地には近づかない方が良いともバルさんは教えてくれた。

 領地の場所もちゃんとね。


 それから魔物や魔獣についても講義してくれる事になってたけど、遂に領都ペリが見えて来たんだ。だから、


「そうですな。ヨウナシ様、お屋敷にて続きの講義をいたしましょう。サユリ様にも聞いていただく方がよろしいかと思いますので」


 そう言われて僕とサユちゃんはハンル様のお屋敷にお邪魔する事になったんだよ。


 初めて見る異世界の街並みにワクワクしながら、馬車は領都ペリの門にたどり着いたんだ!


 さあ、一体どんな都市なんだろうね! 




 

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