女子会
「緊急会議です!」
「連行しまーす!」
「な、何⁉ いきなり何なのよ!」
背後から突如襲来した双子に確保され、ルリはとても混乱している。
「ルリちゃんさあ、チビタにプレゼント上げたでしょ?」
「お花の刺繍した可愛い袋でさ?」
「なっ⁉ ち、違うから! あれはただのお礼だし!」
「まだ何も言ってないよ?」
「ふふふ、焦っちゃって可愛いなーもー」
「うにゅにゅ……!」
双子に両脇を固められ、ルリが連行された先には同年代の女子が既に集まっていた。
「なんで皆集まってるの……?」
「それはほら、せっかくお仕置き期間が終わったんだし皆で遊ぼうと思って」
「村中走り回って私達が声掛けといたの。ルリちゃんが最後だったんだよねー」
おやつもあるよ!と座るように促され、大人しく座るルリ。
「そんでね、ルリちゃんがチビタに上げたプレゼントなんだけど」
「待って⁉ なんで言っちゃうの!」
「へー。ルリちゃんアカメちゃん達のとこのゴブリンにプレゼントなんてあげたんだ」
「ルリちゃんゴブリン嫌いだったよねなんで?」
「あ、だ、だからあれは……!」
ルリを興味津々で取り囲む。羞恥心で顔に血が昇ってくるのを感じながら、必死に言い訳をしようとするルリ。しかしその両者を双子が制止する。
「ストーップ!」
「ルリちゃんが困っちゃうでしょ!」
「……」
こいつらどの口がとイラッとするもルリは口に出すのを我慢した。あれこれ聞かれるよりはましだからだ。
「あのね、正直うちのチビタは優良物件だと思うの」
「うんうん。ダグ・ボルムスも倒しちゃうくらいだし」
ふふーんとドヤ顔で自慢を始める双子。周囲の子も、同調するようにゴブリンを持ち上げ始める。
「男子達と比べてなんか大人っぽいよね」
「新しい遊びも教えてくれるし」
「お仕事も真面目にしてるもんね」
ゴブリンとは思えない高評価が続く。もっともその意見の最後には、必ずゴブリンじゃなかったら良かったのにねと続くのだが。
「ね、ルリちゃん。皆結構チビタのこと好きだからそんなに恥ずかしがる事ないよ?」
「そーだよルリちゃん。嫌いだったからって意地張ってると仲良くなれないよ?」
「違うから! 私は本当に助けてくれたお礼がしたかっただけで‼」
「あ、そうそうそれ!」
「話がそれちゃったけど伝えなきゃいけない事があったの!」
「な、何よ……」
急に真面目な表情になった双子に手を握られ、ルリは戸惑う。
「落ち着いて聞いてルリちゃん」
「心を強くもってねルリちゃん」
「本当に何なの……?」
双子は一度顔を見合わせると頷き、ルリにある事実を告げるのだった。
「あのねルリちゃん。あのプレゼントなんだけど、たぶんクッキーだよね?」
「そ、そうだけど……」
「ルリちゃん。チビタ、真っ黒コゲだったから食べ物だって認識してなかったの」
「えっ……?」
「ちなみに私も一瞬何かわからなかった」
「もうちょっとお料理の練習しよ?」
せっかく恥ずかしさを我慢して、勇気を出して渡した手作りクッキー。それがまさか食べ物とすら認識されていなかったとは思いもしなかったルリは、真っ白に燃え尽きた灰のように色を失い、口からは魂が抜け出ている。
「はへぇ……」
「あちゃー。ルリちゃん、しっかりー!」
「おーい、帰ってこーい!」
「ねえ、そんなに酷かったの? そのクッキー」
「プレゼントだよ? さすがに言う程酷くなかったんじゃない?」
「ううん。ほぼ炭だったよ」
「地味にすごいのがね、ちゃんとした炭みたいに硬かったんだよ」
「「「うわぁ……」」」
「うっ、うう……どうせ私はお料理下手だもん……」
「ああっ! ルリちゃんが泣いちゃった⁉」
「だ、大丈夫だよ! これから皆で練習しよ⁉ ねっ‼」
いじけたルリを全員で慰め、一番近くの子の家に移動してお菓子作りの練習をする事に。
「あらあら、女の子皆で集まってお料理の練習かい? アタシも手伝ったげようか」
「平気だからお母ちゃんはあっち行ってて!」
「はいはい、片付けもちゃんとするんだよー?」
「わかってるってば!」
「ありがとねおばちゃん」
「分かんないとこあったら聞き行くねー」
「よーし、それじゃ始めよっか!」
一先ず、全員各々でクッキーを作ってみる事に。
「ふんふふーん。あれ、ボロボロだ……」
「見て見て! これ上手くなーい?」
「生焼けじゃん」
「……私のはちゃんと焼けてるわよね」
「だからそれコゲてるってば!」
「うーん……」
「これは酷い……」
結果、誰一人としてまともなクッキーを作ることは出来なかった。
「これは不味いね」
「スイーツへの冒涜だね」
「誰も作れないとは思わないじゃん……」
「良かったねルリちゃん、皆下手っピだよ!」
「嬉しくない……」
ハア……とため息が誰ともなく漏れ出る。
