14  〈11〉の小箱に入っていたのは毛糸の靴下

 その日、魔女の目覚めはよかった。

 居間に降りて行くと、安楽椅子で王子が、うなだれていた。

「アドベントカレンダー、何が出たんですか」

 魔女が聞くと、王子は黙って紙片を差し出した。

「あっ、出ましたか~。オリジナルの詩」

 てへっと、魔女は照れた。


「てへ、じゃねぇ」

 王子は柄が悪くなっていた。

「金輪際、ポエムは入れるな。アドベントカレンダーに入れるな」

「な、長かったですかね。今度は、一言で、ずきゅんと来るやつを」

「考えるな。ポエムは考えるな。アドベントカレンダーに入れるのは、消えものにしろ」

「来年の。王子の御注文のアドベントカレンダーには、ってことですか」

「そうだ。絶対、ポエムは入れるな」

「毎度ありぃ」


 魔女は、ごきげんで朝食の支度にかかった。

「昨日のハムサンド、まだ、いっぱいあるから、ホットサンドにしますね」

 魔女は棚から、直火式のホットサンドメーカーを下ろした。

「そうしてくれ」

 王子は、やっと立ち直ってきた。

「もう夜中にアドベントカレンダーを開けるのは、やめる。明日からは、夕方、帰って来てから、お前といっしょに開ける。だから、できたら待っていて欲しい」 

 

 王子はホットサンドを食べると、安楽椅子に掛けていた銀狐ぎんぎつねのロングコートを羽織った。そろいの帽子と金の冠もたしかめた。

「行ってきます」

 王子は栗毛の馬に騎乗し、城へと戻って行った。


『ナンカケッコン結婚ネンメッテカンジ感じデンナ』

 火の精霊が、またいらぬことを言って、魔女に太い薪を差し込まれた。



〈12月11日〉


 魔女は、一日、のんびり過ごしている。

カケナインデスカイ』

 ぱちんと、火の精霊サラマンデルぜた。

「うん。なんだか出かけると災難に巻き込まれている気がするから」

 魔女は、いつもの白と黒を基調とした自分の服を着て、安楽椅子に落ち着いていた。


(これよ、これ。冬休みは)

 暖炉の上にはアドベントカレンダーの残り、13個が並んでいた。いまだ、〈24〉の小箱は、王子の手の内にある。

(致し方ない)

 魔女は王子の前で、努めて残念そうな顔をしているが、アドベントカレンダーの最期である〈24〉の小箱には、たいしたものは入っていないとんでいた。

(最後の箱に、いちばんよいものが入っていると思うなんて、子供の発想よ)

 そもそも、魔女は神の降誕を待ちわびていないのだから。 


 ふいに日が陰った。部屋が暗くなった。

降るルヤモ《雪》ニナルヤモ』

 火の精霊サラマンデルが言うなら、そうだろう。


 一日中、うす暗い日で、とっぷり、外が暮れても王子は来なかった。

 魔女は、王子の分のミートパイをフライパンにふたをして、しまった。

(仕事が忙しくなったのかな)


 もう、明日まで王子は来ないだろう。

 魔女は、ひとりで〈11〉の小箱を開けることにした。

 小箱はあるじの意志を感じたか、ぽんとはじけた。

 虹色の毛糸で編んだ靴下が、魔女の手にのっていた。

「いかにも、冬の贈り物だ」

 魔女は早速、履いてみた。

「あったかいねぇ、ねぇ、火の精霊サラマンデル


『……メッチャヒトリゴト独り言オオイ多いデスヤン』

 うたた寝しかけていた火の精霊サラマンデルは、ぱちぱちと、目をこすった。

せきをしても一人ひとり……」

 魔女は、師匠がつぶやいていた言葉(丸パクリ)を思い出していた。

 師匠に、なぜ自分を弟子にしたのか聞いたことがある。

『うーん、なんでだろうね。ちゃんときりよく、終われたらいいんだけどね。どうしたって、生きていく終わりは中途半端になるから』

 魔女は、師匠の晩年の弟子だった。

『中途半端をかたして(片付けて)くれる要員がいたら、いいだろ?』


 かたす要員て何ですかー、と、ぶんむくれた修業時代がなつかしい。

 自分は弟子を取るほどの器ではないし、このまま独りで暮らしていくだろう。

「だとすると、わたしの中途半端をかたしてくれるのは、火の精霊サラマンデルなのかな?」

ケイヤクナイヨウ契約内容ミナオシ見直しデッカ?』

 火の精霊サラマンデルが、また、ぱちんとぜた。

「あのさ。わたしが、こと切れたとき、中途半端は火の精霊サラマンデルがかたしてくれるのかなって話」

『ソウッスネェ。コノイエゴトゼンショウ全焼プランプランデスカネェ』

 火の精霊サラマンデルの提案は、たいてい炎上案件だ。

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