ゴブリンの使い道

「オラァ‼」

「くたばれや‼」

「死にさらせェ‼」


 腰ミノスタイルにランクダウンしたゴブリンです。周りの人達がガチで殺しに来てます。辛いです。


「ギギャギャ!」

「ゴブッ!」

「グギャーッ‼」


 ゴブリンです。俺の事じゃなくて、彼らの事です。

 襲い来る鬼人達に負けじと果敢に突撃していきます。あれで有効なダメージを稼げているかは不明です。とても弱いです。


「ギィ……」

「待てやコラァ‼」

「チョロチョロすんなや!」

「ブッ潰したらァ‼」


 俺は何故か他のゴブリンよりも多くの人から狙われます。チビだからでしょうか?


「やっちゃえチビター!」

「手加減なんてしないで遠慮なくぶっ飛ばしちゃえー!」

「頑張れー!」


 違います。うちの村の女子からの応援のせいです。


「クソがッ‼ ゴブリンの癖によォ‼」

「調子乗ってんじゃねーぞ‼」


 哀しき非モテ鬼人君達が、文字通り鬼の形相で俺を殺そうとしてくるのです。気持ちは分からなくもないけど、ゴブリンなんかに嫉妬すんなよ……。


「はぁ……」


 どうしてこんな事をしているのか。それでは数時間前に遡ろう。


 ーー

 ーーーー

 ーーーーーー


「ギ、祭り?」

「そうだ。お前も参加してもらう」


 早朝、戦士長から突然そんな事を言われた。

 お祭りですって。屋台とかあるかな? 小遣いはいくら持っていこうか。そうワクワクしながら出掛ける準備をしていると、荷物を没収された。


「ギィ、何故……?」


 それだけに留まらず、服も剥ぎ取られたんですけど? 久しぶりの腰ミノスタイルは、全身スースーして落ち着かないぜ。


「すまんなゴブリン。お前はゴブリンだからよ、他のゴブリン達と同じ格好してもらわにゃならんのよ」

「まあ、祭りが終わったら返してやるから頑張れよ」

「期待してんぜ」

「ギィ……?」


 他のゴブリンも参加するのか。しかしお祭りだろう? ゴブリンが参加するような行事って何だ?


「チビタ。ついて来い」

「ギ」


 戦士長の後をついていくと、懐かしのルームメイト達が荷車に乗せられ勢揃いしていた。


「ギィ!」

「ゴブ」

「グギャ?」

「ギャギャ!」


 おかしい、目の錯覚か? 奴ら全員俺よりデカイんだが。まともな食事をしている俺より育ってるんだが⁉

 なんなの? あの芋虫のほうが栄養たっぷり詰まっているとでも言うのか⁉


「ぐぬぬ……」

「祭りの会場に着くまでに手懐けておけ」

「えっ……」

「元はボスだったんだ、そう時間は掛かるまい?」


 これ、俺も乗るんで? バッチいから嫌なんですけど⁉


「ギイ!」

「グギャギャ!」


 一人だけ折の外にいる俺が羨ましいのか、ゴブリン達は歯を剥いて威嚇してくる。比較的ヒエラルキーの高いゴブリンなんかは鼻で嗤ってきやがった。

 ほーん? ふーん? お前ら俺に一回も勝てなかった癖に、随分な態度じゃねーの。この荷車に乗るのは決定事項のようだし、先ずは挨拶代わりに綺麗にしてやろう。


「ギャ⁉」

「ゴババババ⁉」

「ギイ! ギイ⁉」


 檻の外から最大水量で放水する。ほーれほれ、どうだ綺麗になったか? なんだ、まだまだ汚えなオイ。さあ、もう一回いってみよーか!


「ヒィ……」

「ギャ、ギャア……」


 ん、こんなもんかな。結構綺麗になった気がする。

 扉を開け、悠々と中に入る。ゴブリン達は再度放水されるのを恐れてか、檻の端に固まって俺の側には近づいて来ない。お祭り会場までの道中は快適に過ごせそうだね。


「ギ?」

「グギャ!」


 そんな中、一匹のゴブリンが近づいて来た。瞳に敵意は無く、むしろキラキラと輝いているようだ。


「ニッ」


 何処に隠し持っていたのか、笑顔で芋虫を差し出してくるゴブリン。

 ああ、誰かと思えば俺の舎弟一号君じゃないか。お前も元から大きめだったけど、更にデカくなったもんだな。

 ふーん? 俺が柵からいなくなってからもそれなりの地位にいたのか。今は二位なの? なかなかやるやん。

 え、芋虫? あー、そーね……。今は腹減ってないからまたの機会に貰うよ。いや、下に示しがつかないとか言われてもだな⁉


「ぬ、くっ……ウエッ」


 ううっ、ドロッと生臭クリーミー……。久しぶりに食べたけどやっぱ無理だわ。日々の食事の有り難みが身に染みるぜ……。

 元気を取り戻したゴブリンを再びシメたり、舎弟君にせがまれ魔法を教えたりしながら一時間程ドナドナされた頃。ようやく祭りの会場に到着した。

 ほーれお前達、キビキビ降りろ。そこ! 列乱してんじゃねー!


「グギャ……」

「ギィ……」

「ゴブ!」


 よしよし、全員良い子だ。放水は勘弁してやろう。


「ほう? よくここまで纏めたものだな」

「ギ、頑張った」


 実際は舎弟君のおかげで結構楽だったんだけどね。


「見ろ」

「ギ?」


 戦士長が見つめる方向には、巨大な石像が建っていた。


「あれが鬼神様の像だ」

「鬼神様……」


 鬼人族には通常二本の角が生えているが、鬼神様の像の角は四本だ。そして額には第三の眼が……。


 "ギョロ"


「ヒッ⁉」

「我らは古くから鬼神様に戦いを奉じて来たのだ」


 見てる! 戦士長! 鬼神様の額の眼がめっちゃこっち見てる‼


「今は子供達の初陣として……何だ?」

「あれ! あれ‼」

「ふむ、鬼神様のお姿がそんなに気に入ったか。やはりお前は村の一員として相応しいゴブリンのようだな」


 違う、そうじゃない! あの眼が動くのって、鬼人族の間では当たり前だったりするのか⁉ 絶対違うよね⁉

 てか何でずっとこっち見てんの? 他にもいっぱい人いるじゃん! ゴブリンだって選り取り見取りだよ⁉

 ん? いや待て。俺を見てるのかと思ったが、視線の位置が頭一つか二つ上なような……。


「うおッ⁉」


 ふりむくと、そこには半透明のダグ・ボルムスのボスがいた。まさかずっとこいつに取り憑かれてたのか俺?

 最近細かい幽霊を見ないので、霊感は勘違いだったのかと思ったのだが……大物にビビって近くに寄って来なかったんだな。

 多少威圧感はあるものの、ずっと背後にいる分いきなり目の前に現れる幽霊達よりマシかもしれない。

 鬼神様の視線は気になるが、実害もないししばらく様子をみよう。


「ああ、それから。魔法を使うのは禁止だからな」

「えっ」

「生き残れば正式に村の一員として認められるだろう」

「ええっ⁉」



 ーー

 ーーーー

 ーーーーーー


 はい。と言う訳で、鬼人族の子供達の初陣を兼ねたゴブリンぶっ殺し祭りに参加しているのでした!

 鬼神様ショックで細かいルールを聞き逃してしまったが、とりあえず子供達がゴブリンをぶっ殺せばポイントが入るってのは分かった。

 気が引けるが、俺も死にたくはないので反撃させてもらう。怪我して泣いても文句言うなよな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る