狩り
泣き止んだ子供、ルリちゃんから話を聞いた俺は、更に多くの石で防具を形成しながら先へと進んでいた。
皆で大人達に内緒で森に来た子供達だったが、そろそろ帰ろうとした所をあの獣の群れに襲われたらしい。
獣の群れに反撃しつつ、なんとか逃げようとした子供達だが、獣の方が一枚上手だった。村へと逃げていた筈が、森の更に奥地へと誘導されていたのだ。
徐々に消耗していく中で、その事に気がついた子供達は賭けにでた。魔法を使える者が全力で隙を作り出し、自分達の中で最も足の速いルリちゃんに村への救援を託したのだ。
残念ながらルリちゃんは途中で獣の餌食になりかけていたが、俺がいたのでギリギリ助かったってのがさっきまでの流れになる。
現在ルリちゃんには引き続き村へ走ってもらっている。帰り道に他の脅威がいないとは限らないが、あの獣の群れが彷徨いた影響が残っている今の森なら比較的安全だろう。一番の脅威が離れてるんだからな。
まあ、そんな脅威の元に俺は自ら進んでいるんだが……。防具だけじゃ心許ない気がするので、武器もいくつか作っておく。
ナイフの様に時間を掛けて形を整えている暇はないので、突き刺す事しか出来ないが杭で我慢しておこう。
「ッ!」
獣の吠える音、そして子供の声が聞こえて来た。近い!
「来んな! どっか行け! どっか行けよーっ‼」
「助けてよーおとーさーん!」
「泣くなバカ! きっとルリが助けを呼んでくるんだ、それまで耐えないと」
目算で三メートル程の高さにある大木のうろの中、子供達は飛びかかってくる獣をどうにか撃退しながら救援を待っていた。
あれならわざわざ俺が来なくても、大人達が来るまで持ちそうだな……ッ⁉
「でっか……」
一匹だけ規格外に大きいのがいる。普通の獣共の三倍はあろう巨体、おそらくはあれが群れのボスだ。チビな俺なんかは、一口でペロリと食われかねない。
教育のつもりなのだろう、仲間が狩りをする様子を静かに眺めている。アレが
「フーッ……」
幸い、俺はまだ気付かれてはいない。奇襲は可能だ。可能なんだが……殺れる気がまるでしない!
本格的にアレが参戦してくる前に、雑魚の数減らす方が現実的か?
極度の緊張に脂汗が滲んできた。そのせいだろうか──。
「……」
「ギッ⁉」
見られた⁉ 眼が合った! 気付かれた‼
「クソが!」
勢いに任せ、手近な一匹を葬り去る。杭もなかなか有効なようで嬉しい限りだ!
「石のバケモノ……?」
「ゴーレムか⁉」
「いや、違うぞあれ!」
「チビタ⁉」
「助けに来てくれたの⁉」
「無茶だ! 逃げろゴブリン‼」
うっせえ! 無茶は承知の上、ガキ置いて逃げる訳にはいかんだろうが! そもそも石の防具を外して逃げても、絶対に追い付かれるんだから戦う方がマシだっての!
「グルル……」
「ギヒ……!」
ボスの冷たい視線が俺を射貫く。それと同時に子分共が俺に標的を移し、隙を伺うようにゆっくりと俺を取り囲むように動き出す。本当、おっかないったらありゃしないぜ。あんまりな戦力差に思わず笑いが込み上げてくるぜ。
獣の数はボスを含めて三十弱。牙が石の防具を突破できないのは既に実証済み。武器も有効。大丈夫、一匹一匹殺して行けば俺は死なない。転倒にだけは気を付けろ。押さえ込まれればその時点で詰みだと思え。後は包囲が完成する前に手薄な場所を!
「らあッ‼」
チッ、避けられた! 身体強化ありでもこの重量じゃさすがに瞬発力に欠けるか!
「ガアアア‼」
「シィッ!」
俺の攻撃を引き金に、獣達も襲いかかってきた。
俺は背後をとられないよう、木を背にしながら反撃を繰り返す。
「クッ……!」
「チビターッ‼」
石の防具は爪も牙も通さないが、それ以外の部位はそうもいかない。獣に群がられ、徐々に傷が増えていく。
「ギ、ガァ‼」
それでも死な安の精神で、半数近くを削ってやった。
しっかし可哀想だなお前ら。ボスが動いてりゃ死なずに済んだってのによお? パワハラ上司を持つと大変だなァ⁉
「フーッ、フーッ……ギ?」
獣共の動きが変わった? いや、違う!
『ハハ、ボス戦突入ってか……』
思わず前世の言葉が漏れ出る。
不甲斐ない手下を下がらせて、ボスが自ら俺を仕留めに動きだす。
『上等だよこんちくしょうめ……!』
ナメプしてるうちにブッ殺してやるから覚悟しやがれ‼
そんな俺の気合いは、たったの一撃で砕かれた。
「カハッ……⁉」
巨体を生かした獣のタックルは、石の防具でかなりの重量がある筈の俺を容易に吹き飛ばした。
「う、うぅ……ギ、ペッ!」
クッソ速え。あの巨体でよくあんなスピードが出せるもんだぜ。もう勝てるビジョンがまったく浮かばん。
でも生きてんぜ俺、超偉いね! その調子でさっさと立ち上がって、一矢報いるくらいはしてやろうや。
「は……?」
魔物、モンスター、魔獣。ファンタジー世界でそれらが何故普通の動物と区別されると思う?
俺はぶっちゃけその答えを知らなかったんだが、目の前の獣がその答えを示してくれた。
「ま、ほう……?」
魔法、或いはそれに準ずる特殊能力。それらを有するからこそ、奴らはそう区別されるのだろう。
暗く黒い闇が、形を成して俺を縛る。
「ギ、グガッ!」
四方八方から伸びる闇に締め上げられ、身動き一つとることが出来ない。
獲物を食らわんと無慈悲に迫る獣の大口。俺は動けないまま、それを睨み続けた。
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