13 〈10〉の小箱に入っていたのはポエム
「救難信号を打ち上げたのは、そなたか」
花火があがった、ほどなくのこと、こんな森の中にそぐわない異国仕立ての
「親切な通りすがりの旅の方。この
魔女は、鉄製の手錠をはめられた両手を差し出した。
「おや。どこかの好きものが未成年と、じっくり
「
脇に控えているのは家来だろうか、黒装束を着込み、黒頭巾で顔の面まで隠したている。その
「ほれ、
すかさず、そばの
「でも、お高いんでしょう?」
「きっかり、
おぉと、数人いた
「どうじゃ」と、マロは魔女に
「買います」、魔女は答えた。
「では、今だけの購入特典で、そなたの家まで送ってしんぜよう」
マロは、いい人だった。
「ふふ。襲いはせぬよ」
悪い冗談まで言う。
しかし、魔女は気がついてしまった。
「この乗り物、遅くありませんか?」
「この分だと、わたしの家には、いつ頃、着く予定ですか」
「
しれっとマロに言われて、魔女は
そこから魔女の家までは、そう遠くはなかった。
やっと家が見えてきたら、ぱからぱから、見覚えのある栗毛の馬が駆けてきた。
「どこへ行っていた! 家にいないから探したぞ!」
王子だった。
「買い物に……」
魔女は、なぜか泣きそうになった。ぐっと、がまんする。
「その顔は。アドベントカレンダーを、ひとりで開けたな。何が入ってた」
「救難信号花火です」
まず、アドベントカレンダーの中身なんだ。魔女は決壊した。
「救難……。いや、こんなところで泣くなよ」
泣きたくもなる。
10代の
そう言えば、お昼を食べていない。疲れた。
「とにかく家へ入ろう」
王子は魔女の肩を支えて、家へ戻った。
「
『ワカリヤシタ』
家の中から
「魔女は疲れているようだ」
『
王子は、
『
「まじ指示長いし、わからん」
『
「台所の吊るし鍋にお湯」
王子は適当な両手鍋に、手足をぬぐう用の湯を入れてきて、安楽椅子の魔女の足元に置いた。魔女は
「靴と靴下を脱がすぞ」
王子は、魔女のドレスのスカートをめくって、ニーハイソックスに手をかけた。
『
「いや、どうしろって。なら
『ハッ』
魔女のニーハイソックスが炎に包まれた。
「燃やす⁉」
王子は、あわてて自分の銀狐のロングコートで炎をはたいた。
『ニーハイソックスダケヲ
「心臓に悪いぞ、おい」
『
「魔女は見た目より年寄りだったな。休ませねばならぬのだな」
ばちゃん。
魔女が両手鍋の中のお湯に足を突っ込んで、王子にお湯を盛大に飛ばした。
「人を年寄り扱いすなっ! 出てけっ」
「元気じゃないか」
王子は、顔にかかった湯をぬぐった。
「じゃあ、帰るよ」
王子は、すっと立ち上がった。
「食材が不足していると言っていたから、ハムを持って来たんだが。城の温室で栽培した、やわらかなレタスもだ。パンとバターもあるんだ。卵は女官にゆでてもらったから、すぐに食べることができる。そうだ。女官からは、洗たく済みの魔女の服も頼まれて来たが、持ち帰るとするか」
「え……」
魔女の態度が軟化した。
「残念だ。帰るよ」
「帰らないでっ、いいっ」
魔女は、さっきの
年の暮れにハムを贈ってもらえるような大御所の魔女になることを、夢見たときもあったのだ。
「アドベントカレンダーは、わたしが開けてもいいのかな?」
王子は、ゆっくりと魔女の顔を覗き込んだ。
〈12月10日〉
王子は暖炉の前で仮眠を取りながら、日付が変わるのを待っていた。
ハムサンドと卵、温めた蜂蜜入りの白葡萄酒を添えて、たらふく食って満足した魔女は、「おやすみなさい」と、寝室に上がって行った。
王子の手には
「開けてもいいよ」と、魔女は王子に言ったのだ。
食料を調達してくれたことへの、魔女なりの礼だった。
それで、王子は小箱を開けることにした。
〈10〉の小箱を開けると、小さく折りたたまれた紙片が出て来た。
紙片には小さな丸っこい文字が、びっしりと書かれていた。
ね 追い風が吹いてる
わたし あなたといると 50
自分で切り過ぎた わたしの前髪
あなただけが かわいいって言ってくれた
ね 突然の夕立
雷は放電現象 雷鳴は1秒間に340
風に飛ばされた あなたのカサ
今 どこを飛んでいるのかな
ね 低い雲を見上げて
2000
もうすぐ会えるねって
わたしの大切な人
あなたは わたしの大切な人
「……ポエムか」
王子は、わなないた。
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