23

〈12月19日〉


 夜が更けて、魔女にあてがわれた城の別館の部屋の扉を叩く者がいた。

「魔女、起きているかっ」

 微妙びみょう狭量きょうりょうな叩き方は、やはり王子である。


(って、この扉、鍵ないし。どちらかと言えば王子の家だし……)

 魔女は寝付いたところを起こされて、寝ぼけまなこだった。


「これって、夜更かし……、それとも早起き……」

 魔女は寝台から這い出して、どうにか扉を開けた。

「国境でいざこざがあって、駆り出されていた。さっき帰ってきた。それで、一昨日おとついと昨日は何が出た?」

 王子が、さっと部屋に入って来ると、着ている銀狐ぎんぎつねのロングコートから、外の冷えた空気と針葉樹の香りがした。すぐに魔女の許へ来たものか。

「〈17〉の小箱から出たのは、水晶……。〈18〉の小箱から出てきたのは腹巻き……」

 魔女は相当、眠かった。昨日、羽目を外して夜も遊んでしまったせいだ。


「そうか。こうして、わたしが足を運んだからには、今日のアドベントカレンダーは、わたしといっしょに開けるだろうな、ご検討しろ、魔女」

 王子は身についていない、お願い言葉を懸命に使った。

「……もう開けます」

 魔女は寝台へ戻ると、枕元に置いていたエコバックを探った。藁色わらいろの小箱を出した。さっさとすませて、寝直したかった。

「開けます……」

 魔女は、小箱を右手に掲げた。


「あ、それっ。ちがっ」

 王子が気がついた。

 藁色わらいろの小箱には、金色のインクで、〈20〉と書かれていた。今日は、19日だ。あわてた王子は、魔女の手から小箱を取り上げようとして、どしんと体当たりした。二人は、ふらついて、絡み合うように寝台に倒れ込んだ。もはや、小箱は二人にはさまれて、つぶれた様子。

「ふにゅう」

 魔女は寝ぼけて、そのまま眠った。銀狐ぎんぎつねのロングコートから、森の匂いがするようで。


 王子はというと、とっさに両腕を突っ張って、魔女をつぶさずにはすんだものの、まるでアドベントカレンダーから出てきた幻影を見つけたように、クセっ毛の黒髪に縁取られた魔女の寝顔から目を離せなくなっていた。

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