9. 交差する視線

ある日の午後、エリアスは改良した石鹸を届けるため、クラウディアの薬草園を訪れていました。空は晴れ渡り、薬草園には乾燥中の薬草が風に揺れ、特有の香りが漂っている。エリアスは、用意してきた包みをしっかりと抱え、いつものようにクラウディアを探しました。

中庭の一角でクラウディアの姿を見つけたが、その隣には意外な人物が立っていたのです。錬金術師レオナルド・アウリウス――かつての兄弟子であり、今では貴族の庇護を受ける一流の錬金術師です。

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再会と対話

レオナルドがこちらを振り返り、エリアスの姿を認めると、一瞬その顔に微妙な表情が浮かびました。わずかに眉をひそめたその様子は、驚きと苛立ちの入り混じったものでした。

「エリアスか。久しぶりだね。」

声は穏やかだったが、その奥には皮肉めいた響きが含まれています。

エリアスは軽く頭を下げた。「レオナルドさん、お元気そうですね。」

レオナルドはクラウディアに手渡された石鹸の包みをちらりと見た後、冷たい笑みを浮かべて言います。

「君は、まだそんな仕事をしているのか。石鹸作りや配達で日銭を稼ぐとは……君ほどの才能を持ちながら、それで満足しているのか?」

その言葉には明らかに軽蔑が滲んでいた。しかし、エリアスは冷静に答えました。

「私は、自分にできることをやり、依頼主の期待に応えています。それが人々の役に立つのなら、何も恥ずかしいことはありません。」

その毅然とした態度に、レオナルドは少し驚いたようでしたが、すぐに鼻で笑いました。

「しかし、君はヒエロニムス・ファエウスの弟子だったのだろう?彼が君に託したのは石鹸作りではなかったはずだ。論文の一つでも書いて、名を残すべきじゃないか。」

エリアスは一瞬だけレオナルドの目を見つめたが、すぐに視線をそらし、静かに言います。

「論文を書くことも素晴らしいでしょう。でも、私には私のやり方があります。レオナルドさん、私は私の道を進みます。」

そう言うと、エリアスはクラウディアに石鹸の包みを渡し、挨拶を済ませると、その場を去りました。彼の背中は静かだったが、どこか力強さを感じさせるものがありました。

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レオナルドの感情

エリアスが去った後、クラウディアは沈黙を破るように口を開きます。

「彼の石鹸、素晴らしいものよ。診療所でも役立っているし、地域の農家も彼の硫黄製品を高く評価している。彼は彼なりの方法で、多くの人を助けているわ。」

しかし、レオナルドはそれを聞き流すように視線を反らし、小さくため息をついたのです。

「確かに彼は有能だ。だが、ヒエロニムスの弟子として、あの程度の生活で満足しているとは……失望だよ。」

レオナルドの目には、エリアスに対する軽蔑と苛立ちが浮かんでいました。かつて同じ師匠のもとで学んだ仲間でありながら、今や全く違う立場になっているエリアスの姿が、彼に奇妙な違和感を与えていました。レオナルドはつぶやきます。「彼は…本当にそれで満足なのか?それとも、自分の可能性を捨てたのか…?」


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エリアスの心境

一方で、工房に戻ったエリアスは、レオナルドとのやり取りを思い返していました。彼の言葉に傷つくことはなかったのですが、心の奥で微かな苛立ちを覚えていました。

「彼は相変わらずだな……人々の役に立つということが、そんなに価値のないことだと思っているのだろうか。」

エリアスは炉に火を入れ、次の石鹸作りに取り掛かりながら、自分の手で成し遂げられることに集中する決意を新たにしました。

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