再会
何故か普通に許された。
最低でもゴブリン達の住む柵の中に戻されるくらいの覚悟はしていたのだが、これが日頃の行いってやつだろう。
何故か胸に吸収されていった塗料も、別段身体に悪影響が出るような事もなく、いたって健康なゴブリンのままである。鬼人の血で覚醒!とかされても困ったろうけどね。
しかしそれとは別に困った事がある。自棄食いしてしまったせいで、貯めていた食料がほぼ空になっているのだ。森にもまだ入れないってのに、こいつは一大事だぜ。
なので森の中以外でのおやつ回収スポットの開拓を急ぎたいのだが、双子ちゃんに拘束されていて出掛けられない。
「ダメでしょチビタ! お出掛けしたら捕まっちゃうよ!」
「そーだよチビタ! もう変な事したらダメなんだからね!」
「ギィ……」
身体強化の練習は、変な事に分類されるらしい。知らんかったぜ。
双子の美少女に両脇を固められているこの絵面は、ともすれば羨ましく映るかもしれない。しかし忘れてはならない、鬼人は力がデフォルトで強いのだ。感情が少々昂っていらっしゃるお嬢様方は力の加減をお忘れになられているようで、身体強化で対抗していなければ貧弱なゴブリンの細腕なんぞは簡単にポッキリ折れている所なのです。
ねえ、そろそろ離してくれない? 身体中からさ、ミシミシって音が聞こえるんだよ。実は身体強化でも耐えられてないんじゃないかなこれ⁉
「んー?」
おおヤト君! 良いところに来てくれた! 君の姉ちゃん達をひっぺがすの手伝ってくれ!
「たー!」
「ぐえぇ……⁉」
引っ付き虫が更に増えた。しかも顔面に張り付かれてしまっては、息をするのもままならない。
違うんだヤト君! これはそういう遊びじゃなくてだな! うっ、くっ、さ、酸素を……! 俺に酸素を吸わせてくれぇ……‼
「あっ……」
「チビタ……?」
「うにゅ?」
死因、酸欠による窒息死。グッバイ、皆。短い間だったけど楽しかったぜ!
来世はまともな人生が送れると信じて、俺は黄泉路へと旅立つのだった。
おお、そこにいるのは亀じゃないか! なんか久し振りだなぁ。俺はてっきりお前もペットの一員として飼われるもんだと思ってたからさ、甲羅だけになった姿を見て背筋が凍ったもんだよ。次は俺の番かもしれないってな。
え、俺? まさか! 食われる訳ないだろう、ゴブリンだぞ?
へへ、子供は無邪気に残酷なもんだからよ、ちょっと加減間違われてこの様よ。せっかく奴隷紋無くなっても許されたってのに、こんなマヌケな死に方するなんざ本当嫌になるぜ。
それにしても亀よ、お前は足が本当に遅いよな。お前が死んでからもう一週間は経つってのに、まだこんな所にいるんだもんよ。ちんたらしてるとそのうち悪霊になっちまうぞ?
別に急ぐ理由がないって? おバカ、世の中には輪廻転生ってのがあってだな……。
「てい!」
「カハッ……⁉」
亀と談笑していたら、突然何かに猛烈な勢いで引っ張られた。
いきなり何だってんだまったく。うっ、気持ち悪ぃ……。
「ふぅ……ギリギリ間に合ったわね。ヤト、もうお顔に張り付いたらダメよ?」
「ちー、めんめんちゃい……」
「ほら、泣いてないでアカメもアオメもチビタちゃんに謝りなさい」
「ごべん"ね"チビター!」
「許じでチビター!」
「ギ、ギィ……?」
ママさんに子供達。状況から考えるに、ママさんが俺を蘇生してくれたってことだよな。
「身体は大丈夫チビタちゃん?」
「ギ、平気」
「窒息して息をしていなかったのと比べれば些細な事なんだけどね、あなた全身の骨がヒビだらけだったのよ? 本当に娘達がごめんなさいね」
マジかよ。臨死体験のせいかまだ頭がクラクラして気分が悪いが、身体に痛みは特に無い。
たぶんママさんが治してくれたんだよな。白鬼の回復魔法ってスゲー。
次は回復魔法の練習するのもアリだな。才能あるかは分からんが、使えたらかなり便利そうだ。
「チビター……」
「無視しないでよぉ……」
おっとぉ。双子ちゃんに返事を返すのが遅れたら、メンヘラ化しかけているではないか。よくないですねー。
「やっぱり怒ってる……?」
「許してかれない……?」
「ギ、気にしてない。生きてるから平気」
「「チビター!」」
「ぐえぇ……⁉」
ええい、抱き付くんじゃねぇ⁉ 抱き付いてくるんならちっとは力抑えろってんだよ! また全身ヒビだらけになったらどうしてくれるメスガキども!
「こーら。またチビタちゃんがボロボロになっちゃうでしょ? 許して貰えて嬉しいのは分かるけど離してあげなさい」
「はーい……」
「むー……」
サンキューマッマ、助かったやで。次行商人が来た時、お礼に一番出来の良いアクセサリーを献上すると勝手に誓わせてもらうぜ。
そうだ、亀の墓に野菜でも供えてやろう。
俺は結局生き返っちまったが、また会えて嬉しかったぜ。でもできれば次に会うのは、当分先であってほしいもんだけどな!
空を見上げると、サムズアップした半透明亀のが浮かんでいた。
……たぶん、何かの見間違いだろう。
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