第4話 第一お貴族様と出会った〜

 さあ!! さっそく行ってみよう、未知の世界へ!!


 とその前に僕は試してみることにしたんだ。


 庭に出る僕に着いてくるサユちゃん。


「ヨウくん、どうするの?」


「うん、この世界でも可怪おかしくない乗り物を用意しようと思ってね」


 そして僕は頭の中で想像する。最高の馬車と最高の馬を。

 僕の願い通りに馬車と馬が出てきた時に僕は確信したよ。この空間では僕の願いが叶うんだと。


「わっ、凄い! 馬車に馬までも。とても賢そうな馬だね〜、ヨシヨシ」


 物怖じしない超絶美少女のサユちゃんはさっそく馬に近づいて撫でているよ。僕も近づいて撫でながらこれからよろしくと頼んだよ。


「サユちゃん、それじゃここを出て旅を始めようか。この馬車で旅をしよう」


「うん、ヨウくん! この子の名前はどうする?」


「牝馬だから、そうだね…… 栗毛色のキレイな体毛に真っ黒なたてがみだし、撫子なでしこなんてどうかな? ナデシコで良いかい?」


 僕がそう問いかけるとヒヒーンといなないて僕をペロンとひと舐めしてくれた。気に入ってくれたみたいで良かったよ。


「うん、良い名前だね。ナデシコ、私はサユリって言うの。これならよろしくね!」


 そして僕とサユちゃんは協力して馬車にナデシコを繋いで僕が御者席に座り、サユちゃんには馬車内に乗って貰ってから異空間を出た。場所は昨日と同じく森の中だったよ……


「ゴメンね、サユちゃん、ナデシコ。ここじゃ馬車は使えないや。サユちゃんはどうする? 自宅にナデシコと馬車と一緒に戻っておく? 僕が歩いて森を抜けたら迎えに行くけど」


「ううん! 私もヨウくんと一緒に旅をするって言ったでしょ。私も歩くよ。ナデシコは自宅に戻してあげましょう」


「分かった。それじゃナデシコ、森を抜けたらお願いするね」


 僕は自宅にナデシコと馬車を戻してナデシコは自由にしてあげた。家の周りには馬が食べても大丈夫な草と水桶にいっぱいの水を入れておいたよ。


 異空間を出たらサユちゃんが待っていたから


「サユちゃん、後から自宅に来ても良かったんだよ?」


 と聞くと


「えっ!? 私一人でも自宅に行けるの?」


 驚かせてしまったよ。そういえば言うのを忘れてたんだ。


「ゴメン、ゴメン、言うのを忘れてたけどサユちゃんは僕の【家族】に認定されてるから行きたいと念じたら自宅に自由に行けるよ」


「そっ!? そうなんだ!! ヨウくんの家族なんだ私!! (奥様枠だよね、きっと!) もう〜、そんな大事なことを言い忘れるなんて、メッ! だよヨウくん!」


 ぬわっ!! か、可愛い!? 