「まさか私達にはゴブリン以下のお料理スキルしかなかったなんて……」
「ううっ、チビタのオネーさんとしての威厳が……」
がっくりと床に手を付き落ち込む双子。ゴブリン本人が今の発言を聞けば、姉……?と困惑することだろう。
「えっ、チビタってお料理まで出来るの⁉」
「うん。毎日自分のご飯作ってるし」
「なんか見たこと無い料理作るんだけどね、これがまた美味しいんだよねー」
「私達はこの前初めて食べたんだけどさ、それまでヤトだけチビタのご飯食べに行ってたんだよ?」
「ズルいよねー? あんな美味しいの独り占めしてたんだよ⁉」
「もっと早く知りたかったー!」
ゴブリンの料理に夢中な双子に、他のメンバーはちょっと引き気味だ。
「そ、そんなに美味しいの……?」
「片付け終わったら家来てみる? そんなに量作ってない日でも、味見くらいならさせてくれるよ」
「でもゴブリンの手作りって……」
「ちょっと食べるの勇気いるよね……」
「平気だよ! うちのチビタは綺麗好きなんだから!」
「毎日水浴びしてるんだよ! 村のおっちゃん達なんかよりずっと清潔なんだから!」
双子の言葉に、それもそうかと一同は双子の家へ向かう事に決めた。
「ギィ……?」
双子の家の庭では、ゴブリンが料理をしていた。ぞろぞろ連れだってやって来た女子集団を不思議そうに見ていたが、ゴブリンはすぐに料理に戻った。
「本当に作ってるね」
「すっごい手慣れてる……」
「ダグ・ボルムスを倒せて、魔法も得意で、お料理も出来る……ゴブリンなこと以外男子はチビタに勝ち目ないね」
ヒソヒソと話し合う女子集団。料理に集中するゴブリンは、自信に訪れたプチモテ期に気付いていない。
「ただいまチビター!」
「今日は何作ってるのー?」
「ギ、すった芋と野菜を混ぜて焼いてみた」
「おー、美味しそうだね!」
「ねーチビタ?」
「あげないぞ……ギィ⁉」
お好み焼きのような物が乗った皿を背に隠すゴブリン。いつの間にか女子集団に囲まれているではないか。
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから!」
「いいでしょチビター?」
「お願い! 代わりにクッキーあげるから、ね?」
「ギィ……」
渡されるクッキーが全て失敗作だとは知らずに、渋々皿を差し出すゴブリン。なかなかの自信作だったようで、切り分けられて行くのを悲しげに見つめている。
「ギ! 大きすぎ!」
「えー、こんなにちっちゃいと味分からないじゃん」
「私達のお夕飯も分けてあげるからさ、もうちょっと大きくしていいでしょ?」
「ギィ……」
双子とゴブリンの協議の結果、最終的に女子集団は料理の半分を手に入れたのだった。
「じゃ、じゃあ食べよっか」
「う、うん」
「緊張してきたかも……」
見た目は美味しそうな料理、しかしそれはゴブリンの手作りだ。ゴブリンが清潔にしているのは分かっていても、いざ食べる段階になってみると殆どが躊躇ってしまう。
「そんな身構える事ないのにねー。んー、美味しい!」
「やるねチビタ! 後で母様に作り方教えてあげてよ!」
「ギ、わかった」
美味しそうに頬張る双子の姿につられ、一人、また一人と食べ始める。
「わっ、ふわふわしてる!」
「本当に美味しい……!」
「お母さんの料理より美味しいかも……」
「すごいねこれ」
呑気にゴブリンを褒める双子、それを尻目に全員が危機感を抱いていた。これは本格的に女子力を高めなくては不味いかもしれない、と。
いずれ成長し結婚した際、そのパートナーからこのレベルの料理と比較されるかもしれない。チビタが特別なのは分かるが、それはそれとしてゴブリン以下の料理しか作れないと噂されるのは我慢ならない。
「チビタごめん、そのクッキー返してもらうね」
「えっ……」
「私のも」
「えっ、えっ⁉」
「私も、昼間渡した分も合わせて返して」
「あれもクッキーだったのか⁉」
「うぐっ……! ちゃ、ちゃんとしたのが作れるようになったら持ってくるから‼」
若干一名大きなダメージを受けながらも、失敗作のクッキーをゴブリンから回収し去って行く少女達。渡すなら、きちんとした物を渡さねばならない。
彼女達は失敗作のクッキーを無理矢理食べながら、その不味さに誓う。いずれこのゴブリンを越える腕前を手にしてみせる、と。ここに、打倒ゴブリン同盟が発足されたのだった。
「いったい、なんだったんだ……」
「さあ? もぐもぐ」
「急にどしうしたんだろうね? もにゅもにゅ」
「ギ? ああっ、俺の分までッ⁉」
「はっ、美味しくってつい!」
「わわ、チビタごめーん!」
今日も鬼人の村は平和なのでした。
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