自傷と快楽
3日前。
例えば自分を罰したい時、
刃物では傷つけられないような、消えない痣を増やしたい時、
私は、決まってホテルの同じ部屋を借りる。
そしていつもの『儀式』を行うのだ。
それは双眼鏡で、『彼』の部屋を覗く事。
カーテンの僅かな隙間から、
彼らが愛し合う様を覗くのだ。
白く両端を切りとられた、40センチの楽園で、彼と彼女が絡みあう様を、ただ見るのだ。
もちろん、思考は生きている。
殺そうと思っても、彼女の悦に浸る顔を見れば、嫌でも没入できるのだ。
だから、自分を殺したい時は、お願いしてカーテンを少し開けてもらっている。
私だったら、違うキスの仕方をするのに。
違う愛し方ができるのに。
なのに双眼鏡の向こう側は私が望んだようには絵が動いてくれない。
何が悲しくて、こんな惨めな夜を進んで過ごすことがあるか。
多分、私は根本的に、人と違うのだと思う。
もし私が……
もし私がこうじゃなかったら、ママを失望させずに済んだだろうか。
武藤さんにも悲しい思いをさせなくて済んだのだろうか。
2日と1時間20分前。
「え?」
「だから、させてやるよ。セックス」
「……誰とっすか?」
「美里」
田井中は思わずく口に含んだビールを吹き出した。
「汚ねえな!」
「ごめん! ごめん! え、冗談で言ってんすよね?」
「だって、しないと爆発しちゃうんだろ?田井中」
「そうっす。そうは言ったすけど、え、いいんすか?」
「いいよ だって爆発しちゃうんだろ?」
「……イカれてるっすねー。鬼畜っすね」
…… ……
○●○
22:50分
「大丈夫ですか?」
美里が声をかけると、大男は美里を見て、「はっ」とした表情を一瞬浮かべると、その瞳は見る見るうちに大粒の涙を溜めていく。
そして……
「触るな!!」
と浮ついた声で美里を振り解いて通り過ぎていった。
美里は何がなんだか訳がわからず呆然としていると、
「馬鹿野郎が」と大男が背中で喋った気がしたので、美里は振り向いて大男の方に振り返ったが、その姿は夜に溶け込んでいた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます