11. ルキウスの懸念とユリウスの助言
グレゴリウスがレオナルドから「賢者の石」として辰砂を処方されたという噂が、アウグストゥス家の中で密かに広まり始めた頃。グレゴリウスの弟ルキウス・セレナスはその話を聞くなり、胸騒ぎを覚えました。辰砂が錬金術で重宝される物質であることは知っていたのですが、同時にそれが水銀の化合物であり、扱い方を誤れば毒性をもつことも知っていたからです。
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ルキウスの懸念
ルキウスはグレゴリウスに直接忠告することをためらいを感じました。尊敬する兄を否定するような行動は、アウグストゥス家の末席を預かる者として避けたいと思ったからです。とはいうものの、このまま放置するのも危険だと考えた彼は、家の「仲裁役」とも言える次兄のユリウスに相談を持ちかけることにしました。
プラハ市内のユリウスの邸宅を訪れたルキウスは、落ち着いた書斎に通されました。ユリウスは大きな机に座り、書類を整理していましが、ルキウスの深刻な表情に気づくと、手を止めて問いかけます。
「ルキウス、一体どうした?そんなに慌てた顔をして。」
ルキウスは慎重に言葉を選びながら口を開きます。「グレゴリウス兄さんに直接言うべきか迷っているのだが……あの、レオナルドが兄さんに辰砂を処方した件について、少し心配なんだ。」
ユリウスは少し眉をひそめました。「辰砂か。それがどうした?」
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危険性の指摘
ルキウスは身を乗り出し、低い声で言います。「辰砂は水銀の化合物だ。錬金術師たちはそれを賢者の石の一歩と称しているが、毒性があるのも事実だ。兄さんはレオナルドを信じているかもしれないが、水銀を体内に摂取するなんて……無謀すぎると思う。」
ユリウスは腕を組み、考え込むように視線を机の上に落としました。ルキウスの心配は一理あるが、グレゴリウスの判断を否定することが家内での波紋を呼ぶことも懸念されたからです。
「確かに、水銀の危険性については耳にしたことがある。」ユリウスはゆっくりと言葉を紡ぎます。「だが、兄さんも錬金術に関してはまったくの素人というわけじゃない。グレゴリウスほど慎重な男が、無茶な行動を取るとも思えないが……」
「だが、兄さんがレオナルドを盲信している可能性は?」ルキウスの声には焦りが滲んでいました。
ユリウスは小さく息をつき、彼を宥めるように続けました。「そういう可能性も否定はできない。しかし、今の段階では様子を見よう。兄さんが健康に害を受けた兆候があれば、その時に行動を起こせばいい。」
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ユリウスの助言
ルキウスは納得しきれない様子でしたが、ユリウスの理性的な口調に押される形で、ひとまず引き下がることにしました。
「……わかった。だが、もし兄さんの体調が悪化したら、そのときは全力で止めるべきだ。そのときは、あなたも協力してくれるだろうな?」
ユリウスは少し微笑みながら頷きます。「もちろんだ。兄さんが危険に晒されるようなことがあれば、家族として最善を尽くす。」
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場面の結末
相談を終えたルキウスはユリウスの書斎を後にしましたが、胸の不安は完全には消えません。彼は兄グレゴリウスへの忠告のタイミングを慎重に見極める覚悟を決めました。一方で、ユリウスは書類に戻りながらも、兄とレオナルドの関係が家全体にどのような影響を及ぼすかを案じていました。
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