2  〈1〉の箱に入っていたのは干しアンズ

 魔女は、商人から渡された金貨の入った小袋の重さを両手でたのしんだ後、キッチンの水がめのひとつの木蓋きぶたを開け、中に、じゃらじゃらと金貨を放った。水瓶みずがめのひとつが、魔女の金庫代わりだ。

 それから、居間に戻って暖炉にまきを足した。

 この冬の薪は家の外の薪棚まきだなに、たんと積み上げてある。甘いジャムや酸っぱいピクルス、魔女の好む白葡萄酒も地下室に貯えた。

 森は厳冬期には雪に閉ざされるが、氷河期にくらべれば春のようなものだと、師匠の昔話によればだ。


 魔女は冬が好きだ。

 雪が夜のうちに降って、晴れた朝が特に好きだ。

 家の中を暖炉の火であたためて、蜂蜜に漬けておいたショウガ入りの熱いお茶をすするのが好きだ。



〈12月1日〉


 今朝、魔女は自分用のアドベントカレンダーの1日めの小箱を開けた。

 今年の自分用のアドベントカレンダーは、小箱仕様にした。無作為に作られた藁色わらいろの小箱24個はピラミッド状に、暖炉の上に積んだ。

 魔女は、いちばん上にのせた、側面に〈1〉と金のインクで書かれた小箱をつまみあげたわけだ。

 薄紙にくるまれた干しアンズが、小箱から出て来た。すぐさま、魔女は薄紙をはがして、口に放り込んだ。干すことで変化した甘酸っぱい果肉の香りと、しっとりとした舌触りが、魔女の口中いっぱいに広がった。

(んん……、よい出来)

 これは、自身の商品管理の一環。

 毎年、必ず、自分用のアドベントカレンダーを、ひとつ作っておく。そして、このカレンダーを開けていく期間が、魔女の冬休みだ。仕事は火急の要件も受け合わない。冬休みなのだ。


 とにかく、24日までは冬休みだ。

 なのに、なんでか、次の日、魔女の家の扉を、どんどんと叩く者がいる。

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