12. 交差する意見

グレゴリウスの屋敷での再会

豪奢な装飾が施されたグレゴリウスの屋敷。広間では家族や近しい親族が集い、談笑が交わされていました。ルキウス・セレナスはその片隅で控えめに腰を下ろしていたのですが、扉の向こうから聞き慣れた声が聞こえました。

「叔父様、ご無沙汰しております。」

クラウディア・ヴァレンティアが微笑みを浮かべて現れ、ルキウスの前に座った。叔父と姪である二人は、アウグストゥス家を介して度々顔を合わせる間柄でした。

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レオナルドへの評価

話題は自然と、近頃のアウグストゥス家の話へと移りました。クラウディアは目を輝かせながら、レオナルドの業績を語り始めます。

「レオナルド先生、本当に素晴らしいわ。賢者の石と呼ぶ物質を完成させて、叔父様(グレゴリウス)に処方したなんて。先生の努力が認められて、これ以上ない成功よ。」

ルキウスは眉をひそめ、少し沈んだ声で答えました。「確かに成功と言えるかもしれない。だが、私はあの辰砂に不安を感じている。水銀を含む化合物だという事実を忘れてはならない。」

クラウディアは微かに首を傾げます。「でも、伯父様(グレゴリウス)はとても元気そうに見えるわ。むしろ以前より健康そうです。辰砂が本当に効果を発揮しているのではなくて?」

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ルキウスの懸念

ルキウスは口調を抑えながらも、懸念を強く主張しました。

「クラウディア、私も叔父上が元気そうに見えるのは理解している。だが、それが本当に辰砂の効果によるものか?それとも単なる心理的な影響かもしれない。水銀の毒性を知っているからこそ、私はどうしても安心できないんだ。」

クラウディアは少し考え込むように視線を落とし、それから穏やかに言いまた。「確かに水銀は扱い方を間違えると危険ね。でも、レオナルド先生ほどの錬金術師がそんな初歩的なミスをするとは思えないわ。伯父様が信頼している以上、私たちもその判断を信じるべきではないかしら?」

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意見の平行線

ルキウスは溜め息をつきながら、頭を横に振ります。「クラウディア、君がレオナルドを尊敬しているのは知っている。だが、彼の成功が本当に叔父上の健康を支えるものかどうかは、まだ分からないんだ。」

クラウディアもまた譲らない。「伯父様(グレゴリウス)は自分の判断でレオナルド先生を信じているのよ。それに、彼はあの賢者の石を完成させた。結果がすべてを証明していると思うわ。」

二人の言葉は平行線をたどり、どちらも相手を説得するには至りませんでした。重い沈黙が流れる中、クラウディアは少し困ったような表情を浮かべ、席を立ちます。

「伯父様(グレゴリウス)のところへ行くわ。またお話ししましょう、叔父様。」

ルキウスは軽く頷いたが、その視線はクラウディアを見ず、どこか遠くを見つめていた…

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気まずい別れ

クラウディアが去った後、ルキウスは一人静かに考え込みます。

「レオナルドが本当に賢者の石を完成させたのなら、それは素晴らしいことだ。だが、もし間違いなら……叔父上に取り返しのつかない影響が出るかもしれない。」

一方、クラウディアも心の中で小さな不安を感じていました。ルキウスの言葉は説得力があったのですが、それを認めることは、レオナルドへの信頼を揺るがすことになるからです。

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