鬼人の子？ だと思ったらゴブリンでした。俺はまともな生活を手に入れるぞーッ‼

好感度

｢いでっ、いででで⁉｣

｢モーブがやられた！　なんだあの技⁉｣

｢なんなんだよこのゴブリン⁉｣

｢一人で突っ込むな！　また捕まるぞ！｣

　言い付けを守って魔法無しの縛りで戦っているのだが、なんだろうね。うちの村の子達と比べるとかなり弱い気がする。

｢ギヒヒ｣

｢くっそ！　離せったら！｣

｢また逃げた！｣

　俺は一人捕まえては関節技を決め、囲まれれば逃げるって戦法を続けている。俺に捕まった子には地味にダメージが蓄積していく。それを嫌って俺ばかりに集中するのも悪手だ。他のゴブリンが邪魔しに来る。

｢無駄に強いぞこの村のゴブリン⁉｣

｢チビ程じゃないけどコイツらも同じ技使ってくるぞ！｣

｢はあ、情けない｣

｢クロミ⁉　こ、こんなの俺達だけで勝てるんだよ！｣

｢ちんたらしすぎ。このまま任せてたら攻守交代の時間になっちゃうじゃん｣

　俺の元へとやって来たクール系美少女ちゃん。さっきまでやり合っていたモテないズなんかとは比べるまでもなく強いって分かる。

｢さっさと終わらせるから｣

｢ギ｣

　む。この感じ、身体強化の魔法は使えるみたいだな。腕とかつかんでも拘束まで持っていけないかもしれない。そもそもそんな事したらセクハラになるのでは……？　それはコンプラ的にまずいんじゃ。

｢チビター！　女の子だからって手加減しちゃだめだからねー！｣

｢けちょんけちょんにしちゃっていいんだよー！｣

｢ギィ……｣

　仕方ない。ここはLGBTQ以下省略 真拳奥義、心は女性なのよ！で切り抜けよう。私は女性だって自認しているから貴女を触ってもセクハラにはならないわ！

｢ギ⁉｣

｢こんなもの？｣

　くっ、拳を受け止められたか。でもそれを起点に、身体にへばり付いてあげるわ！　力の差を見せつけようと、すぐに反撃に移らなかったのが貴女の落ち度よ！

｢っ！　ちょっ、どこ触って……んんっ！｣

　唐突に響き渡った艶っぽい声に、他のゴブリンと戦っていた男子の視線が集中する。

｢あっ、やめっ、離しあはっ、アハハハ⁉　んぁっ！｣

　ちょっと変な声出さないでもらえます？　こっちはね、これでも真剣にやってるんですよ？

　くすぐりで魔力の制御を乱し、力が抜けた所を絞め上げる。

｢う、うわぁ｣

｢エッ……｣

｢くっ、早く助けないといけないのに動けねぇぜ｣

｢なんて恐ろしいゴブリンなんだ｣

　嘘つけ。絶対動けるだろお前ら。あとゴブリン、隙だらけなんだからさっさと攻撃しろよ。

　ったく、後はここをこうしてっと……。ほい完成。

｢はぁ……はぁ……えっ？　あれっ⁉｣

　ふふふ、動けまい。君の服を使って縛らせてもらった。

　力ずくで解いても良いが、その場合は覚悟することだ。今にも色々見えちゃいそうな格好から、全てをポロリする嵌めになるからな。

｢あ、うっ、こ、こっち見るなぁ……！｣

　涙目で男子を威嚇してるけど、それ逆効果なんじゃないかな。

　この子とモテないズの力関係から察するに、普段モテないズはまともに相手にされていないはず。

　その証拠に見てみろ。連中、完全にギャップ萌えにやられた顔してるやがるぜ。もうさ、本当に隙だらけじゃん？　頼むから攻撃しようぜうちのゴブリン共！

｢ガァ！｣

　おお、お前は舎弟君！　やっと攻撃再開してくれたか！

｢ふっ｣

｢ギィ⁉｣

　何っ、受け止められただと⁉　完全に惚けていた所に行われた背後からの奇襲だぞ？　そう簡単には防げない……なっ⁉　馬鹿なっ、モテないズから強い魔力の波動を感じるぞ⁉

｢安心しろクロミ｣

｢お前は俺達が守るから｣

｢は……？｣

｢目覚めたのさ、愛ってやつに｣

｢今の俺達は無敵だぜ？｣

　くっ、ギャップ萌えが効きすぎたか！

　その愛を向けられている当の本人からは、小声で｢えっ、きっしょ……｣とか言われてるが聞こえなくて良かったなお前ら！

　とは言えまずいぞ舎弟君、連中の戦闘力は数段跳ね上がったものとみて良い。死にたくなければお前も今ここで魔力制御を身につけるんだ！

｢クロミから離れろチビゴブリン！　はあっ！｣

｢ギィ！｣

｢お前ばっかりに良い格好はさせないぜ！　ホワァッ‼｣

　チィッ！　こいつら、ちょっと魔力が使えるようになったからって調子に乗りやがって！　本当ならなあ！　俺だって身体強化くらい使えるんだからな！

　やむを得ん、ここは手段を選ばず時間稼ぎに徹させてもらうぜ！

｢ギヒヒ｣

｢えっ、ちょっと⁉｣

｢なっ、クロミが！｣

｢おのれゴブリン！｣

　ふふん、この子の言葉で交代制で戦うルールだって知れたからな。交代の時間まで俺の盾になってもらおうか？

｢や、やめ！　見えちゃう、色々見えちゃうから！｣

｢く、くそお(棒)｣

｢なんてやつだー(棒)｣

｢許せねえぜ(棒)｣

　モテないズよ、貴様らが目覚めたその力は、断じて愛などではない！　ただのスケベパワーだ！　故に、エロの前には無力！　本能に従い、屈するがいいわ！　ハーッハッハッハ‼

｢最低だねチビタ｣

｢見損なったよチビタ｣

｢こっちくんなバーカ！｣

　戦いからは無事に生き延びる事ができたものの、村の女子からの好感度は地に落ちた。

｢感動したぜ｣

｢あれが芸術ってやつなんだね｣

｢これからは先生って呼ばせてくれ｣

　反対に、一部の男子からはとても良い笑顔で握手を求められたのだった。