お礼のプレゼント

「お外だー!」

「自由だー!」

「「いぇーい‼」」


 謹慎期間を終え、ついに双子ちゃんは檻から解放された。この一週間の鬱憤を晴らすように、ひたすら村中を走り回っている。元気だねぇ。


「ようゴブリン、新しいナイフ頼むぜ」

「ギ」


 子供達を守った事で人権を得た俺は、現在武器屋のような事をしている。商品はもちろん石のナイフだ。

 金属製の物と比べて切れ味に劣るのに、何故か追加で欲しがる連中が多いのを不思議に思い戦士長に理由を聞いてみたところ、意外な答えが返ってきた。

 なんと俺の作ったナイフは、通常の物より魔力で強化しやすいのだそうだ。普通、武器に魔力で強化施す場合、素材の相性が悪かったり、抵抗が発生したりして上手く強化が乗らない事が多いんだとか。

 お高い素材をふんだんに使って作られたような武器ならいざ知らず、そこら辺で簡単に買えるような武器への強化は、ベテランの戦士であっても大きな効果は期待できないそうな。

 そんななか、俺の作った石のナイフは魔力がすんなり通り、強化の幅も悪くないときた。元の性能は低くても、強化によって市販の性能を上回る事が出来るので、予備を含めて欲しがる戦士が後をたたないのだ。

 俺も無意識の内に強化は使っていたんだろう。じゃなきゃこんなちんけなナイフが、あの頑丈なボスの毛皮を突破して突き刺さる筈ないもんな。

 何故俺の作った石のナイフがそんな便利な性能になったのか考える。おそらく魔法で作ったのが原因だろう。一度魔力でぐにゃぐにゃにしてから形をつくるので、魔力が通り易い構造になるんだと思う。


「ん、今回のもいい出来だな」

「ギ、まいどー」


 ペットから村の一員に昇格した事で、仕事で貰える報酬もアップした。今は身の回りの物を揃えるべく、稼ぎを貯めている。

 やっぱり一度布団で寝てしまうと、藁の寝床では満足出来ない。眠るのが大好きな俺としては、快適な睡眠時間を過ごしたいので寝具の入手は最優先事項だ。


「ギィ……」


 指先に火を灯す。この魔法もそこそこ使えるようになってきたので、そろそろ風呂の作成に動くべきかもしれない。

 水も火も魔法で揃えられるのだから、後は場所を確保するだけで作成に取り掛かれはするのだが、今でも俺はペット時代と変わらず戦士長の家の庭に建てられた小屋で暮らしている。風呂のために庭を使わせてもらうには、ハードな交渉が必要になるだろう。

 交渉が上手くいったとしても上手く浴槽を作れるかは分からないし、排水とかも考えなくちゃならないので時間が掛かる案件だ。暖かい内に終わらせて、寒い時期に備えたい。四季があるのかは知らんけどね。


「あ、あの……!」 

「ギ?」

「こ、この前は助けてくれてありがと!」

「ギィ……?」


 誰だっけこの子? 双子ちゃんの友達の一人なのは知ってるが、名前までは浮かんでこない。お礼を言ってくるって事は、あの時大人達の言い付けを破って森に遊びに出掛けた一人なんだろうな。


「これ、お礼だから! そ、それじゃ!」


 それだけ言って、風のように去って行く姿を見て思い出した。大人達を呼びに走っていたルリちゃんじゃないか。あの子はゴブリン嫌い派だったはずだが、それでもゴブリンにお礼を言えるなんて偉いじゃないの。ホーク君達男子も、ルリちゃんを見習って俺にお礼の品を貢ぐべきだと思う。

 はてさてプレゼントの中身は何かなーっと……?


「ギ、炭?」


 手渡された小袋の中には、円形の黒い物体が数個入っていた。これを何に使えと……?


「おっやおやー?」

「あっれれー?」


 うおっ⁉ びっくりした、いつの間に帰って来てたんだ双子ちゃん。


「チビタってばやるじゃーん!」

「隅におけないねーこのこのぉ!」

「グ、むにゅ……」


 ええい、顔をつつくな鬱陶しい!


「今のルリちゃんだよね?」

「チビタの事嫌がってたのに意外だよね」

「ね、ね、何貰ったのー?」

「見せて見せて!」

「ギ、これ。何に使うか分かるか?」

「……あー、ね?」

「……な、なんだろうねー?」


 ふむ? この反応、鬼人族特有の道具ではないっぽいな。ならアレかな、旅館とかで出される鍋の下に置いてある小さい火元になるアレ。名前知らんけどサイズ的にそれっぽく使えそうだし。最近の子供は変わった物をプレゼントにするんだなぁ。


(あれってたぶんクッキーだよね? アオメどうしよう、チビタ絶対に食べ物だって認識してないよ!)

(ルリちゃんがまさかあんなにお料理下手っピだったなんてね。私も食べ物だと思えないや)

「ギ、何か言ったか?」

「「なんでもないよ!」」

「ギィ……?」


 再び村へと走って行く双子ちゃん。あれだけ走ってまだ走るのか……。元気だなぁ。

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