第2話 子育て

「...」


 言われるがまま会長の家に着いて行くと、そこには1歳程度の赤ん坊と、山崎さんと呼ばれるおばさんがいた。


 会長の家は普通の1LDKのマンションであり、新しくも古くもないマンションであった。


「...えっと...すみません。色々と状況が飲み込めないんですが...」


 そもそもなんで告白をOKしてくれたのか?

というか、俺のこと覚えていてくれたんだ...。


 いや、そんなことよりこの子供は一体?


「ようこそ、我が家へ。あっ、山﨑さんありがとうございます」と、家にいたおばさんに声をかけると「いえいえ〜。それじゃあ、また明日来ますね〜」と、俺をニヤニヤと見ながらと帰って行った。


「まぁ、この子は私...の姉の子供なのよね。けど、姉は子供産んでそのまま亡くなっちゃってね...」と、子供の近くに置かれた遺影に目を向ける。


 少し大人びた感じの会長のような見た目の遺影がそこにあった。


「...そうだったんですね...それは...その...大変だったんですね」

「そうね。私にとって唯一の血縁が姉だけなの。それに姉はシングルマザーになる予定だったから、旦那が誰なのかも私は知らないの。それでも、姉が命を落としてでも産んだこの子を私は私の手で育てたいと思ったの。あっ、ちなみにさっきの山崎さんっていうのはベビーシッターの人ね。私が学校に行っている間は山﨑さんに見てもらってるの。姉の遺産があるからお金には余裕があるから」


 会長が1年近く休学して、結果留年となった理由がようやく判明した。

そういう事情があったんだ...。

って、いってもいきなり子供って...。

俺は子育ての経験なんてないぞ。


「...それで...あの...なんで俺の告白を受けてくれたんですか?」

「男手が欲しかったから。別に誰でもよかったのよ」

「...え?」


 そんな言葉に俺は思わず傷ついた。


 しかし、すぐに会長は「じょーだんよ。いや、半分本気だけど。小林くんはいい人だなって思ってたから。きっと、あのまま私が高校に通っていたら好きになっていたと思う。だから、OKしたの。けど、半分は本気で男手が欲しかったのよ」と、少し笑いながら言った。


 そうだ。会長はこういう人だった。

素直で、少し意地悪で、やっぱり優しい人。


「俺は...会長のそばにいられるなら...何でも嬉しいです。頼りにしてもらえるように頑張ります」

「ありがとう。頼りにしているわ。さて、まずは抱っこから始めてみる?」


 そういうと、彼女はスヤスヤと眠る赤ちゃんを持ち上げて、俺に抱っこするように促す。


 そして、見様見真似で赤ちゃんを抱っこするが、居心地が悪いのか、腕の中でモゾモゾと動く。


 なんとも愛らしい生物である。


 すると、すぐに泣き始めてしまい、何とか宥めようと困惑していると、そんな慌てふためく俺の姿を見てクスクスと笑う会長。


「ちょ、ど、どうすればいいですか!?」

「慌てすぎよ。ちょっと抱っこが不安定なのよね。もう少し、こうやって...。あぁ、もしかしてお腹減ったのかしら。それならミルクをあげなきゃね」


 そう言われて思わず会長の胸に目が行く。


 すると、視線に気づいたのか胸を押さえて「私は子供産んでから母乳は出ないわよ?付き合って早々そういう目で見られるのは困るわ」と、少し睨みながらそう言われる。


「ち、違います...!その...えっと...」

「まぁ、そういうのはもう少し関係を深めてからね」と、悪い笑みを浮かべて、そのままミルクを作り始める会長。


 まさか、会長とこんな関係になるなんて...。

そんなことを考えながら、俺は赤ちゃんを抱っこし続けるのであった。

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