24  〈19〉の小箱に入っていたものはぬいぐるみ

 次に魔女が目覚めたときは、外が明るかった。

 魔女にあてがわれた城の別館の部屋の扉を、こんこんと叩く者がいる。この絶妙に広量こうりょうなのは、女官だ。

「そろそろ、お目覚めの時間かと」


 魔女は、あたたまった布団から出たくなく、少しの抵抗を試みる。だが、「ルルルンルルルン」と女官は呪文を唱えて、掛け布団を魔女の身体からだから引きはがし、彼方へと飛翔させた。

「こんなことに能力を使うなよ……」

 魔女は小さく悪態をついた。

「おかげさまで女官としては、ずば抜けて仕事が早いと評価されていますの」

 女官は魔女の血を引く者だった。しかし、魔女となるには能力が足りないとされ、人として生きている。

「それで、能力足りないって判断されるって、なんかのミスじゃないかな……」

 魔女には、『ルルルン』の一声で、何かできる能力はなかった。

「寝足りない……。18日は調子にのって、あなたとおしゃべりしまくって、デートゲーム(※)で遊びまくってしまったから」

「楽しゅうございましたね。わたしも久しぶりに遊びほうけました。そういえば」

 女官は急に、つやのある笑みを浮かべた。

「夜更けに王子がいらしたでしょう」


「え? そうだっけ」

 魔女は覚えていなかった。

「いらっしゃいましたよぅ」

 女官は上気して、ほぅっと、あらぬ方向を見やった。

「お二人して、ふざけ合って、寝台に倒れ込まれて……」

「何? 見ていたように言うね」

「見ていましたもの」

 女官は真顔だった。

「それ、のぞきでは」

 魔女は引きつった。

「女官の務めです。城は、どの部屋も監視されておりましてよ」

 はっきりと女官は教えてくれなかったが、壁にかけられた天使の絵の目線とかが、生きているようだったなと、そういえば。

こわっ」

「それ以上の進展がなくて残念でしたわ」

こわっ」

「アドベントカレンダーは、おふたりで開けましたの?」


「いや、どうやら、つぶしたみたい」

 寝台の敷布の上に、ぺしゃんこになった藁色わらいろの小箱があった。金色の文字で書いてあるのは、〈20〉の文字だ。

 魔女が、寝台の上にあったエコバックをまさぐると、残りの小箱の中に〈19〉の小箱があった。

「なんか、まちがえたのかな?」


「〈20〉の小箱には何が入っていたんですか」

「わからない。見る限り、ぺっちゃんこで。中、何だったんだろう。これ、開けたとカウントしなければいいのかな」

 魔女はいい加減なことを考えて、とりあえず、ひしゃげた小箱をエコバックに回収した。

「『ボッチノ森のおいしい空気』っていうのを一定数、仕込んだから、それかもしれない……」

 アドベントカレンダーは、箱の中身を詰めて混ぜこぜにしてから、番号を振った。だから、魔女自身にも、どの箱に何が入っているのかわからないのだ。

「『おいしい空気』の評判がよかったら、来年、各地のおいしい空気だけのアドベントカレンダーを創ろうかと思って」

「それ、苦情が殺到しませんか」

 即座に女官に、たしなめられた。

「うん。火の精霊サラマンデルも同じ意見だった。空気採集の旅の時間と経費のほうが、意外とかかるので本気ではない」

 魔女は、さっと自分の黒系のシンプルな服に着替えた。もたもたしていると、女官に『ルルルン』を唱えられ、薔薇色リボンの装束にされかねない。

 

「それでは、今のうちに〈19〉の小箱を開けておこう」

 寝台に座り込んで、魔女は小箱を開けた。


 途端、どーんと、その背中に、魔女の背丈と変わらない、雪の色をした、ふさふさ毛むくじゃらの未確認動物UMAのぬいぐるみが覆いかぶさった。






※〈デートゲーム〉 ボードに付属した扉の数字ルーレットを回し、コマを進めていく。デートコースのカード3枚をそろえ、デートコーナーで止まれたら、デートチャンス。ボードの扉のノブを回して開ける。扉の向こうに自分のデートコースの恰好をした男子がいたら、デート成立で勝ちとなるボードゲーム。

この当時、城の女官の間で流行っていたものらしい。

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