親子のふれあい
速報! 俺氏、畑仕事を免除される! やったね!
商品作りの仕事が正式に決まったので、肉体労働とはおさらばである。朝の水汲みも魔法で済ませてるから、本当に楽になったもんだよ。
そうそう。魔力制御が上手くなったのか、ようやく火も出せるようになったんだ。
「ふんふんふーん、ギヒ」
どんどん快適な生活になっていく。やっぱり魔法って最高だぜ!
「ジトー」
「ブスー」
「……ギィ」
背後から感じる双子ちゃんの無言の圧力。俺にアクセサリーを作らせる気満々だったのに、それが貰えないと分かってからずっとだ。
「ギ、遊び行かないのか?」
「ふーんだ。意地悪なチビタには関係ないでしょ」
「つーんだ。ケチなチビタには関係ないでしょ」
「ギィ……」
なら俺の背後に張り付くのだけでも止めない? 気が散ってしょうがないんだが……。
「あーあ、可愛いの作って貰おうと思ったのにぃ」
「ねー! 母様だけずるいよねー?」
「「チビタが作ってくれたらなー……」」
だからダメだってば。契約違反したら捕まるんだぞ? 変わりにおもちゃで我慢しなさい。
「えー、おもちゃあ……?」
「私達そんなに子供じゃないんだけど……」
水切りしてはしゃいでるような奴が言っても、説得力皆無だ。
「何これ?」
「石の輪っか?」
「ギ。頭良くないと外せない」
今回作ったのは、シンプルな作りの知恵の輪である。難易度で言うと星一つあるかどうかってところかね?
「ふん、こんなの簡単だし……あれ?」
「違うよアカメ、こっちから……あれぇ?」
「ごゆっくりー」
これで解けるまで静かになるだろう。さあ、今のうちにアクセサリー作りを進めてしまおうか。
アクセサリーに嵌め込む宝石部分は、次に行商人が来るのを待たねばならない。だがそれまでに本体部分を完成させておけば、加工もスムーズに行えるって訳よ。
「戻ったぞ」
「あ、父様!」
「お帰りなさい!」
「ギ」
今日はいつもと比べるとずいぶん早い帰りだが、何かあったのだろうか?
「どうも山奥にドラゴンが住み着いたようだ。そのせいで森が騒がしい。お前達、騒ぎが収まるまで森には入るな」
「えー⁉」
「遊び行っちゃダメなのー?」
「駄目だ。ゴブリン、お前もだ」
「ギ、わかった」
ドラゴンかぁ。やっぱりいるんだなぁ、さっすが異世界。
「む? また何か作ったのか……」
「ギ、知恵の輪。頭良くないと外せない」
「そーなの! これ全然とれないんだよ!」
「ねー、父様ならとれる?」
「ん……ほら」
「ええっ⁉ どうやったの!」
「簡単にとれちゃった……」
あっさりとクリアしたように見えるが、製作者である俺の目は誤魔化せない。
「ギ、壊した……」
「えっ?」
「そうなの父様?」
「……」
不正を感じさせないスムーズな動作でのパワープレイは、石にヒビを入れることもなく行われた。しかし不正の証拠として、石が削れて出来た粉が手にしっかりと付着している。
「ズル、ダメ」
そう言って、予備で作っておいた物を差し出す。
「……む、ぬ」
「父様……」
「格好悪い……」
カチャカチャと弄り回すも、知恵の輪は一向に外れない。娘達からの失望の眼差しに耐えかねたのか、俺を睨んでくる。
「これは、本当に外れる物なのか……?」
「ギ」
もちろんですとも。ゴブリン、ウソツカナイ。
知恵の輪を受け取り、サクッと外し、また元の状態に戻す。ね? 簡単でしょ?
「……魔法は使っていないな」
使う訳ないじゃん……。
「不思議ー。どうやったの?」
「チビタ、教えてー!」
「ぬぅ……」
娘達からの尊敬をゴブリンなんかに奪われ苦い顔をするご主人様。
ごめんて。そんなつもりは無かったんだよ。
「とー、あそぼ」
「あ、ああ」
ご主人様の帰宅に気がついたヤト君がやって来た。俺に何か言いたげだったが、ご主人様は一先ずヤト君と遊んであげることにしたようだ。
……ハッ⁉ ま、待ったご主人! ヤト君の誘いに乗ってはいけない!
「……これも知らんな」
「しょーぶね」
ヤト君の手には、当然のようにコマが握られている。あれを渡してから数日、ヤト君は様々な技を考案し、今では魔法無しの戦いであっても油断できない程のファイターへと成長を遂げている。
このまま戦えば、主人の威厳が再び失墜してしまう‼
「しゅー!」
「……」
くっ、一度勝負が始まってしまったからにはもう止められん。もう俺には、奇跡が起こるのを信じて見守る以外にとれる手は無い。
「やった! とれたよー!」
「ちょっとチビタ、見てなかったでしょ!」
「ギ、やめ、勝負が見れない……」
八角形に溝のある知恵の輪レベル2を囮に、双子の拘束から抜け出す。
どうなった⁉
「へっ」
「ぬぅ……」
奇跡は起こらず、ヤト君の勝利。
なんて野郎だ、初心者相手に手加減無しかよ! 許せん‼
えっ、鏡を見ろ? やだなぁ、ゴブリンがそんな高価な物持ってる訳ないだろ。
待ってろご主人、今からこの新作コマ、名付けてマッドホイーラーで敵を討ってやるぜ!
「とやー!」
「ギェーッ!」
「なんなんだこれは……」
魔法も使ったガチ対戦にご主人様は圧倒され、少し寝込んだ。
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