お勉強1

 ホーク君との戦いで、魔力制御の感覚を掴んだ双子ちゃん。あの日から魔力方面の修行が始まったようで、俺は自由な時間が増えていた。


「ギハーッ!」


 本日はちょっびっとだけ分けて貰えた仙木茸を直火で炙り、優雅なおやつタイム中である。さすが子供達が絶賛するだけあり、転生してからこんなに旨味の強い物を食ったのは初めてな俺は、感動で思わず叫んでしまった。


「モニュモニュ……」


 こんな旨い物、直ぐに呑み込んじゃ勿体無い。味がしなくなるまで噛み続けなくては。くぅ、いつかこいつを腹一杯食ってみたいもんだぜ。


「ング、ギ……?」


 うっすらと魔力の気配を感じる。方角的に、子供達の修行場だろう。

 自己流の瞑想で、俺はなんとか安定して魔力の気配を感じとることが可能になっていた。何故か自分の魔力よりも他人の魔力の方が感知しやすいようで、外の気配に紛れて内の気配の把握が遅々として進まない。自力で操作なんて夢のまた夢である。

 やはりまとも知識もない自己流では、こんな程度が限界なんだろう。今から修行場に近づいて、こっそりどんな事をしているのか覗き見たい所ではあるんだが……。


「ギィ……」


 かってに出歩いたら怒られる気がする。今は許されているが、ちょっと瞑想してただけでご主人様から掴み上げられた過去を俺は忘れていない。殺気マシマシで睨まれるような、あんな寿命が縮む思いはしたくないわなぁ。うっ、思い出したら胃が痛くなってきたぜ……。


「だぁ」

「ギ?」


 おっとこれは珍しい。弟君じゃないか。普段はママさんに抱かれているのに、いつの間にか一人で歩けるようになったんだな。裸足だけど平気?


「んま!」

「ギ……」


 俺の首から延びているリードを掴んで引っ張る弟君。俺を連れて散歩に出かける気らしい。

 ど、どうしよう。さすがに止めた方がいい気はするのだが、抵抗すると奴隷紋が作動してしまう。

 悩んでいる間も弟君は進み続ける。彼の歩みを止める者は、残念ながら現れない。俺は流れに身を任せることにした。


「あーう」


 ずんずん進む弟君。道すがら、いい感じの枝もゲットしてご機嫌である。俺にも微妙な枝を一本くれた。

 普段なら絶対に大人の一人や二人に出くわしそうなものなのだが、今日に限って誰とも出くわさない。


「んばぁ」


 そうしている内に辿り着いたのは、俺からすると嬉しいことに修行場だった。何か気になる物でも見つけたのか、到着するや否や俺のリードから手を放し去って行く弟君。待て、それはまずい! 弟君がいなくては、ここにいる大義名分が失われてしまう!


「あれー? なんでチビタがいるの?」

「父様に怒られちゃうよー?」

「ギ! アレ、捕マエル!」

「んー? わっ、ヤトが歩いてる!」

「もうここまで一人で歩けるの? すごーい!」

「あぶ? んま!」


 姉の存在に気付いたようで、ニコニコしながら戻ってくる弟君。ヤトって名前だったのね、

 君。


「アカメ、アオメ。何を騒いでおるんじゃ? そろそろ休憩も終わるぞ」

「あ、コクヨウ爺ちゃん。ほら見てみて!」

「ヤトがもう歩いてるの!」

「ほう? これはまたヤンチャな子に育ちそうじゃのう」

「だぅ」


 このモジャ髭は……俺に奴隷紋を刻んだ呪術使いの爺さんだな。この人が子供達の先生をしているのか。


「む? このゴブリンは何処から逃げ出して来たんじゃ?」

「わあ! 待って待って! 違うよコクヨウ爺ちゃん! チビタはうちの子だから」

「ヤトがここまで引っ張って来ちゃったの! 奴隷紋あるから止められなかったんだって」

「おお、そうじゃったそうじゃった。とすると、このままヤト坊を帰す訳にもいかんの。ふーむ……せっかくじゃ、お前さんも授業に参加してみるか?」

「あい!」

「ホホホ。わしはゴブリンの方に聞いたつもりなんじゃがの。まあヤト坊もやる気のようじゃし、まとめて参加でええじゃろ」


 おおラッキー。これで俺も魔法に一歩近づける。ヤト君に感謝だね。

 修行場の隅には椅子が並べられていて、ホーク君達がいた。それ以外にも数人の子供が座っている。


「お? アカメん所のゴブリンじゃん」

「キノコ分けて貰えたかー?」

「ギ、旨カッタ」


 この前知り合った男子達は平然と話かけてくるが、女子は嫌そうにこっちを見ている。ゴブリンに忌避感のない双子ちゃんは、どうやら特殊なようだ。


「さて、今回は見学もおるからの。基本的なことからおさらいしていこうかの」

「「「「「はーい」」」」」

「知っての通り、魔力とは万物に宿っておる。それらを無意識のうちに使える者もおるが……きちんと使いこなす為には、自分の魔力を認識せねばならん。認識ののち、制御を身に付けて初めて術と成せるのじゃ」

「へへん! オレ様はもう出来るぜ!」

「うむ、その歳で立派なもんじゃ。どれホーク、前に出て皆に強化の術を見せてあげなさい」

「おう」


 ドヤ顔で歩み出るホーク君。この前双子ちゃんに負けたのを感じさせないドヤっぷりだ。


「いくぜ、ハッ!」

「うむ、結構。今ホークの使っている術、これは魔力を使える者が扱う術の中でも基礎中の基礎にあたる。一般的に身体強化と呼ばれる術じゃな。この術は、魔法を使えんような戦士でも使える者は多くいる」


 術を使うホーク君に見た目の変化はない。前に立たせた意味はあるんだろうか?

「さて、魔力を感知出来る者は何人いたかの? 出来る者は手を上げて……む、ゴブリンよ。お前さんも出来るのか」

「ギ、出来ル」

「そういやアカメ達より早くホークが術使ってんのに気付いてたなコイツ」

「マジで? ゴブリン以下なのかよ俺……」

「ふふーん! うちのチビタはすごいんだから!」

「火起こしだって一人で出来ちゃうんだよ!」

「だう!」


 双子ちゃんはともかく、あんまり絡みのないヤト君まで自慢気である。雰囲気で喜んでるだけかもしれない。


「ゴホン、話がずれたの。魔力が感知出来る者はホークの魔力に集中するように。どうじゃ、魔力の揺らぎを感じるじゃろう」

「うーん。なんとなく分かるような、わかんないような……」

「魔力使ってるって感じはするかも」

「うむ。その感覚こそが魔力の揺らぎじゃな。このように、術を使用すると使用者の魔力は揺らぐ。魔力の揺らぎは他者に術の使用を悟られるだけでなく、戦場でなら敵に、狩りでなら獲物に自身の居場所を知られる事にも繋がる。なので魔力制御の制度を磨き上げ、揺らぎを少なく術を使えるようにならねばならんのじゃ」


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