第2話 神様のお願い

 僕はこの自称神様にカマをかけてみることにしたんだよ。


「あの、そういうのは良いです。僕はもうこれでイジメられずに済むんで。それに番内さんも僕が居なくなった方が幸せに暮らせるでしょうし」


 ここで番内さんについて話しておこう。番内沙友里ばんないさゆりさんは僕と同い年なんだ。なぜ施設長なんかしてるのか? それは番内さんの亡くなったご両親が元々施設長、副施設長だったんだけど、交通事故にあい亡くなられてしまい、でも僕が居たので施設を閉じる事をせずに続けてくれたからなんだよ。

 未成年で施設長なんてって思ったかな? でも未成年でも会社を立ち上げて社長になれるんだよ。だから書類手続きさえちゃんと出来るなら何の問題も無かったんだ。

 番内さんは僕とは違う高校に通ってるからね。自宅はちゃんと別にあるから普段は施設には居ないんだよ。僕も自分の事は自分で出来るしね。


 とまあそんな話はさておいて、さあ神様はどう答えるかな?


『えっ!? いや、ちょ、ちょっと待って、だってこのままだと君は大量殺人者として名が残る事になるし、その君を庇ったって事で番内沙友里も複数の暴漢に襲われるんだよ!! それで良いのかい?』


 うん、少し、いやかなり慌ててるね。もう一押しだ。


「ええ、どうせ身よりも一人も居ないし死刑になるだろう僕にとってはもうどうでも良い事ですし。それに転移してまたあの人たちに出会ったらイジメられる日々が始まるでしょうしね」


 淡々と感情を交えずに頭の中は般若心経を唱えながらそう言うと神様は目の前で土下座したよ。


「ど、どうか、そんな事を言わないで転移に同意して下さい!! 私を助けると思って、どうか、お願いします!! 私で叶えられる事ならば何でも叶えますから!! このままだと私は上司の神により堕天させられますので、どうか、どうかーっ!!」


 やっと本音が出てきたようだよ。僕はそれでもまだ冷静に頭の中では般若心経を唱えていた。


「えっと、あなたのミスを僕に償えと言うのですか? それはちょっと…… 僕には関係のない話ですし」


 僕は威圧的に話しかけてこられなければこうして普通に会話は出来るんだよ。


『いえ! あの、いや…… そ、そうですよね、それは本当に申し訳ないとは思うのですが…… そうだ!! 洋名視さん! あなたが転移に同意してくれるならば実のご両親から掛けられている呪いも解けます! それに貴方だけに異空間に家、【ご自宅】を作れる能力を付与します! その自宅は貴方の思うような形に自在に姿を変えられて、死は覆せませんが、部位欠損などでしたら一日自宅で寝れば治ります! これでどうでしょうか!?』


 持ってけドロボーみたいなノリで言うけどその前に僕が聞き捨て出来ない言葉が出てきたよ。


「その前に確認したいことがあるんですけど?」


『はい! 何でしょう! 私の知ってる事ならば何でもお答えします!』


「僕って実の両親に呪われているんですか? 今も?」


『ええ、そうなんですよ。洋名視さん。貴方の名前、可怪おかしいでしょう? 家無威いえないなんて苗字は日本中いえ、世界中探しても貴方だけですよ。それに名前も洋名視ようなしだなんて! その言霊ことだまによって貴方は家を持てないし、威圧的な言葉に対して何も言えない状態になり、本来は用無しなのに、用事を沢山言いつけられてるんです。実はイジメと貴方が思ってる中には呪いによって貴方に用事を言いつけてるだけの人も多く居るんですよ。本当に貴方をイジメとして認識してイジメているのは八人ほどですね。名前を変える事は出来ませんが、その掛かった呪いを解く事は私には出来ます! なのでどうか番内さんも共に連れて異世界に転移をーっ!!』


 そこでまた土下座したまま上げていた頭を下げる神様。

 う〜ん…… 何で僕の実の両親は息子の僕を呪ったりしたんだろう?

 一瞬だけ般若心経を忘れてそう考えてしまった僕に神様からの返事がきた。やっぱり心の中を読めるんだとそれで分かったけど、ちょっと失敗しちゃむたな。


『それはですね、貴方がもしも呪われずに育てば世界を救う人物になるか、世界を破壊する人物になるかの二択だったからです。ご両親も悩みに悩んだ末に呪いを掛けたんですよ。そして、ご自分たちで育てると呪いを解いてしまうかも知れないと恐れて、貴方を番内家の経営していた施設に預けられたんです。ただ誤算だったのは沙友里さんのご両親が交通事故で早くに亡くなってしまった事だったんです。それもその事故は実は…… おっと! これは言ってはイケナイ事でした。危ない! 危うく堕天させられるトコロだった!!』


 いや、知りませんけど……


 でもそうか。神様が嘘を言ってないなら僕が疎ましかったり憎かったりした訳じゃないんだな。でももう一つ確認しないと。


「何で番内さんも一緒になの?」


『ああ、それは沙友里さんのご両親の願いだからですよ。(それと沙友里さん自身のね)このまま貴方だけ転移させると今度はバカなとある存在に操られた大人たちが沙友里さんを犯人に仕立て上げようとしますし、貴方と一緒に転移した方が沙友里さんにとっては安全なんですよ』


 土下座した姿勢のまま顔だけ上げてそう言う神様。そこで僕の考えはまとまった。


「今から言う条件が必須となります。僕と番内さんは先に転移していった人たちとは別の国に転移させてくれる事。その国はできる限りまともな考えを持つ人が統治している事。そして、僕には先程言った【自宅】を、番内さんには何でも入れられる【アイテムボックス】を付与する事。それともしも僕の想像が正しいのであれば剣と魔法のファンタジー世界だと思われるので、そこで生きていく上で必要な戦闘系のスキルや言語の完全理解、読み書きも含めてですよ。その他に役に立つであろうスキルを付与する事。それらを僕も番内さんも誰にもバレないように偽装出来るようにする事。それと転移後に何か相談したい事が出来れば神様あなたとコンタクトを取れる事。さあ、どうですか? 全部を叶えてくれるならば番内さんと一緒に転移しても良いですよ?」


『はい! 喜んでーっ!!(ラッキーだわ! 全て私の神力で何とか出来る事ばかりで!)』


 神様はガバッと立ち上がり、


『同意してくれて有難うございます!! あなた達二人が異世界に転移した時点で事件は無かった事として処理されます。何故ならば先に転移した人たちは元々地球に産まれる予定じゃなかった人たちだからです。そう、実は貴方も、沙友里さんも。それを正す為にこういう少し強引な手段を取らざるを得なかった私たち神をどうかゆるして下さい…… それでは向こうに着いたら沙友里さんも貴方と共に居ますので、直ぐに二人でご自身の能力を確認して下さいね。あ、向こうで何かを成せとは言いません。好きに生きて下さいね(結局は巻き込まれるでしょうけど…… ゴメンね)』



 こうして僕は留置所で一晩を過ごす事なく、異世界に旅立つ事になったんだ。


「うわっ!? ここが異世界? 森じゃないか!」

「洋くん! 良かった! 本当だったんだ!」

「番内さん! うん本当だったね」


 僕は気がつくと暗い留置所の中から森へと立っていた。そこで驚いて声を上げたら番内さんもやって来ていたと知ったんだ。約束は守られてるみたいだね。


 さて、それじゃ神様が言った通り能力を確認してみようかな。

 


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