 今の【メッ】はまたいつか必ずやって貰おうと僕は心に誓ったよ。それにしてもやけに嬉しそうなんだけど、ホントならもっと怒るところだよね。でも機嫌が良いならいいかな。


「うん、ゴメンね。次からは気をつけるよ」


 そうして僕たちは森を抜けるべく歩き出したんだけど闇雲に進んでもダメだと思って先ずは登れそうな木に登ってみたんだ。

 そしたら、


「サユちゃん、見えたよ。あっちの方向に進めば森を抜けて道が続いてるみたいだ。ここからでも歩いて十分〜十五分ぐらいだと思う」


 木の上の方で三百六十度を確認したらちゃんと道と思われる草木の生えてないのを確認出来た。

 僕は木からスルスルと降りてサユちゃんに手を差し出した。


「さあ、行こうサユちゃん! 道に出るまでは危ないから手を繋いでおくね」


 すると何故か顔を真っ赤にしながらサユちゃんが僕の手をギュッと握って


「う、うんヨウくん。お願いね」


 いつもより少し高い声でお願いされたよ。


「サユちゃん、顔が赤いけど大丈夫? 熱があるなら自宅でやすまないとダメだよ」


「だっ、大丈夫、大丈夫だよヨウくん。熱なんて無いから! 私は元気だよ!」


 元気なら良いんだけどね。それにしても気をつけて見て上げないと空元気からげんきだと困るからね。


「うんそれじゃ行こうか」

「うん!」


 僕たちは手を繋いで森の中を見えた道に向かって進みだした。木の根にサユちゃんが何度か躓いたけど手を繋いでたからちゃんと助ける事が出来たよ。


「出たーっ!」

「出たね! 道だね! ナデシコを連れて来る?」


 さっきは僕がナデシコを自宅に戻したからね。


「うん、それじゃサユちゃん。ナデシコと馬車をお願いします」


 そう言って頼んだよ。待つこと五分でナデシコと馬車を繋いで御者席に座ったサユちゃんが戻ってきた。


「早かったねサユちゃん」

「ナデシコがとても良い子で直ぐに馬車に繋ぎやすいように動いてくれたんだよヨウくん」


 嬉しそうにそう言って御者席から降りてナデシコを撫で回すサユちゃん。僕もナデシコに近づいて有難うと言いながら撫でた。

 ナデシコも嬉しそうにしてくれている。


「良し、それじゃナデシコが向いてる方向にこのまま進んでみよう。何もなくても夜に自宅に戻ればいいしね。サユちゃんは馬車に乗って揺れを確認してね」


「うん、ヨウくん。あ、声が良く聞こえるように御者席の後ろ窓は先に開けてあるからね」


 というわけで僕はサユちゃんをエスコートして馬車に乗って貰い、御者席へと向かった。しっかりと座り手綱を両手に掴んだ僕は


「ナデシコ、ゆっくりしたペースで引いてくれるかな?」


 ナデシコにお願いした。僕の言葉をハッキリと理解したナデシコはゆっくりと、でも力強く馬車を引っ張って進み出した。体感だけど時速八〜十キロぐらいだと思う。


「良いね、このペースで進んでよ。疲れたら休んでいいからね」


 僕が手綱を持っているのは雰囲気を出すためだけだ。実際に自宅の異空間で馬車とナデシコを呼び出す時に念じたのは、僕やサユちゃんの言葉を理解してそれに合せた行動を自主的にしてくれる心優しい馬と念じたからね。

 勿論だけど魔物を見ても動じない精神も念じているよ。

 

 道に守りの結界みたいなのがあるのか分からないけれども魔物に遭遇する事もなく順調に馬車は進んで行く。進み出して三十分ほどで僕はサユちゃんに確認してみた。


「サユちゃん、中の揺れはどんな感じかな〜?」


「うにゅ? ハッ! あ、えっとヨウくん、揺れはほとんど感じなくて心地よい振動があって…… ゴメンね、つい寝ちゃった……」


 寝れるぐらいなら地球の馬車のサスペンションはかなり優秀だとの証明になったね。


「ううん、大丈夫だよサユちゃん。寝れるぐらい揺れをしっかりと抑えてるって分かったから」


 嫌味ではなく本当にそう思って言ったのがサユちゃんにも伝わったのだろう。


「うん、えへへ。本当に凄いね。この馬車は【馬車のベンツ】だね!」


 少し照れながらもサユちゃんも嬉しそうに返事をしてくれたよ。

 そして僕は前方に倒れている馬車を見つけたんだ。倒れた馬車の後方で僕に向かって手を振ってる人がいる。


「サユちゃん、前の方で馬車が横転してる。で、多分だけど手助けか乗せて欲しいって頼まれると思うけど、変な人じゃなければ助けて上げようと思うんだ。良いかな?」


「うん、勿論だよヨウくん! 困ってる時はお互い様だって私の両親も言ってたからね!」


 うん、前施設長だったサユちゃんのお父さんと前副施設長だったサユちゃんのお母さんは本当に困った人を見たら手を差し伸べていた立派な人だった。僕の進学も応援してくれたし、何とかして恩返ししたかったなぁ……

 でも、安心して下さい! サユちゃんは僕が守りますから!! 天国からしっかりと見てて下さいね!


