20 〈16〉の小箱に入っていたのは金の冠
〈12月16日〉
連日の魔女の家の往復で、疲れていたのは栗毛の馬だった。
居心地のよい
若馬のときから王子には世話になっているが、今日は一言、言っておこうと思った。
『
「魔女の家だ」
騎乗している王子は答えた。
『
「あぁ、アドベントカレンダーも、あと残り9日だ」
『
「どうした、
『キツいんじゃ、この生活』
基本、格言的性格の
『魔女に城に来いと言うたれ。王子が言えぬのなら、わたしが言う。その場合は、馬に言うてもろうとるで、あの王子。やはり、見劣りするのぉ、兄にくらべるとと、きっつい陰口たたかれるであろうよ』
「
王子も魔女の家と城の往復は、大変ではあった。だが、よい気晴らしにもなっていた。しかし、駿馬に、これ以上、負担をかけるのも気が引けた。
(魔女と交渉してみよう)
最近の魔女は、ちょっとやさしい。王子がワカメを戻し過ぎたあたりから、なんだかダメな人ね、あなたったら。そんなところ、ちょっとかわいい、みたいな視線も感じる。
(頼めば、アドベントカレンダーといっしょに城へ来てくれるかもしれない)
「お帰りなさい。ご飯にしますか。お風呂にしますか。アドベントカレンダーにしますか」
「アドベントカレンダーにする」
そう、王子は言うと暖炉の上の
「お前が開けろ。残りのアドベントカレンダーも、お前が開けていい」
「……開けていい? わたしの、わたしのためのアドベントカレンダーを、わたしが?」
魔女は小箱を頭にのせたまま、腕組みをして左足の靴の足先で、こつこつ床を蹴った。おっかない顔になっていた。王子は言い方を変えた。
「……開けてください。だから、残りのアドベントカレンダーの期間は、城に来てください。どうせ、〈24〉の小箱は城にあるんだしな、ですっ」
「検討しなくもない」
魔女は頭に小箱をのせたまま、考えていた。実は、王子の栗毛の馬が、来るたびに恨めしそうに、こっちを見ているのには気づいていた。動物から負の感情を向けられるのは、心に
「こういうときは天の声に従ったが、いちばんだ。小箱に聞いてみよう」
「魔女は神を信じないんじゃなかったか」
「魔女が信じるのは、すべてをひっくるめて万物に宿るものだ。よいものを小箱から出してくれ。それによっては、城へ行こう」
(小箱よ。魔女のよろこぶものを出してくれ)
甘いものか、うまいもの。高価なものか、めずらしいもの。男の幻影も、このさい許す。王子は祈った。
(魔女が、わたしとともに城へ来てくれますように)
王子が魔女の頭の小箱を取ろうとしたら、
『オヤマアアラサテ!』
暖炉の
「あ。ごめん。これは、はずした」
王子も魔女の頭上を見て、すまなそうな顔をした。
『
鏡に映った魔女の頭には、ちょこんと紙の金の冠がのっていた。
「……
魔女は、鏡の中の紙の金の冠を黒髪にのせた自分を、こわばった顔でみつめた。にもかかわらず、鏡の中の自分は、うれしそうに一回転した。
「
魔女は左手の手刀で、
「これで城へ行ったら、異国の姫がお出ましになったと、国をあげて歓待してくれるとでも?」
魔女は皮肉を込めたつもりだった。それなのに、「そのつもりだ」と、王子は、その両手で、魔女の手を取った。
〈参考サイト〉山下太郎のラテン語入門
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