7
朝になって、王子は栗毛の馬に乗って帰って行った。
「ひゃっほぅ! やっと帰ったー!」
魔女はスキップしながら、安楽椅子に飛び込んだ。
(しかし、
王子が小箱の開封に関わったことで、魔女の力と合わさって、何か不可思議な力が働いたのか。
うーむと、魔女は考え込んだ。はたして、
〈12月6日〉
ぱからぱからぱから。
『
そして、扉を叩く音がした。
「申し、申し。魔女さま」
王子じゃない。
魔女は
鈍い輝きの
「王子の伝言を預かって来ました」
「間に合ってます」
魔女は扉を閉めようとした。
「魔女さま!」
伝令役の男は閉まる扉に、素早く左足を差し込んできた。がっと強い抵抗が魔女の手に伝わった。男の足元を見ると、安全靴を履いている。これは兵士だ。
「『しばらく、忙しくなる。ゆえに、あれを何日分かよこせ(原文ママ)』とのことです」
「なんたる横暴!」
ガンガン、兵士の安全靴よ、
「魔女さまが申し入れを承諾なさらないときは――」
男は扉の
「あれとともに、魔女さまを
「なんたる!」
魔女の目は、怒りに燃えた。
「しかしながら特殊急襲部隊が、この家を取り囲んでおります。魔女さまの選択肢はないものかと」
伝令役の男は引き下がらない。
「一戦交えてでも、魔女さまを王城にお連れ申す!」
「帰れ! 足をはずせ! この、とうへんぼく!」
「
突然、男が叫んだ。
とっさに魔女は反応してしまった。
「
男は手のひらを大きく広げ、魔女は
「……負けた」
魔女は思い出した。自分は
「魔女さま。御同行願います」
伝令役の男の目は
『
魔女を城へ連れて行く馬車は、イルミネーションに彩られたキラキラ馬車だ。
「時期的にですな」
特殊急襲部隊の兵士から説明を受けた。
魔女は、ため息しか出なかった。
森から出るなど、どのくらい振りだろうか。宅配もしてもらえるし、森の中で生活は事足りていたのだ。
馬車の窓から見える風景が、森が林になり、
魔女が前に見たときより、高層の建物が増えている。
(あの窓、ひとつひとつに、人の暮らしがあるのは何とも不思議な感じだ)
馬車は、城へ最短距離の城門をくぐった。
城の静かな裏手に馬車は留まった。馬車の扉が開く前に、魔女は黒いコートの
馬車の3段のステップを魔女が降りようとすると、伝令役の男が手を貸そうとしたが、ぷいと魔女は、そっぽを向いた。
両手に、アドベントカレンダーの小箱19個を大切に包んだ布包みを抱えていた。
ステップが見えなくて魔女は、つま先をさまよわせたので、伝令役の男は見かねて、「魔女さまに、おしゃべり椅子をお持ちしろ」と、若い兵士に指示した。
おしゃべり椅子というのは、御婦人用の椅子である。背もたれを高くし、貴婦人のボリュームのあるスカート用に、座面は前を広く、台形にしてある。
その椅子の背もたれ側を抱えて、若い兵士が走って来た。
「さ。魔女さま、お
魔女の
魔女は従うことにした。椅子の左右には若い兵士が、もうひとり追加されて、椅子を支えた。
空中に浮いた椅子に布包みをかかえた魔女は、ちょこんと腰かけた。
「ありがとう」
少し気恥ずかしく、魔女は伝令役の男に礼を言った。彼が安全靴を履いていたとはいえ、
特殊急襲部隊は魔女を乗せた椅子を掲げ、城の回廊を進んでいった。
「おや。お客人かな」
何個めかの曲がり角で白いひげの男が、一行に声をかけてきた。
魔女の座った椅子は床に降ろされ、兵士一同は白いひげの男に
(これは、エラい人だ)
魔女も、ぴょんと椅子から飛び降り、頭だけ、どうにか下げた。両手いっぱいの布包みを抱えているから、それで精一杯だ。
「小さきお客人。お名前をちょうだいできますかな」
白いひげの男は魔女に話しかけた。
「森の魔女でございます」
魔女は無難に答えた。実際、それで宅配も届く。白いひげの男は、困ったような笑みを浮かべた。
「
白いひげの男は、法務に関わっているのだろうと魔女は見た。味方にすると頼りになるが、敵にすると難儀なタイプだ。
「師匠の魔女から権利を受け継いでおります。ギルドには、〈クセっ毛の黒髪魔女〉で登録しております」
それで、「なら、よし」で終わるかと思ったら、「その荷は何じゃな。開いて見せよ」と、魔女が抱えている布包みを、白いひげの男は
「……アドベントカレンダーです」
魔女は、ちらりと布包みを開いて、
「よもやと思うが、不審物などを混ぜておらぬだろうな」
魔女が止める間もなく、白いひげの男は、小山の頂点にあった〈6〉の小箱を右手に取った。
「検分いたす」
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