 心の中でそう呼びかけながら手を振っていた人の前でナデシコに停まってってお願いした。


「おお! 有難うございます。実はこちらの馬車はこの先の領地を治めるハンル·ペリ伯爵の馬車でして、馬がどうやら結界を通り抜けた魔蜂に刺されて暴走しまして横転してしまったのです。旅の人よ、どうか我が主だけでも領都ペリまで乗せていただけないでしょうか?」


 手を振ってた人は執事さんかな? 年齢は三十代前半に見えるけど。でもその人がそう頼んできた時に馬車の側から別の声が聞こえたんだ。


「何を言ってるんだ、バル! 俺はお前たちも一緒じゃないならここで野宿すると言っただろ! それにマーヤは止血はしてあるが、揺れる馬車で移動させられないんだ! ここで出来るだけの治療をしないと! おい、そこの少年、少年の主殿は止血薬は持ってないか? もしも持っているなら対価をちゃんと支払うから分けてもらえないか?」


 どうやらこの年若い(とは言っても僕よりは年上に見えるけど)人がペリ伯爵様なんだね。


「少しだけお待ちいただけますか? あるじに確認してみます」


 そう言って僕は馬車の中に入り、サユちゃんに「ちょっと自宅に行ってくるよ」と告げて自宅に行き止血薬と念じて日本の消毒液、止血薬(塗布タイプ)とガーゼ、包帯と二リットル水筒に煮沸水が入った状態で出して戻ったんだ。馬車から降りてペリ伯爵に


「伯爵様、怪我をされてる方はどちらに?」


 と聞けば直射日光が当たらない場所で二人の女性が横になっていた。

 一人は腕に怪我をしていてハンカチで抑えている。その人は僕とそう年が変わらないように見える。もう一人は意識を失っているみたいだけど、お腹部分に木片が刺さっているみたいだ。顔が似てるから腕を怪我した人の母親かな? この人がマーヤさんだよね。

 この人は本来なら手術案件だよなぁ…… 傷薬でどうにかなるのかな?


 それでも何もしないよりはマシだろうと思い先ずは腕を怪我してる女性に近づいて、ハンカチを除けてもらう。

 切り傷だね。僕は女性に少し染みるよと言って先ずは水をかけてから消毒液をガーゼに浸してペタペタとあてる。女性は染みるから眉間にしわを寄せたけど我慢してくれていた。


「良し、それじゃ薬を塗りますね」


 僕は塗布タイプの薬を傷に薄く塗布したんだ。すると……


「ああっ! 嘘っ!?」


 女性が叫ぶから僕は驚いた!


「だっ、大丈夫? 痛かったかな?」 


「いいえ! 違います! 逆です! 痛みが引いて、それに出血も……」


 言われて傷を見たら本当だ。傷は塞がって血も止まってるよ。それに女性の顔が蒼白かったのに血色が良くなってる気がする。増血効果なんて無いはずだけどな。

 でもこれならこっちの女性にも効果がありそうだ。


 後ろで心配そうに見ていた伯爵様と執事さんも驚いているけど、その効果を見て伯爵様が言う。


「頼む! 非常に高価で貴重な薬だとは思うがこちらのマーヤにも使って欲しい! 金ならいくらでも払うから!!」


「私からもお願いします! 母にその薬を! お金は私が何年かかろうともお支払いしますのでっ!! どうかっ!!」


 この人たちには僕が守銭奴にでも見えてるんでしょうか?


 もちろん、ちゃんと薬を使いますよ!! 


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