10. 賢者の石の完成と栄光

レオナルドの発見

1676年のある夜、レオナルドは、研究室の炉の前でじっと反応の進行を見守っていました。坩堝の中には、深紅色に輝く辰砂が煮え立ち、かすかに水銀の匂いが漂っている…

「これだ……これが賢者の石だ。」

彼は、その物質に特別な工程を施し、色や性質を変化させることに成功していました。その結果、通常の辰砂とは異なる輝きを持つ物質が出来上がったのです。錬金術の伝統に基づき、この物質を「完全なる変成の鍵」として、グレゴリウス・アウグストゥスに捧げることを決意します。

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グレゴリウスへの処方

翌日、レオナルドはこの新しい物質を小瓶に詰め、アウグストゥス邸を訪れました。グレゴリウスはいつものように豪奢な書斎で待っており、レオナルドが到着すると興奮気味に声を上げました。

「レオナルド、君が持ってきたという賢者の石、見せてくれたまえ!」

レオナルドは恭しく頭を下げ、小瓶を慎重にテーブルに置いた。中には、深紅色の粉末が静かに輝いています。

「これが私の研究の成果です。賢者の石と呼ぶにふさわしい物質。これを少量摂取すれば、身体の不調を取り除き、若々しさを保つことができるでしょう。」

グレゴリウスは興味津々で小瓶を手に取り、その中身をじっくりと見つめました。そして、レオナルドの助言に従い、粉末を水に溶かして飲みました。

「……なるほど、なんと滑らかな味だ。」

薬効が即座に現れるわけではなかったのですが、グレゴリウスの表情には確信が宿っていました。心理的な効果からか、彼はその日以降、「体が軽くなり、頭が冴える」と感じるようになりました。

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報奨と名声

「レオナルド、君は私の期待以上の成果を上げた。」

後日、グレゴリウスはレオナルドを盛大に称賛し、彼に多額の報奨金を与えました。その金額は、研究室の拡張や新たな器具の購入が可能なほどで、レオナルドの生活は一層豊かになります。

さらに、グレゴリウスは社交界でもレオナルドの功績を広めました。

「彼こそ、賢者の石の秘密に最も近づいた錬金術師だ!」

この噂は錬金術師たちの間にも広がり、レオナルドの名声は一気に高くなります。多くの貴族や研究者が彼のもとを訪れ、研究の支援を申し出る者も現れました。

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レオナルドの心境

一方で、レオナルドは研究室で一人、深紅の粉末を見つめていました。グレゴリウスの体調改善が物質そのものの効果によるものか、それとも心理的な影響か――その確証は、彼自身も持っていなかったからです。

「これが本当に賢者の石なのか……?」

その問いが頭をよぎるたびに、彼は顔を曇らせました。ですが、成功を求めるパトロンの期待に応えるため、自分自身の疑念に蓋をすることにしました。

「これは賢者の石だ。私は成功した。賢者の石を作り出した錬金術師として、歴史に名を残す……」

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