13. 再会と衝突

偶然の出会い

とある日の午後、エリアスは硫黄を納品するために、プラハにある著名な錬金術師の研究所を訪れました。硫黄の需要は錬金術の世界で高く、彼の硫黄は質が良いと評判を得ていたため、ここにも定期的に足を運んでいたのです。

研究所に入ると、そこには見覚えのある姿がありました。金襴の衣を纏い、落ち着いた立ち振る舞いで談笑するのは、かつての兄弟子、レオナルド・アウリウス。

「エリアス。」

レオナルドが気づき、短く名前を呼んだ。彼の声には、かつての親しみがわずかに残っているようにも聞こえたが、どこか距離感を伴っていました。

エリアスは軽く頷いて応じました。「レオナルドさん。こんなところで会うとは思いませんでした。」

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話題が賢者の石へ

二人はその場の空気に促されるように、軽く世間話を交わしたが、ふと沈黙が訪れます。エリアスは納品の作業を終え、立ち去ろうとしたが、思い切ったように足を止めました。

「……レオナルドさん、一つだけ聞きたいことがあります。」

レオナルドが眉を上げ、こちらを振り返ります。「なんだい?」

エリアスは少し言いにくそうに目を伏せながら続けました。「……辰砂を、グレゴリウス様に処方した件です。あれは本当に安全なのですか?」

レオナルドの表情が一瞬だけ硬くなりました。「何を心配しているんだ?」

「事実として、水銀は危険な物質です。」エリアスはゆっくりと口を開いた。「師匠の言葉を覚えていますか?『事実と理論が喧嘩をしたら、事実が勝つ』と。もし辰砂が危険なものだとしたら、どんなに理論がそれを賢者の石だと語っても、それは事実には勝てない。」

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レオナルドの反論

レオナルドは少し鼻で笑うようにして答えました。「エリアス、君の心配は杞憂だ。事実として、辰砂はほとんど水に溶けない。飲用したとしても、体内に留まることなく排泄される。だから、危険はないんだ。」

「……でも。」エリアスは反論するように視線をレオナルドに向けます。「もし辰砂が燃やされたらどうしますか?そのときは毒性の強いガスが発生します。誰かが誤って火に近づけたら……」

その言葉を聞くと、レオナルドの目が冷たく光りました。「エリアス、そんな仮定の話に何の意味がある?貴重な賢者の石を燃やすような馬鹿者がいるとでも?」

「でも……」エリアスが言いかけたが、レオナルドは手を振って遮ります。

「君は実用的な研究をしているようだが、視野が狭すぎる。辰砂がもたらす恩恵を見逃しているだけだよ。それに、私の研究と結果がすべてを証明している。あとは君がどう解釈するかだ。」

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別れ

そのままレオナルドはエリアスに背を向け、軽く手を挙げて去っていきました。研究所の静寂の中に残されたエリアスは、彼の背中を見つめながら小さくため息をつきます。

「……理論と事実がぶつかり合うとき、どちらが本当に勝つのだろうか。」

エリアスは再び硫黄の袋を確認し、そっと研究所を後にしました。

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