16 〈12〉の小箱に入っていたのは思い出
魔女は目を覚ました。
寝台から半身を起こすと、階下へ繋がる階段から、師匠が顔だけ出しているのが見えた。
「師匠、声、かけてくださいよ。黙って、そっから首だけ出すの、生首みたいでびっくりするから――」
言いかけて魔女は、それは自分が、よく師匠から言われていたことだと気がついた。
「起きるかい? この家は隙間だらけだから、完全に酸欠にはならない」
あれ? と思うと、もう師匠は、階段のところからいなくなっていた。階下へ降りたのだろうか。魔女も急いで下へ降りた。
キッチンの東向きの小窓が、
人の気配に振り向くと、マロが暖炉の前に立っていた。なぜだか、
魔女は、なぜだか、心の中が幸福で満たされていた。
マロは魔女に両の
「いいよ。マロなら」
魔女は、なんだか自分の中から別の誰かが答えているような、そんな気分だったが、それがとても、しあわせな心地なのだ。マロの首に手をまわして、そのまま魔女は――。
〈12月13日〉
「目を覚ませ! 魔女!」
ぐらんぐらん揺さぶられて、魔女は目覚めた。
『ソンナニ
『
魔女は気がつくと、暖炉の前の
「まったく! 雪で来れなかったから、今日、朝いちで来てみれば。お前は、ここでぶっ倒れてるし……。アドベントカレンダーを開けたのか?」
「えぇと。昨日は、まだ開けてない……」
昨日、自分はどうしたのだろう。
「〈12〉の小箱は、暖炉の上にはないぞ」
暖炉の上には、〈13〉から〈23〉の小箱しかなかった。
『ソレガデンナ』
言いづらそうに火の精霊が、もにょもにょした。
『
「マロ?」
王子が怪訝に聞き返した。
『ワシモナンカ
「これは何だ」
王子が暖炉の上にあった、ひろげた扇子に気がついた。
「文字が書いてあるが」
「見せてください」
魔女は、扇子に書かれた文字を読んだ。それには、『勝手ながら、〈12〉のアドベントカレンダーは
「達筆すぎて読めん」
眉をしかめる王子に、魔女は、「〈12〉の小箱はマロさまが開けました」と説明した。魔女も読めないはずだが、
「だからマロって誰だ」
「おそらく、師匠の、ずっと昔の知り合い」
「魔女、顔が赤いぞ」
「たぶん、私の中の魔女の血がですね」
ますます、魔女の頬は
「ちょっと行ってきます!」
魔女は外へ駆け出した。
街道は除雪してある。朝方、出立したなら、まだそう遠くには行っていないはず。
魔女が数分、駆けただけで、マロの牛車に追いついた。
「遅すぎるんですよ。マロさまの牛車」
牛車の
「
「この気持ちは、わたしのものじゃないです。だけど」
魔女は叫んだ。
「好きです! マロさま!」
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